ゴブリンロード

水鳥天

第47話 寝起


 砦へと向かうユウトとすれ違ったガラルドはわき目の振らず馬を走らせる。空中で突然態勢を崩した魔鳥に起こった何かをガラルドは見逃さなかった。

 異変を観測してからのガラルドの行動は素早い。一緒に城壁の上から見ていたヨーレンの言葉もそこそこに直ちに城壁から降りて馬の確保に走った。しかし馬は兵士優先で割り振られていたためガラルドは砦からの出足が遅れてしまう。ようやく借りることができた馬を駆り全力疾走をさせて河の対岸へ急いでいた。

 人だかりのできた魔鳥墜落現場を通り過ぎてそのまま直進し続ける。陽動作戦に使用された空飛ぶ樽が浮いていたがガラルドが近づくと力を失ったように落下した。対岸の砦の門もすでに開け放たれている。慌てた様子の女性が一人門から橋に出ていてすれ違うガラルドをにらみつけていたがガラルドは全く意に介さず砦へ飛び込んだ。

「小鬼殲滅ギルド、ギルドマスターのガラルドだ。街道側の門の通行許可を求む。
 緊急事態だ。責任は取る」

 砦の広場に集まる人々の注目を集めながら声をあげ、門は開けられ砦を後にする。街道を出てすぐに道を外れて河岸の方へと馬を走らせた。

 岸に近づくと馬から降り、元居た砦の城壁を見つめて自身がつけた目測の場所を観察する。ほどなくガラルドは見つけた。それは小さな足跡。ほんの少し前にできたものだとガラルドにはわかる。そしてそれが追い続けるゴブリンのものであるということも。



 ユウトは一人、宿泊所の二段ベッドの一段目で目を覚ます。この世界へとやってきて最も心地よく睡眠が取れた。仮眠を取った兵舎のベッドには劣るものの野営地の仮設のベッドに比べればずっと弾力がある。一仕事終えて緊張感から解放された感覚によってより一層寝心地をよくしてくれたのかもしれないとユウトは思った。

 閉じた窓から差し込む日の光の角度から正午が回ったくらいだろうかとユウトは予想する。ブランケットのように伸びたセブルはまだ小さく上下し寝息を立てていたがユウトの目覚めに気づいたのか平べったいブランケットにピンと一対の三角錐が立ち青い瞳が見開いた。

「おはようございます。ユウトさん。まだ寝ますか?」
「いや、一旦起きようと思う。疲れも十分とれてる」

 ユウトは起き上がりセブルは形を変えてユウトの首にマフラーのように巻き付く。その後ユウトの羽織ったマントのフードの縁に取り付き毛皮に擬態した。そしてユウトは魔剣と丸薬袋をもって靴をはき部屋を後にする。丸薬袋が小さくもぞっと動いたがユウトは気づくことはなった。

 階段を降り入り口前のカウンターを横切る。カウンターの中の主人はユウトを一瞥しお疲れさんと一言、声を発した。黙って通り過ぎようとしていたユウトは驚き店主の方へ振り替える。何事もなかったかのように書類仕事を続ける店主にユウトはなぜか思わずありがとう、と答えそのまま外に出た。

 外は今朝の戦いが嘘だったかのように活気にあふれている。しかしよく観察すると馬車が砦内で込み合っているようだった。橋に入る門で通過できる馬車の数を規制しているように見える。それでも活気があるのはユウトの気のせいではなく一般客用の食堂広間では席の多くが兵士たちで埋められていて盛り上がっているのは確かだった。

 ユウトは柱の影から食堂の様子を観察する。するとクロノワと中年の屈強な男性が台の上に上がり食堂内を見渡した。

 そしてクロノワが語り始める。

「皆今回の作戦ではよく働いてくれた。未知の魔鳥の監視や生体の調査、砦間の連絡は我々調査騎士団だけでは手に負えなかっただろう。
 調査騎士団へ指揮権をお貸しいただいたドーベン将軍と忠実に指示に従ってくれた君たちに調査騎士団を代表して礼を言いたい。ありがとう」

 クロノワの言葉に食堂内は盛り上がる。次に隣の男性、おそらくドーベン将軍なのだろうとユウトが予想した人物が話し出した。

「みんなご苦労!今回の魔物による襲撃を乗り越え、なんとか街道交通の要所である大橋砦の運営を続けることができた。
 そのお礼にと今回の騒動で居合わせたポートネス商会のラーラ殿から食料の寄付をしていただいている。存分に飲み食いしてくれ!夜勤の者、整備局員への分は取ってある遠慮するなよ!」

 兵士たちはクロノワの時以上の盛り上がりを見せる。クロノワ達の乗る台の横にはロングスカートにローブをまとった二十歳ぐらいに見える綺麗な女性が大きく手をあげてにこやかな笑顔で振っていた。

 挨拶も終わったようでクロノワとドーベンは台から降り兵士たちは賑やかに食事を始める。ユウトはそろそろ誰か見知った人を探して合流しようかと考えていた。

 その時背後にせまる人の気配を察知して振り返る。そこにはユウト達の乗る馬車の御者毛ランだった。殺意はなかったのでユウトも警戒するようなことはなかったが脅かせようと肩を叩こうとしていたケランは突然振り向いたユウトに逆に驚かされる。

「おおぅ、ユウト。今朝は大活躍だったらしいな。騎士さんと門から出ていくところまでは見たぞ」
「大したことはしていないよ。ちょっと手伝っただけだ」

 気恥ずかしさからかユウトは詳細を語らず、話をはぐらかした。

「いやいや。騎士と一緒に何かをできるってだけですごいんだぞ。もっと胸を張れ。
 それに今は規制されているとは言え物流を止めずに済んだのはとても意味がある。その役に立ったんだ。ほんとにありがたいよ」

 ケランは途中から真剣なまなざしでとうとうとユウトに語る。その様子にユウトは必死にやったかいがあった、誰かの助けになれたと嬉しくなった。

「そうか・・・オレもがんばれてよかったよ」

 ユウトは笑顔でケランに返答する。ケランもそれにこたえてかユウトの肩をばんばんとたたいた。

「よし!じゃあ俺たちも飯にしよう。今回は俺がおごりだ!」

 そう言ってケランはユウトの肩を組み強引に食堂へ入っていく。

「ま、待ってくれ!まずはガラルドたちと合流・・・」

 ユウトの言葉は食堂の活気に飲まれてケランには届かなかった。

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