全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
カミングアウト
「おーっす、ヴェノ。話があるんだけど少し良いか?」
事前にドアをノックして入室の許可を取った俺は、片手で無造作に扉を開き、声を掛けながら中に入る。
ちなみに、もう片方の手は、ルクスリアを拘束した光の輪を握っている。
例えるなら鞄の取っ手部分を掴むような感覚だな。
その【鞄】は随分と気性が荒く、今なおジタバタと暴れているが、その程度で俺の手から逃れる事は不可能だ。
「もちろん構いませんが……ルクスリアさんは、何故そのような格好に? 部屋の前で入室を躊躇っていた事と何か関係が?」
学園長という札が置かれた重厚なデスク、その向こうで椅子に腰掛けたヴェノが怪訝そうな顔を見せた。
そりゃあ、こんな状態で入って来たら驚くよな。
「流石に、お見通しか。まぁ、魔力感知の範囲が学園全域に及ぶような相手なんだから見抜かれて当然なんだけどさ」
恐らく、ルミナリエとガンマが揉めていた件についても気付いているだろうな。
そこに俺が割って入って仲裁した事まで含めて。
とはいえ、あの程度の些細な喧嘩なら、わざわざ話題に出すまでも無いか。
少しヤンチャな受験生が眠っただけで人的被害は無く、物的被害だって、せいぜい校舎の一角が吹き飛んだくらいだし。
それだって、当事者のルミナリエが、キチンと修復済みだからな。
「そう言う貴方だって、それくらいの範囲は感知できるでしょう?」
「魔力反応の有無だけならな。個別の状態まで詳しく調べるなら、もっと狭い範囲が限界だよ。そんな事より、ルクスリアから話があるらしいぞ。俺は、あくまで付き添いだ。そんで、いざ部屋の前まで辿り着いたら、途端に怖じ気付いちまったみたいだから、こうやって背中を押してやったのさ」
「背中を押すというより、むしろ掴んでいるように見えるのですが……。その上、口まで塞いでいますし。そんなに打ち明けにくい話なら、無理をせず日を改めても良かったのですよ?」
「どうせ、いつかは話すんだ。なら早い方が良い。……そうだろ、ルクスリア?」
いつの間にか抵抗を止め、大人しくなっていたルクスリアに問い掛ける。
すると、彼女は意を決したようにコクリと頷いた。
どうやら、ようやく腹を括ったらしい。
この期に及んで逃げ出すとも思えないし、俺は素直に拘束を解いた。
そして、自分の足で立ち上がったルクスリアは、ゆっくりと魔王の前に進み出る。
「……実は、魔王様に御報告したい事が御座います」
大きく深呼吸して勇気を振り絞った様子のルクスリアが、神妙に口を開いた。
対象的に、ヴェノは朗らかな笑みを浮かべている。
「いったい、なんでしょうか。ルクスリアさんが畏まっているのは、いつもの事ですが、今日は何時にも増して気合が入っていますね。……もしや結婚の報告でしょうか?」
場を和ませるためのジョークなのか、それとも天然なのか、判別が難しいボケをかます魔王。
しかし、ルクスリアは、主君の突飛な発想にも動じず、深刻な表情を浮かべたままだ。
そんな彼女を見て、ヴェノも態度を改めた。
「……ふむ。学園で不穏な動きがあった形跡は見当たりませんが。それとも王都から緊急の通達でも?」
どうやら、ヴェノは、ルクスリアの話に全く心当たりが無いようで、しきりに首を傾げている。
まぁ、ルクスリア程の才媛が、これだけ思い詰める事態なんて、そうそう起こらないだろうし、無理もないか。
その上、学園や魔界とは何の関係もない彼女自身の問題だしな。
いくら魔王といえど、他人の心の中まで自由に覗ける訳じゃない。
「……魔王様には黙っていたのですが、その、王城にある魔王様の私室に盗聴用のマジックアイテムを仕掛けた事がありまして。……それから、この部屋にも隠してあるんです。私は、それを使って、日々の会話や生活音を盗み聞きしていました。御身をお守りするためという大義名分で自分を偽り、もっと魔王様に近づきたいという欲求を満たしていたのです。……本当に、申し訳ありませんでした」
目の前のデスクに額が付きそうな程、深々と頭を下げるルクスリア。
そんな彼女をポカンと見つめていた魔王だが、ふと何かを閃いたようにハッとした。
「あぁー、そう言えば、そんな物もありましたねぇ。ですが、ルクスリアさんの魔力でしか起動しない構造になっていたので、問題ないと思って放置していました。……ところで、それが何か?」
「……へっ?」
「はぁっ!?」
思いがけない魔王の反撃によって、ルクスリアと俺は揃って間抜けな声を漏らす羽目になったのだった。
