零の英雄譚
2話 旅立ち
次の日の朝、僕たちは王都へと出発した。考えてみれば、僕はエイジス家の領土からほとんど出たことが無い。それに移動の際にはいつも馬車で護衛が何人もついてきてくれたからモンスターに襲われることはほとんど無かった。
隣を歩くシュナをちらりと見た。先日の火竜との一件から彼女の魔法の腕は信用しているが、魔法使いは後衛での戦闘が基本だ。素人に毛が生えた程度の剣しか振れない僕との二人旅ではかなり危険だろう。シュナから剣を借りたはいいが、不安は強く感じていた。しかし、その心配は杞憂に終わるのだった。
僕たちは森を抜けるまでに3回の戦闘を行った。
1度目の戦闘は1頭のシルバーウルフだった。危険度はDランク(駆け出し冒険者が数人で挑む相手)で、僕一人で相手をするのは少々荷が重い相手だが、僕が距離を詰めるよりも早く炎の槍が僕の頭上を越え、敵に突き刺さった。
2度目はポイズンスライム5匹、最弱のスライムとはいえ、毒が面倒な相手だ。危険度はEランク(駆け出し冒険者が一人で挑む相手)だが、数が多い。
「シュナ!右の3匹は何とか引き付けるよ!」
僕はそう言いつつ向かっていったが、1匹目を倒した時には他のスライムは倒されていた。
3度目はオーク2匹、危険度はDランクだがかなり力が強い魔物だ。しかしこの魔物もシュナが詠唱した途端に地面から伸びた岩石の槍によって串刺しにされた。
これまでの3度の戦闘から考えると僕っていらなくない?
「お疲れ、ロノア君。やっと森を抜けられたね。」
陽が傾いてきたころ、僕たちは森を抜けることができた。お疲れとは言いつつも彼女はまだまだ余裕そうだ。比べてこっちは疲労が溜まってきている。
森を抜けたところには今は使われていない小屋があった。ここを越えるとアルシュ地方の街に入ることになるが、できれば街に入らずに一息に隣の村へと向かいたい。アルシュ地方は今では裏切り者の貴族であるパルマルの領地だからだ。
僕はシュナにここでキャンプすることを提案した。
「ロノア君も少し疲れてるみたいだけど、それならアルシュに帰ってからの方がいいんじゃないかな?あと2時間も歩けば街に着くと思うけど。」
そうだった、彼女はまだ僕の状況については知らないんだ。ここで説明しないのも変に思われそうだし、伝えておいた方がいいだろう。
僕はシュナにこれまでの経緯を話した。
「それなら隣の村もあぶないかもしれないね。村の人はともかく、私兵が見回っているかもしれないし、ロノア君が逃げたことが伝わっているとしたら王都には行かれたくないって考えると思う。」
彼女の言うとおりだ。なら少し危険で日数もかかるが、アルシュ地方の街や村を迂回したルートで王都を目指すべきだろう。
とりあえず今日のところは小屋で一晩明かすことになった。小屋と言いつついくつ部屋があり、食器類も一式揃っている。シュナは自宅から持ってきていた干し肉と、森にあった薬草でスープを作ってくれた。明日からは食料の調達も考えなくては。
彼女の手料理を味わいながら僕たちは旅の初日を終えた。
夕飯後にはシュナから魔法を教わることになった。今まで教えてくれる人がいなかったが、この旅で必要になるかもしれないという彼女からの提案であった。
この日、僕は彼女に散々にしごきあげられ、死んだように眠りについたのだった。
続く
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