全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

涙の訳

「……ふむ、それで結局、アイネさんが取り乱した理由は何だったのでしょうか? もちろん、言いづらいことなら無理に話す必要はありませんが……」

後ろ向きな思考に沈んでいた俺を他所よそに、ルクスリアがアイネを気遣きづかいつつ、疑問を投げかけていた。

感情が表に出るような素振そぶりは見せていないはずだけど、俺の様子から何かを察したのかも知れない。

アイネはともかく、俺まで気遣われる立場になってたら世話がないぞ。

とにかく今は目の前の事に集中して、自分に出来る事をこなしていくしか無いな。

そう自分に言い聞かせる事で気分を切り替え、アイネに意識を向ける。

すると、ちょうど彼女が口を開く所だった。

「いえ、別に、そんな深刻な事情では無いので大丈夫ですっ。ただ、ホッとして気が緩んだせいで、られて涙腺るいせんまで緩んでしまった、というだけの話ですから」

「……ホッとした? それは、あの魔族の少年の話を聞いたから、だよな? 思ったよりも元気そうで安心したって事か?」

「それもありますけど……1番は感謝された事ですね。おかげで自分の選択が間違って無かったんだって確信できましたから。……私、不安だったんです。実は魔族の方と関わるのは今回が初めてで、魔界に来るのも当然、初めてでした。人間と比べて、それほど大きな差異は無いと知っていても、それは知識でしかありませんから。実際に向かい合って話した時はすごくドキドキしていました」

意外だな、試験で複数の魔族に囲まれた時も、あれだけ堂々としてたから、そこまで緊張しているなんて思いもしなかった。

だけど、そんな想いを抱えていたのなら、さっきの言葉にも納得が行く。

「だったら、魔族の少年を助けた時も内心では迷ってたのか?」

「迷ってた……。確かに、そうですね。助けたい、助けてみせるという想いを曲げるつもりは微塵みじんもありませんでしたけど、余計な御世話なんじゃないか、むしろ迷惑を掛けてるんじゃないか、自分の選択は本当に正しいのか、そんな不安がぬぐえなかったのは事実です。彼と会話する中で、人間との価値観の違いもハッキリと感じていましたから」

それでも、アイネは自分をつらぬいた。

迷いを抱え、衝突を恐れながらも、信念を曲げることなく。

そして、そんなアイネの勇気と選択は、異なる世界と価値観で生きる少年の心へ、確かに届いたのだ。

そりゃあ、安堵あんどと喜びで感極まるのも無理ないよな。

アイネのひとみからあふれた涙は、彼女が勝ち取った努力の証だったという訳か。

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