ドS勇者の王道殺し ~邪悪な本性はどうやら死んでも治らないみたいなので、転生先では自重しないで好きなように生きようと思います~
ドS勇者の企み
「ハァ……ハァ……」
「くっ……ふぅ……」
僕とティーシャの吐息が夜闇の寒気で白く染まっていく。
全速力で駆け抜けた僕たちは、森の中で立ち止まった。
息を整えながら後ろを振り返る。
そこに何もついてきていないことを確認すると、示し合わせるでもなく互いの目を見つめて……。
「よっしゃー!」
「振り切りましたっ!」
笑顔でハイタッチした。
「いや、まさか、国境を全速力で、駆け抜けることに、なるとは思わなゲッホゲホゲッホ!!」
「ユエル様っ、大丈夫ですか!?」
「う、うん、ごめん。唾が変なとこ入った……」
肉体労働は嫌いなんだけど……これからは体も鍛えないと駄目だな、ホントに。
これから先、生き残れる気がしないや。
「無事にクアナガル、ですね」
「うん。一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなったね」
いやはや、勇者のギフトに慢心していたな。
できれば、こういうアドリブは一度きりにしたい。
「そういえば……ユエル様は勇者として、これからどういう活動をされるおつもりなんですか?」
「ん? とりま魔王を倒すってところを最終地点に置いてるよ。ただ、今のところはレベル上げかな」
マインドベンダーのレベル上げにはギフトを使う必要がある。
ティーシャには当たり障りのない回答を返しておいたけど『できるだけギフトを使っても問題なさそうなあと腐れのない連中を探して回る』と言い換えてもいい。
ギフトを使う相手も親類縁者が一人もいない、僕に何かされても復讐心を抱かないっていうのが理想だけど……人と人っていうのは意外なところで繋がっていたりするしなぁ。
自分から敵対する相手は慎重に選ばないと。
ま、既にアテはあるんだけどね。
「あ、そうだ! 言い忘れてたけど、僕が勇者だって情報は基本的に誰にも言わないでね」
「えっ、どうしてですか?」
「ティーシャにはその場のノリで言っちゃったけど、勇者だっていう情報を表に出すと僕の生存率が著しく下がるんだ」
「そうなんですかっ!?」
僕のギフトは守勢に回ったり、準備のできてないところに奇襲を仕掛けられると、びっくりするほど脆い。
さっきのゴーストたちがいい例だ。常に先手を取って情報で後手にならない状況をキープしてないといけない。
要するに僕個人を特定して狙ってくる連中がいたりすると、非常にまずいのだ。
そういう意味でも王国に合流して僕の名前が大々的に喧伝される、というのはリスクが高すぎる。
魔王の刺客にだって狙われまくるだろうしね。
もしそうなったら、絶対服従の護衛を常に侍らせるぐらいのことはしていただろうけど。
「わかりました! 絶対に言いません! えへへ……」
ティーシャの引き締まった表情が、にへらっと崩れる。
きっと「ユエル様が勇者だっていうのは、わたしとだけの秘密。えへへ……」とか考えてるんだろうな。
この子は全部顔に出る。わかりやすい。
「まずは街に向かおう。最初の目的地は『国境に一番近い街』だよ」
「そうですね。あ、森の中の案内なら、お任せください!」
うん、エルフでレンジャーだもんな。ティーシャならお手の物だろう。
アンデッド以外のほとんどの敵は《偽装》で誤魔化せるはずだし、道中は安全……だといいなぁ。
とにかくアンデッドには気を付けるとしよう。
クアナガル管理帝国はエルフの国だ。
街道なんてものはなく、ほとんどの領土が森林で構成されている。
エルフは森の民……なんて言えば聞こえはいいが、森の成長を自分たちに都合のいいように管理している独裁国家だ。
エルフ至上主義を掲げていて、それ以外の種族を蛮族と蔑んでいる。
石を投げられるぐらいならまだよくて、酷いと奴隷にされるらしい。
「ど、どうです? 純血のエルフに見えます?」
「見える見える。僕はどう?」
「はい。ユエル様もばっちりです!」
そういうわけで僕たちは《偽装》でエルフに変装した。
よっぽど観察されなければバレないはず。バレないといいなぁ。
そんな僕の心配をよそに、国境に一番近い街に到着した。
番兵にも見咎められずに街の入り口をくぐる。
とても疲れているので、すぐに宿を取った。
もちろんティーシャに一切気を遣わずに個室じゃなくて相部屋を選ぶ。
ティーシャがエッチな気分になっちゃったら、男として解消してあげるためです。
襲うつもりじゃないよ。ホントだよ?
