Life Changer

あまねゆたか

第六章 6

 悟の友人吉川はコンモン市役所の職員をしている。今日は休みらしく自宅へ招かれた。

「よう。やっちゃん。この人が昨日電話で話した兄貴の婚約者のRuriさん。」

「はじめまして。高原Ruriと申します。突然伺うことになり申し訳ございません。会っていただきありがとうございます。」

「いえ。悟がいなくなったなんて驚きました。まあ、玄関先ではなんですから中へどうぞ。康治もあがれよ。一緒に聞くんだろ。」

「おう。じゃあ上がらせてもらうよ。」

「おじゃまします。」

 二人は居間に通され、ソファをすすめられた。
 簡単な挨拶を終え、出されたお茶にRuriが口をつけると吉川が話し始めた。

「悟の行き先の心当たりということですが、悟がここを離れてから何回も会っていないので、正直今の悟の好みなんかはよく知らないなんです。高校まではよく一緒にいたので、その頃の話なら少しはできますけど、それでいいですか?」

「もちろん。悟さんの学生の頃の話をお聞きできるだけでもありがたいです。なにしろ私は知り合ってからまだ3ヶ月くらいですから。」

「3ヶ月?あの悟が知り合って3ヶ月の女性とお付き合いするなんて信じられないな。それほど女性には疎いやつだったんですよ。あいつが好きだった女の子は何人か知ってるけどいつも告白できないまま終わってた。そう言えば高原さんは悟が好きになった女の子たちに少し感じが似てるな?ほら康治。友田の嫁さんのみゆきちゃん。覚えてるか?悟が結構本気で好きになったんだけどやっぱり告白出来ず、友田とくっついちまった。あの時はだいぶショックを受けてたな。部屋にこもって暗い歌ばかり聞いてたって言ってた。」

「あ〜。あれは兄貴が高校2年の時かな1日部屋に閉じこもって出てこないんでみんな心配してた。あれはみゆきちゃんのことがショックだったからなんだ。今初めて知ったよ。」

「まあ、悟がみゆきちゃんに惚れてるのを知ってたのは俺くらいだと思う。そういう話は俺と二人だけの時くらいしかしてなかったし、あいつは好意を行動に表すような奴じゃなかったから。」

「悟さんの恋の話もっと聞きたいです。あっ、でも告白してないならその人たちは悟さんのことあまり知らないんでしょうね。」

「そうだね、普通のクラスメイトとしてしか見てないだろうね。まあ、知りたければ後で教えてあげるよ。でも、勝手に話したら悟が怒るかな?この話は今日はここまでにして、悟が見つかったら自分で聞いてみたら?」

「そうですね。興味はあるけど、この話はまたにします。それで、悟さんの行きそうなところって思いあたりますか?」

「そうだな。あいつとはよく自転車に乗ってそこら辺を走り回ってたな。当て所もなくグルグルと他愛ない話をしながら。」

「どんな話をしました?」

「テストの成績がどうだの、あいつは面白いやつだ、あいつのあそこは気に食わないだの、昨日見たテレビ番組のあそこは面白かった、あの番組に出ていたあのアイドルはかわいいだの、それこそ日常の出来事についてだったよ。」

「アイドル?その頃のアイドルってどなたですか?」

「あの頃は、俺も悟も坂田寛子にハマっていてシングルやアルバムが発売されるたびに聞き込んでああだこうだ話したな。懐かしい。そう言えばコンサートツアーでコンモンに来た時は一緒に見に行ったな。」

 吉川は遠くを見るように目を細めて斜め上を眺めている。表情はやわらかく悟との日々を懐かしんでいるようだ。

「へ〜。そんなこともあったんですね。アイドルにハマってる悟さんってあまり想像できないわ。お二人共その娘一筋だったんですか?」

 Ruriはアイドルの話に興味を惹かれたのか、さらにその話を聞きたがった。

「まあ、思春期なもんでその娘だけじゃなく、可愛い娘ならファンになったな。中谷陽菜とかも結構好きだった。悟はそれほど目移りしていなかったかな?坂田寛子の後は俺と同じで中谷陽菜も好きになったけど、歌の上手い娘がお気に入りだったな。そう言えば、Ruriさんも歌上手いですよね。昨日康治から話を聞いて、動画見ました。こんな綺麗な人とお付き合いできるなんて悟が羨ましいよ。」

「やっちゃんの奥さんだって綺麗じゃないか。ミス棚高だもんな。」

「うちのと比べちゃ、Ruriさんに失礼だろ。ねえ。」

「いえいえ、私なんかそんなでもないです。暗いし…。それより、他には何をなさっていたんですか?」

「二人とも運動は得意じゃないので、お互いの部屋で音楽聴いたり、美術館や博物館にも行ったな。」

「美術館!私たちケンダシティで出逢ったんです。ちょうど休暇で美術館や博物館巡りをしているところだったみたいです。私の体の具合が悪くて困っているところを助けてくれて知り合いました。見知らぬ私にとても優しくしてくれて、私…運命の出会いだと思っちゃって。猛アタックしちゃいました。」

 いきなり熱く語り出すRuriに康治と吉川は唖然としている。

「そういえば、兄貴とRuriさんの馴れ初めはまだ聞いてなかったね。兄貴が人助けなんてあんまりイメージがないけど、兄貴もRuriさんに感じるものがあったのかな?」

「そうなんです。きっと私たちは逢うべくして逢った。そう感じたんです。それなのに、いなくなっちゃうなんて。」

「なんか、Ruriさんさっきと感じが違ってきたね。こっちが本当のあなたかな?」

「それ悟さんにも言われました。どうも話しているうちにテンションが変わっちゃうみたいなんです。どっちも私です。」

「そう、悟にも言われたんだ。そんなことに気づくなんて、俺の知ってる悟と少し違うかもしれないね。まあ、あの頃から15年以上経ってるからな。まあ、俺の話せることはこれくらいかな。お役に立てたかな?」

「ええ。昔の話が今の悟さんにつながっていると確認できました。まだ、どこにいるのか見当もつかないけど、帰って聞いたお話を整理したいと思います。ありがとうございました。」

「思いついたことがあったらまた連絡しますね。」

 挨拶を終えて康治とRuriは帰路についた。

「Ruriさん。参考になったかな?」

「ええ。昔のお話を聞いて、私の知っている悟さんの姿が確認できました。後はその悟さんがどこへいくか予測することですね。」

「私たち身内でもなかなか思いつかないので、大変ですよ。」

「それでも、探さないと。じっとしてなんかいられません。戻ったら唯ちゃんにお別れをしてタカマシティに帰ります。来週悟さんが予約していた勤労省のカウンセラーに会おうと思ってます。」

 悟の故郷で話を聞いてRuriは一層悟を探さなければという気持ちになっていた。

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