全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

魔王の弱点

「……さて、そろそろ話を戻しましょうか。まずは、シルクさん。今回の騒動そうどう迅速じんそくに解決してくれたこと、本当に感謝しています。致命的な被害もなく事を終えられたのは、貴方あなた御蔭おかげですよ。ありがとうございました」

ルクスリアのれてくれた紅茶で気分がやわらいだ所で、ヴェノが話を再開し、ねぎらいの言葉を口にした。

俺は、ここのスタッフとして当然の働きをしただけなので、こうして改まって礼を言われるのは面映おもはゆいな。

「気にするな。生徒の……いや、“学園関係者の命を守る”のが俺の仕事、だろ?」

転生2日目、医療スタッフの業務について詳しい説明をすると言われ、最初に告げられたのが、この言葉だった。

細々とした規則や要求はあれど、俺に求められている役割は、この一点に尽きると。

つまりは、誰も死なせるな、という訳だ。

随分ずいぶんと無茶振りをされたもんだけど、恩人からの信頼には応えないとな。

「……そうでしたね。とはいえ、出来れば私も現場に行きたかったのですが」

申し訳なさそうに肩を落とすヴェノは、はたから見れば、まるでしかられた子供のようだ。

そんな感想が頭に浮かんだせいで、思わずほおが緩みそうになるが、なんとか気合で押さえつつ、真面目な顔を作る。

「不測の事態に備えて、最後まで待つのが魔王の仕事だろ? あの騒ぎが敵の陽動ようどうだって可能性も残ってた訳だしな。むしろ、あっちこっちに軽々しく動かれる方が困っちまうよ」

というか、いざという時に切り札が行方不明とかマジで笑えないし。

「分かっては居るんですけどねぇ。自分だけ大人しくしているのは、どうにも落ち着かなくて」

「だからって、大将が最前線に出るのはなぁ。100年前だって、俺の相手を七星剣しちせいけんに任せずに、自分でケリを付けに来たし」

「あ、あれは仕方ないでしょうっ? 貴方を相手にして損害なしで勝利できる魔族が私しか居なかったんですから。それと、私が行かなければ、シルクさんは転生できなかったんですからね?」

「くっ、痛い所を突いてくるな……」

「お二人とも、話がれてますよ?」

ルクスリアの指摘で、ハッと我に返った俺達は、コホンと咳払せきばらいして(しくも同時だった)、気持ちを切り替える。

「まぁ、俺が言いたいのはだな、もっと部下を信頼して、泰然たいぜんと構えてろって事だ。魔王がソワソワしてたら、周りも不安になるだろうが」

「そ、そうですよね。どうにか頑張がんばってみます」

魔王様の意外な弱点を発見し、一段落いちだんらくついた所で、俺は、ある事を思い出した。

「そうだ、不安になると言えば、受験者の中に人間がほとんど居なかったんだけど、あれは何なんだ? 単にづいて受験を放棄したのかとも思ったけど、流石さすがに数が多すぎるし、今回の件もある。何かトラブルに巻き込まれてるんじゃないのか?」

「……その件についても、この場で報告するつもりでした。まだ全ての受験者を確認できた訳では無いのですが、どうやら人間界で謎の失踪しっそう相次あいついでいるようなのです」

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