全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

とある魔族の前日談

「えっ!? それって、あの子の父親も人間を憎んでたって事ですか!?」

「……むしろ、その方が良かったかもな。それなら話がややこしくならずに済んだのに、という意味で。だけど、現実は、もう少し複雑な事情がある。どうやら、その事件は冤罪えんざいらしいんだ」

「冤……罪?」

言葉の意味が分からない、という訳では無いだろう。

むしろ、言葉以上の深い所まで察しが付いてしまった様子だ。

だからこそ、アイネは驚きと困惑で固まってしまっていた。

「ああ、聞く所によると、あの子の親父さんは人間と友好的な関係を築いている魔族だったらしい。事件が起きた当時も、ちょうど人間界に滞在していたんだ。とはいえ長期滞在の予定は無く、ただの旅行だったそうだが、そのわずかなタイミングを狙いましたかのように殺人が起きて、容疑者として拘束された。事件には不審な点がいくつも見受けられたけど、他の容疑者は発見されず、そのまま親父さんに有罪判決が下ったみたいだ。科された刑罰は無期懲役むきちょうえき。つまり、判決がくつがえされない限り、彼が魔界の大地を踏む事は、二度と無いだろうな」

「だから、あの子は……」

合点がてんがいった、という様子で悲しそうに目を伏せるアイネ。

そんな彼女をはげます言葉は、残念ながら頭に浮かばず、俺は淡々と事実を告げる。

「そう、彼女は今でも父親の無実を信じている。だから許せないんだ。父親に無実の罪を押し付けた人間を。そして父親が人間と関わっていた事が、そもそもの間違いだったと思っているんだろうな。だからこそ、あれだけ激しく人間を拒絶していた。後は人間に友好的な魔王やルミナリエに加えて、アイネとの戦闘を避けようとした魔族の少年も、彼女にとっては敵という認識なんだろうな」

「……そう思ってしまうのも仕方無いと思います。私だって、家族を魔族に奪われたら恨まない自信はありません」

「俺もだ。だけど、奪った本人に復讐ふくしゅうするならともかく、その同族というだけで牙を向けるのは八つ当たり以外の何物でもない。たとえ、どれだけ悲惨ひさんな事情があろうと、容認する訳には行かないな」

とはいえ、なんだかんだで殺す手前で踏み留まっていたし、それ以前に試験という枠の中で行われた戦闘だから、今回に関しては罰則は無い。

……そういえば、アイネにとどめを刺す寸前で留まった時、彼女は言っていた。

『……ばっかみたい。そんな抵抗したって何の意味もないのに。あそこで倒れてる男もそう。無駄に歯向かった所で、痛い目を見るだけなのに』

彼女の事情を知った、今になって思えば、あの言葉は自分自身に向けた言葉でもあったのかも知れない。

彼女も父親を取り戻すために抵抗し、人間界の司法に歯向かい、それでもちからおよばずに痛い目を見て絶望したのかも知れない。

だとするなら、せめて再起のチャンスくらいは与えてやるべきかも知れないな。

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