世界樹とハネモノ少女 第一部

流川おるたな

対峙

 ダリガ山全般に言える事だが、山道は舗装されている場所は皆無で歩き辛い。
 それでも人がよく通る道は、土が踏まれて固く雑草も少なかったりして他の道よりも歩き易い。
 セトは動物などが利用する獣道を歩き、いつも利用している人の通る道を目指していた。
 その途中、道の傍らに1mほどの灰色の何かが転がっているのに気付く。
 近寄って確かめると、タヌー(狸系)と呼ばれる動物の死骸であった。
 死骸の肉と内臓の殆どが無くなっている。一昨日発見したレクルの親ポッサムと同じく無惨な姿だった。恐らく同一の捕食者であろう。
 この位置はポッサムの死骸があった場所より遥かに町に近い。
 セトは自分の中で禍々しい不安が膨らんでいくのを感じていた。
「パキッ」
 小枝の折れる音が背後から聴こえ慌てて振り返る。
 20mほど先の木の裏に怪しい影が蠢いて見えた。
 赤く光る目と視線とぶつかる。
 セトはゆっくりとバックパックに掛けてあった弓を構え、矢筒の矢を取りその影に狙いを定めた。
 ジーナがミアから訊いて話してくれた魔物の姿とほぼ一致する。
 周りが薄暗く見え難いが、ディルを二回りほど大きくした姿で目が赤く光っていた。
 魔物と対峙したのはこれが生まれて初めのセトは、狙いを定めつつ対処の方法を考えている。
「ヴァウッ!」
 素早い動きで魔物が走って突っ込んで来た!
 最初から狙いを定めていた頭に冷静に照準を合わせ矢を放つ。
「キャイン!」
 少しズレたが魔物の右目に命中し、魔物が地面に転がる。
 素早く次の矢を取り狙いを定め放つ。
 しかし今度は、魔物が横にジャンプして避けられ矢は空を切り地面に突き刺さった。
 魔物は移動した先から睨み付けている。
 セトは既に3本目の矢を取って狙いを定めている。
 数秒睨み合うと、諦めたのか魔物は森の中へ走って逃げていった。
「ふぅ、何とか命拾いしたな...」
 僅かな時間だったが、得体の知れない相手との攻防で身体の疲労感はピークに達していた。
 身体が重く感じ歩みは遅くなったが、魔物と遭遇した場所から1時間ほどで家に帰り着く。
 辺りはすっかり暗くなっていて、家の灯りを見たセトはホッと胸を撫で下ろした。
「お父さんお帰り〜!」
 玄関のドアを開けるとミアが走り寄って来てセトの足に抱きつく。
「あら、お帰りなさいあなた。今日は遅かったのね」
「ただいま。帰り道で珍しい動物を見かけて遅くなったんだよ」
 ミアの頭を撫でながら話す。
「その話は風呂に入って食事の時に話すよ」
「分かったわ。お湯は沸かしてあるから、ミアと一緒に入ってくださいな」
 

 

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