「ティーシャがエルフ語を喋れて助かったよ」
「交易共通語でも通じますけど……確かにここではエルフ語で会話する方が自然ですもんね」
そうなんだよねー。
しばらく僕はここを活動拠点にしてレベル上げを行なうわけだし。
ティーシャから常用のエルフ語を習っておこう。
それに、この街にはしっかりとした目的があって来たのだ。
「いいかい、ティーシャ。僕はこれから奴隷商人に会いにいく」
「ど、奴隷商人ですか……」
「正確には仲買人だけどね。ほら、これ。あの山賊砦で見つけた日記と帳簿さ。ここに取引相手がばっちり書いてあるんだ。場所は『国境に一番近い街』……つまり、ここにいる」
「えっと。いったい、何のために?」
ティーシャからしてみれば勇者が奴隷商人に用があるとは思えないのだろう。
「ティーシャなら、どうしたい?」
「うーん……」
前と同じ問いかけを投げかけると、ティーシャは少しだけ首をかしげて考え込んだ。
「その……奴隷を解放してあげるとか?」
「それは駄目」
「ですよね」
ティーシャが短く嘆息したが、そんなに落ち込んではいないみたい。
無理筋だとわかって言ったらしい。
「もちろん気持ちはわかるよ。僕だって奴隷にされそうになったし。かわいそうな境遇の奴隷だってきっといるよね。でも『奴隷=かわいそう=解放』って図式は成り立たない。犯罪を犯して奴隷になった人だっているかもしれないし。そして、彼らひとりひとりに話を聞いたところで判断することは不可能だ。あとは、みなまで言わなくてもわかるよね」
「……はい」
奴隷だって助かりたい一心で耳障りのいい嘘を吐くかもしれない。
その場を乗り切るために罠にかけられた善人を装うかもしれない。
1日1回の《服従のギフト》を毎日使い続けて真実か確認する……なんて真似もできるかもしれないけど、当然そんな馬鹿なことはやらない。
「それならユエル様は、いったいどうされるおつもりなのですか?」
「簡単だよ」
そもそも僕は奴隷を助ける気なんてないのだ。
善人か悪人かなんて関係ない。
有罪か無罪かなんて興味ない。
でも手駒は欲しいし、活動資金も欲しい。
そう、だから。
「奴隷を全部、僕の所有物にするのさ」
「くっ……ふぅ……」
僕とティーシャの吐息が夜闇の寒気で白く染まっていく。
全速力で駆け抜けた僕たちは、森の中で立ち止まった。
息を整えながら後ろを振り返る。
そこに何もついてきていないことを確認すると、示し合わせるでもなく互いの目を見つめて……。
「よっしゃー!」
「振り切りましたっ!」
笑顔でハイタッチした。
「いや、まさか、国境を全速力で、駆け抜けることに、なるとは思わなゲッホゲホゲッホ!!」
「ユエル様っ、大丈夫ですか!?」
「う、うん、ごめん。唾が変なとこ入った……」
肉体労働は嫌いなんだけど……これからは体も鍛えないと駄目だな、ホントに。
これから先、生き残れる気がしないや。
「無事にクアナガル、ですね」
「うん。一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなったね」
いやはや、勇者のギフトに慢心していたな。
できれば、こういうアドリブは一度きりにしたい。
「そういえば……ユエル様は勇者として、これからどういう活動をされるおつもりなんですか?」
「ん? とりま魔王を倒すってところを最終地点に置いてるよ。ただ、今のところはレベル上げかな」
マインドベンダーのレベル上げにはギフトを使う必要がある。
ティーシャには当たり障りのない回答を返しておいたけど『できるだけギフトを使っても問題なさそうなあと腐れのない連中を探して回る』と言い換えてもいい。
ギフトを使う相手も親類縁者が一人もいない、僕に何かされても復讐心を抱かないっていうのが理想だけど……人と人っていうのは意外なところで繋がっていたりするしなぁ。
自分から敵対する相手は慎重に選ばないと。
ま、既にアテはあるんだけどね。
「あ、そうだ! 言い忘れてたけど、僕が勇者だって情報は基本的に誰にも言わないでね」
「えっ、どうしてですか?」
「ティーシャにはその場のノリで言っちゃったけど、勇者だっていう情報を表に出すと僕の生存率が著しく下がるんだ」
「そうなんですかっ!?」
僕のギフトは守勢に回ったり、準備のできてないところに奇襲を仕掛けられると、びっくりするほど脆い。
