ゴブリンロード

水鳥天

第43話 飛翔

 魔鳥の吐き続ける光帯の量も無限ではなく徐々にその出力を弱めてい記載後は振り絞るように出し尽くす。魔鳥はその動きを止めた。

 押さえつけられる圧力から解放されたセブルはその足取りを回復させ再び加速を始める。ディゼルは耐えきった。

 しかし肩で息をするディゼルはユウトから見て体力も魔力も消耗していることは明らかに伝わってくる。セブルは止まることを考えずもうすぐ前に魔鳥が迫った。

「あとはまかせろ」

 ユウトはつぶやき握った魔剣に力がこもる。魔鳥まであと少しというころ、先ほどまで静止していた魔鳥は突然動き出した。

 折りたたみ体を支えるように地面に下ろしていた翼を目一杯に広げ立ち上がる。迫るユウト達を威嚇するように大きく広げられた翼の内側、金属板の隙間から赤く輝く光のラインが浮かびあがると強い風が発生した。

 そして魔鳥は羽ばたきもせず宙に浮く。セブルが到達するあと少しのところで魔鳥は真上へ浮上した。

 魔鳥がいたはずの場所を通過するときユウトは魔鳥に届くまで魔剣の刃を伸ばして切りつける。刃の先端は魔鳥の装甲をなだただけで確かなダメージを与えることはなかった。

 効果的な攻撃を行うことはできず、セブルは踏ん張りスピードを落として静止する。空中に浮かび上がった魔鳥をユウト達は見上げた。

 魔鳥はある程度まで高度をとると動きを止める。そして安定せず翼を小刻みに調節しては全身をふらつかせていた。

 日の出とともに強まりだしていた風はその勢いを増し魔鳥を河下へ押し出す。魔鳥の位置は橋上から流され河の上空だった。

 ユウトは魔鳥の姿をよく観察する。片方の翼の光の輝きが不安定だった。そこはレナから放たれた魔槍によって傷を負った部分だったことを思い出す。

「飛び去ることはできないみたいだが・・・魔剣は届きそうか?」

 ディゼルはユウトへ尋ねる。

「ダメだ。伸ばせば届くと思うけど確実な損傷を与えられない。どうしたら・・・」

 ユウトは思考を巡らす。このまま魔鳥が何もしないまま飛び去る保証はない。こうして近づくことができるチャンスも今が最後かもしれない。何よりディゼルやセブルの頑張りを無駄にしたくなかった。

 今一度使える手札ユウトは思い起こす。ユウト自身、ディゼル、セブル、丸薬、魔術剣、魔術盾。一つ一つの要素の種から連想の根を伸ばし、組み合わせ、魔鳥へ致命的な一撃を与えるという目的にたどり着かせる発想の糸口を全力で探る。そして細く頼りない糸をユウトは掴んだ。

「ディゼル。魔術盾でオレを打ち出すことはできるか?」

 ユウトの突然の問いにディゼルは驚きユウトの方を向いた。突拍子もないことはユウトは承知している。波紋のように広がる力場のようなものを生成する魔術盾なら逆に収縮させることも可能ではないかと発想した結果だった。

「確かにできる。打ち出す衝撃に僕が耐えきれれば・・・セブルに体を固定してもらえればなんとかなるかもしれない」
「よし、時間はない。やろう」

 ユウトはディゼルと簡単に流れを打ち合わせする。セブルにはディゼルの体を地面へ固定させるよう指示をだした。



 城壁の上ではクロノワが渋い顔をしてユウト達の様子を見つめている。心配そうにヨーレンが声を出した。

「飛び上がれるほど回復の時間を与えてしまったんでしょうか」
「いや、完全に回復しきれてはいない。魔鳥を追い込んでいるのは確かだ」

 ヨーレンに対してクロノワが言葉を返す。

「あいつ等動き出した。何をするつもりなんだろ」

 レナも緊張した面持ちでユウト達の状況を声にあげる。

「なんにせよ。安全に事が済みそうにはないな。船の用意を」

 クロノワは傍らの兵士に指示をだした。

「・・・」

 ガラルドは黙ったまま表情も変えず静観し続けていた。



 ユウトは魔鳥とディゼルをつないだ直線上にディゼルから助走距離をとる。さらに丸薬を口に含んで飲み込んだ。

 セブルは体の側面で密着し流動する毛をまとわりつかせ、踏ん張る四肢は石畳の隙間を這うように毛を潜り込ませ固定させる。ディゼルは右手で盾を装備した左腕を握りユウトの方へ突き出す。

「来い!ユウト!」

 ディゼルが声をかける。ユウトはうなずき全力で走り出した。

 ディゼルの数歩手前でユウトは地を蹴り飛び上がる。構えられた盾に着地するような態勢でディゼルに迫った。

 ユウトが盾の前に迫ると同時に空間に同心円状の波が発生する。その波はこれまでの攻撃をいなす時と違い外から内側へと小さな波紋を発生し始めた。

 ユウトの足が波紋に触れる瞬間、大きな波が起こる。その波は中央で重なり激しい一波に膨れ上がるとユウトを魔鳥めがけてはじき飛ばした。



 ユウトが弾き飛ばされるのを見つめる二つの影。その影達はクロノワの砦の対岸の河岸にあった。

 木陰に身を隠しながら細身で体に不釣り合いな大きな頭を持った小人の影は棒を横に両手で持ち背中をまげて頬を添えている。そしてその棒の先端はもう一つの大きな卵の影の上に据えられていた。

 真っすぐ伸びた棒の先端が向いているのは空中を舞うユウトの方向だった。

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