魔王学園の意義

「シルクさん、お疲れさまでした。本日の入学試験を無事に終えられたのは、貴方の御蔭おかげです。本当に感謝していますよ」

時刻は既に日付が変わろうかという時間帯。

入学試験の後始末も含めて、全ての作業を完遂かんすいした俺は、学園長室にてヴェノに労ねぎらわれていた。

今は俺とヴェノが向かい合って、応接セットに腰掛けている状態だ。

そして、奴やつの隣には当然のようにルクスリアが控えている。

魔界でも1、2を争うほど多忙たぼうな身なので、明日の早朝には王都に帰るらしいけど、まだ今は休暇中だから自由に動けるようだ。

とはいえ、自由の身になっても相変わらず魔王の世話を焼いているんだから、コイツの忠誠心も大したもんだよな。

「気にするな。ここのスタッフとして、当然の働きをしただけだからさ。そんな事より、もう合格者が決まったのか。たしか受験生への通知は来月だったよな？」

手元にある合格者リストをペラペラと捲めくり、流し読みしつつ、気になっていた事を尋ねる。

すると、ヴェノは用意されていた紅茶を口に含んで、コクリと頷うなずいた。

「えぇ、その通りです。しかし、1次試験を突破した時点で入学の資格は殆ほとんど備えていますからね。残りの試験と最後の面接は見落としを防ぐ意味合いで、補足として設定しているだけですから。それほど時間を掛ける必要は無いのですよ」

「なるほどな。……ところで、その選えりすぐりのエリート達の中には、問題児も何人か混じってるみたいだけど？」

俺の言葉に、ピクリと反応したルクスリア。

その頭に浮かんだ名前は、想像に難かたくない。

ガンマ・アークトゥルス。

アイネに心無い言葉を投げつけ、ルミナリエの怒りを買い、俺が灸きゅうを据すえた男。

その問題児の名前も、合格者リストにキッチリと記されていた。

「意外ですか？」

「2次と3次を通過したのは、まぁ予想の範囲内だ。見るからに脳筋タイプなアイツが筆記試験でも高得点を取ってたのは少し意外だったけどな。けど、最後の面接を担当したのは、お前自身だろ？　そこで落とす事も出来た筈はずなのに、そうしなかった。そこに、どんな思惑おもわくがあるのか興味はあるな」

魔王学園の存在意義は、革命派に対抗する戦力を育てるためという側面が強いが、当然それだけでは無い。

魔界の未来を担になう若者の選定と育成も、この学園の重要な役割だ。

つまり、ただ暴力に秀ひいでているだけの問題児では、その役目は務まらない。

ならば、いったい、どんな意図で彼の入学を認めたのか。

「別に、そんな大層な理由はありませんよ。私は魔王学園を、“ただ優等生を育てるだけの場”にしたく無かっただけです。彼のような生徒を導いてこそ、魔界の未来に繋がると信じていますから。それに、【優秀な問題児】を下手に手放すと革命派に取り込まれる危険もありますからね」

「……確かに、それもそうか。特に、アイツは七星剣しちせいけんの一角だしな。今後もアークトゥルス家が、その座に留まるなら、アイツだって何いずれは領主になる訳だし」

魔界の中核を担う七星剣。

その跡継ぎとなる有力候補が革命派に利用されるなど想像もしたくない。

なら、たとえ自ら進んで苦労を買う羽目はめになっても、手が届く内に策を講じる方が合理的か。