事前にドアをノックして入室の許可を取った俺は、片手で無造作に扉を開き、声を掛けながら中に入る。
ちなみに、もう片方の手は、ルクスリアを拘束した光の輪を握っている。
例えるなら鞄の取っ手部分を掴むような感覚だな。
その【鞄】は随分と気性が荒く、今なおジタバタと暴れているが、その程度で俺の手から逃れる事は不可能だ。
「もちろん構いませんが……ルクスリアさんは、何故そのような格好に? 部屋の前で入室を躊躇っていた事と何か関係が?」
学園長という札が置かれた重厚なデスク、その向こうで椅子に腰掛けたヴェノが怪訝そうな顔を見せた。
そりゃあ、こんな状態で入って来たら驚くよな。
「流石に、お見通しか。まぁ、魔力感知の範囲が学園全域に及ぶような相手なんだから見抜かれて当然なんだけどさ」
恐らく、ルミナリエとガンマが揉めていた件についても気付いているだろうな。
そこに俺が割って入って仲裁した事まで含めて。
とはいえ、あの程度の些細な喧嘩なら、わざわざ話題に出すまでも無いか。
少しヤンチャな受験生が眠っただけで人的被害は無く、物的被害だって、せいぜい校舎の一角が吹き飛んだくらいだし。
それだって、当事者のルミナリエが、キチンと修復済みだからな。
「そう言う貴方だって、それくらいの範囲は感知できるでしょう?」
「魔力反応の有無だけならな。個別の状態まで詳しく調べるなら、もっと狭い範囲が限界だよ。そんな事より、ルクスリアから話があるらしいぞ。俺は、あくまで付き添いだ。そんで、いざ部屋の前まで辿り着いたら、途端に怖じ気付いちまったみたいだから、こうやって背中を押してやったのさ」
「背中を押すというより、むしろ掴んでいるように見えるのですが……。その上、口まで塞いでいますし。そんなに打ち明けにくい話なら、無理をせず日を改めても良かったのですよ?」
「どうせ、いつかは話すんだ。なら早い方が良い。……そうだろ、ルクスリア?」
いつの間にか抵抗を止め、大人しくなっていたルクスリアに問い掛ける。
すると、彼女は意を決したようにコクリと頷いた。
どうやら、ようやく腹を括ったらしい。
この期に及んで逃げ出すとも思えないし、俺は素直に拘束を解いた。
そして、自分の足で立ち上がったルクスリアは、ゆっくりと魔王の前に進み出る。
「……実は、魔王様に御報告したい事が御座います」
大きく深呼吸して勇気を振り絞った様子のルクスリアが、神妙に口を開いた。
対象的に、ヴェノは朗らかな笑みを浮かべている。
「いったい、なんでしょうか。ルクスリアさんが畏まっているのは、いつもの事ですが、今日は何時にも増して気合が入っていますね。……もしや結婚の報告でしょうか?」
場を和ませるためのジョークなのか、それとも天然なのか、判別が難しいボケをかます魔王。
しかし、ルクスリアは、主君の突飛な発想にも動じず、深刻な表情を浮かべたままだ。
そんな彼女を見て、ヴェノも態度を改めた。
「……ふむ。学園で不穏な動きがあった形跡は見当たりませんが。それとも王都から緊急の通達でも?」
どうやら、ヴェノは、ルクスリアの話に全く心当たりが無いようで、しきりに首を傾げている。
まぁ、ルクスリア程の才媛が、これだけ思い詰める事態なんて、そうそう起こらないだろうし、無理もないか。
その上、学園や魔界とは何の関係もない彼女自身の問題だしな。
いくら魔王といえど、他人の心の中まで自由に覗ける訳じゃない。
「……魔王様には黙っていたのですが、その、王城にある魔王様の私室に盗聴用のマジックアイテムを仕掛けた事がありまして。……それから、この部屋にも隠してあるんです。私は、それを使って、日々の会話や生活音を盗み聞きしていました。御身をお守りするためという大義名分で自分を偽り、もっと魔王様に近づきたいという欲求を満たしていたのです。……本当に、申し訳ありませんでした」
目の前のデスクに額が付きそうな程、深々と頭を下げるルクスリア。
そんな彼女をポカンと見つめていた魔王だが、ふと何かを閃いたようにハッとした。
「あぁー、そう言えば、そんな物もありましたねぇ。ですが、ルクスリアさんの魔力でしか起動しない構造になっていたので、問題ないと思って放置していました。……ところで、それが何か?」
「……へっ?」
「はぁっ!?」
思いがけない魔王の反撃によって、ルクスリアと俺は揃って間抜けな声を漏らす羽目になったのだった。
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