全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

理想の選択肢?

「あの……シルクさん。あの子の父親の件、どうにもならないんですか?」

流石さすがに難しいな。事件が起きたのは何年も前の話だし、今から新しい証拠を見つけて無実を証明するというのは現実的じゃない。かといって、魔王の権力で無理やり解放をせまるなんてのも論外だ」

「そう……ですよね」

……まぁ、一つだけ心当たりが無い事も無いけど、ハッキリ言って雲をつかむような話だから下手に期待させるのは良くないよな。

まるで自分の事のように落ち込んでいるアイネを見るのは心苦しいけど、こればかりは仕方ないか。

どの道、今すぐに、どうこう出来る方法じゃないんだから。

ただし、お手上げなのは、あくまでも父親の方だけだ。

娘の方に関しては、まだ俺達にも出来る事が残っている。

「……なぁ、ルクスリア。例の魔族の女の子は、この後どうなるんだ?」

俺の言葉に反応して、うつむいていたアイネがバッと顔を上げた。

その瞳は強い関心を示したまま、ルクスリアに向けられている。

そんなアイネの熱い眼差しを横目で受け止めつつ、ルクスリアは淡々と語りだす。

「そうですね。今は、まだ暴走の反動で眠ったままでしょうから、目覚め次第しだい、詳しい事情聴取をする事になるでしょう。ですが、その後の事は正直なところ決めあぐねている状態です。彼女はいまだ人間に強いうらみを抱いている状態ですし、このまま帰すと、どんな事件を起こすか分かりません。あるいは、謎の魔法生命体を寄生させた黒幕に、再び利用される危険もあります。とはいえ、失格になった以上、生徒として学園に入れる事も出来ませんから」

急に話を振ったにもかかわらず、スラスラと答えるルクスリア。

たぶん、この話を魔王に聞いた時から、どうするべきか考えていたんだろう。

ちなみに、ヴェノ本人は、俺達の出す結論が、どんなものになるのか期待している様子だった。

と言っても、この手の悲劇を見過ごすようなやつじゃないから、今の俺と似たような結論に至ってそうだけどな。

「一つ提案があるんだけど、アイツを騎士団に推薦すいせんしてみたらどうだ? 確か、お前の直属部隊が人手不足で困ってるって言ってたろ?」

以前、ルクスリアと手紙のり取りをしていた時に、そんな話をした事があった。

魔王の右腕の直属部隊とあって、相当な激務らしく、所属したメンバーが次々に脱隊していくといういわく付きの精鋭部隊だと。

まぁ、脱隊したメンバーは、『あの部隊で働くよりはマシ』という意識が出来上がり、他の部隊で大活躍しているらしく、大きな問題にはなっていないとか。

とはいえ、そんな部隊に入隊したがる物好きはほとんど居ないため、常に人材が枯渇こかつしているとなげいていたのだ。

「……本気ですか?」

「そうすれば、監視と保護を同時に果たせる上に、お前の部隊は有望な新人が手に入る。そして、アイツは学園の代わりに実戦部隊で教育と訓練を受けられる。もちろん、本人の意思を確認する必要があるけど、アイツにとっても悪い話じゃないはずだ。【力】に対する執着しゅうちゃく渇望かつぼうは、受験生の中でもトップクラスだろうからな。そう簡単にを上げたりしないだろう。それに、騎士団には、お前を育て鍛え上げた鬼軍曹おにぐんそうがいるんだろ? きっと、その恩師なら、アイツの根性を良い意味で叩き直して、ぐ導いてくれるだろうからな」

その鬼軍曹の話も、ルクスリアの手紙で聞いた事がある。

なんでも、ルクスリアが魔王の右腕と呼ばれるようになったのは、その人の功績が大きく、立場が上になった今でも頭が上がらないとか。

そんな人物なら、少女が抱える恨みや憎しみを望ましい形へと昇華しょうかさせてくれるに違いない。

他力本願たりきほんがんな上に期待過剰かじょうな気もするけど、俺の頭では、これ以上の選択肢が浮かばないな。

――と、思ったんだけど。

「あの方の元で鍛えられるくらいなら、【魔境】に裸で放り出される方がマシだと思うのですが……。分かりました。シルクさんが、そこまで言うのなら掛け合ってみましょう」

まるで悪魔の所業でも目の当たりにしたように恐れおののいて、マジマジと俺を見つめるルクスリア。

……あれ、もしかして選択肢を間違えたか?

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