全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

それぞれが抱えていたもの

「……はぁ。世話の掛かるやつだな。……これで、どうだ?」

「あっ……」

ルクスリアの頭をポンポンと軽く叩き、てのひらを通して俺の魔力を流し込む。

ついでに、気分をリラックスさせる魔法も併用した。

これで緊張や罪悪感が薄れて話しやすくなったはずだ。

現に、俺の背中をつかんでいた手の震えが止まっているからな。

まぁ、ただの気休めだから効果は長持ちしないけど。

「ルミナリエに話したい事があるんだろ? 遮音しゃおん結界を張ってあるから、周りを気にする必要は無い。なんなら俺も席を外すぞ」

ちなみに、遮音結界はアイネ達と雑談してる時から、ずっと張ってたものだけど、周囲の音は問題なく取り込めている。

調整しだいでは、音を完全に遮断する事も出来るけど、今は単に音の拡散を防いでいるだけの状態だ。

今回のような密談には、ピッタリの魔法だな。

「い、いえ。シルクさんさえ良ければ、このまま見届けて欲しいのですが……」

「分かった、分かった。いいから、取りえず前に出ろ。まさか俺越しで話すつもりじゃないよな?」

「うぅ……。分かりました」

いつになく弱気で聞き分けの良いルクスリア。

つまりは、それだけ不安にられているという事だろう。

とはいえ、その元凶を直接、取り除く事は不可能なので、こればかりは彼女が自分で乗り越えるしかない。

「えっと、その……姫様」

「……うん、どうしたの?」

ルミナリエの口調と声音こわねが、いつもより柔らかい気がする。

ルクスリアの様子から、ある程度の事情を察して、優しくうながしているのか。

まるで悪戯いたずらがバレた妹と、それを受け止める姉のような構図だな。

本格的に、どっちが年上か分からなくなってきたけど、今は大事な場面なので、間違っても茶化す訳にはいかない。

その代わり、後で死ぬほどいじってやろう。

「シルクさんから聞きました……。姫様が【魔王の娘】として向けられる重圧に悩んでいたと」

「……うん」

ルミナリエの端的な肯定を受け、ルクスリアの拳に力が入る。

別に俺の言葉を疑っていた訳じゃないだろうけど、本人の口から改めて事実だと確認した事で、再び罪悪感にさいなまれているのだ。

悩みに気付けなかった事に対する自責の念だとか、呑気のんきに浮かれていた事に対する不甲斐ふがいなさだとか、無邪気に期待を押し付けた愚かさだとか。

ルミナリエを敬愛して止まない彼女だからこそ、その心を締め付ける物は多かろう。

しかし、ルクスリアは、そんな痛みから逃げることなく、正面から向き合っていた。

「私も、その無責任な重圧を向けていた、愚か者の一人です。それが姫様の重荷おもにになっていると気付けなかった。魔王の右腕……失格ですね」

それは流石さすが飛躍ひやくしすぎだろうと思ったけど、俺が言葉を発するより先に、ルミナリエが口を開いた。

「……ルクスリアのバカ」

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