さっきのゴーストたちがいい例だ。常に先手を取って情報で後手にならない状況をキープしてないといけない。
要するに僕個人を特定して狙ってくる連中がいたりすると、非常にまずいのだ。
そういう意味でも王国に合流して僕の名前が大々的に喧伝される、というのはリスクが高すぎる。
魔王の刺客にだって狙われまくるだろうしね。
もしそうなったら、絶対服従の護衛を常に侍らせるぐらいのことはしていただろうけど。
「わかりました! 絶対に言いません! えへへ……」
ティーシャの引き締まった表情が、にへらっと崩れる。
きっと「ユエル様が勇者だっていうのは、わたしとだけの秘密。えへへ……」とか考えてるんだろうな。
この子は全部顔に出る。わかりやすい。
「まずは街に向かおう。最初の目的地は『国境に一番近い街』だよ」
「そうですね。あ、森の中の案内なら、お任せください!」
うん、エルフでレンジャーだもんな。ティーシャならお手の物だろう。
アンデッド以外のほとんどの敵は《偽装》で誤魔化せるはずだし、道中は安全……だといいなぁ。
とにかくアンデッドには気を付けるとしよう。
クアナガル管理帝国はエルフの国だ。
街道なんてものはなく、ほとんどの領土が森林で構成されている。
エルフは森の民……なんて言えば聞こえはいいが、森の成長を自分たちに都合のいいように管理している独裁国家だ。
エルフ至上主義を掲げていて、それ以外の種族を蛮族と蔑んでいる。
石を投げられるぐらいならまだよくて、酷いと奴隷にされるらしい。
「ど、どうです? 純血のエルフに見えます?」
「見える見える。僕はどう?」
「はい。ユエル様もばっちりです!」
そういうわけで僕たちは《偽装》でエルフに変装した。
よっぽど観察されなければバレないはず。バレないといいなぁ。
そんな僕の心配をよそに、国境に一番近い街に到着した。
番兵にも見咎められずに街の入り口をくぐる。
とても疲れているので、すぐに宿を取った。
もちろんティーシャに一切気を遣わずに個室じゃなくて相部屋を選ぶ。
ティーシャがエッチな気分になっちゃったら、男として解消してあげるためです。
襲うつもりじゃないよ。ホントだよ?
「ティーシャがエルフ語を喋れて助かったよ」
「交易共通語でも通じますけど……確かにここではエルフ語で会話する方が自然ですもんね」
そうなんだよねー。
しばらく僕はここを活動拠点にしてレベル上げを行なうわけだし。
ティーシャから常用のエルフ語を習っておこう。
それに、この街にはしっかりとした目的があって来たのだ。
「いいかい、ティーシャ。僕はこれから奴隷商人に会いにいく」
「ど、奴隷商人ですか……」
「正確には仲買人だけどね。ほら、これ。あの山賊砦で見つけた日記と帳簿さ。ここに取引相手がばっちり書いてあるんだ。場所は『国境に一番近い街』……つまり、ここにいる」
「えっと。いったい、何のために?」
ティーシャからしてみれば勇者が奴隷商人に用があるとは思えないのだろう。
「ティーシャなら、どうしたい?」
「うーん……」
前と同じ問いかけを投げかけると、ティーシャは少しだけ首をかしげて考え込んだ。
「その……奴隷を解放してあげるとか?」
「それは駄目」
「ですよね」
ティーシャが短く嘆息したが、そんなに落ち込んではいないみたい。
無理筋だとわかって言ったらしい。
「もちろん気持ちはわかるよ。僕だって奴隷にされそうになったし。かわいそうな境遇の奴隷だってきっといるよね。でも『奴隷=かわいそう=解放』って図式は成り立たない。犯罪を犯して奴隷になった人だっているかもしれないし。そして、彼らひとりひとりに話を聞いたところで判断することは不可能だ。あとは、みなまで言わなくてもわかるよね」
「……はい」
奴隷だって助かりたい一心で耳障りのいい嘘を吐くかもしれない。
その場を乗り切るために罠にかけられた善人を装うかもしれない。
1日1回の《服従のギフト》を毎日使い続けて真実か確認する……なんて真似もできるかもしれないけど、当然そんな馬鹿なことはやらない。
「それならユエル様は、いったいどうされるおつもりなのですか?」
「簡単だよ」
そもそも僕は奴隷を助ける気なんてないのだ。
善人か悪人かなんて関係ない。
有罪か無罪かなんて興味ない。
でも手駒は欲しいし、活動資金も欲しい。
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