全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
因果応報
「……くっ……どう……して?」
まるで糸が切れたマリオネットのように、カクンと崩れ落ちたアイネは、青くなった顔で魔族の少女を見上げた。
しかし、全身の力が抜けてしまっているのか、口から漏れる言葉は途切れ途切れで、全く覇気が籠もっていない。
そんなアイネを愉快そうに見下ろしながら、少女は毒ナイフを乱暴に抜き取り、侮蔑の表情を浮かべている。
「はぁ? まさか、追われる可能性を少しも考えて無かったの? だとしたら救いようの無い甘ちゃんね。止めを刺さずに見逃して、ご丁寧に結界まで張ってたみたいだけど、その程度で私の憎悪が収まる訳ないじゃない」
馬鹿にしたような眼差しで、アイネを冷たく射抜く少女。
そして、その瞳には言葉通りの憎悪が垣間見える。
アイネの性格的に、戦闘不能な相手を改めて痛めつけるのは不可能だったし、ルミナリエも、その意思を尊重した。
しかし、それが裏目に出てしまったという訳だ。
「……違う。……どうして……そんなボロボロの身体を……引きずってまで……?」
そう、魔族の少女は、ポイズンミストによる自傷が癒えておらず、全身が傷だらけのままだ。
そんな状態で、わざわざ自分を探しに来た執念が、アイネには理解できなかったんだろう。
かくいう俺も、何故これほどの執着を見せるのか理解不能だ。
アイネが親の仇だというなら、まだ分かるけど、そんな様子でも無いしな。
「前にも言ったでしょ。憎いからよ。人間が。そして、人間に与する魔族が」
彼女の主張は、ずっと、この調子だ。
何故、人間を憎むようになったのかという肝心の部分は頑なに言及を避ける。
これでは対処のしようが無い。
「……そうだ。……あの男の子はっ……」
彼女と同じく、結界に残してきた魔族の少年。
彼の安否を問うアイネの質問に、魔族の少女は忌々しそうに口を開く。
「あの結界のせいで手出し出来なかったわよ。まったく、余計な事を」
「……良かった」
ルミナリエの結界が破られるなど考えにくいが、それでも心配だったのだろう。
魔族の少女の態度から、その言葉が真実だと察して、アイネは心から安堵した様子だ。
「それで? さっきから静観してる姫様は、いったい何を考えてるの? あの結界を張ったのも、アンタでしょう? わざわざ手間を掛けた相手に、こんな形で裏切られてムカつかない訳?」
「……あれは、別に貴方のためにやった事じゃない。私は、ただアイネの憂いを断ちたかっただけ。……とはいえ、飼い犬に手を噛まれたみたいで不愉快なのは確か」
さらっと飼い犬扱いされた事で、眉を吊り上げる魔族の少女。
しかし、ルミナリエには煽っているという自覚は無さそうだ。
それを相手が察しているため、ますます火に油を注いでいるが、流石にルミナリエに手を出す度胸は残ってないらしい。
「へー、じゃあ、どうして黙って見てるのかしら?」
自分を瞬殺できる力を持った相手が、怒りを感じて尚、動かない理由。
それが思い当たらなくて、少女は不気味に感じているようだ。
「……人質を取られてた時とは状況が違う。周囲の警戒を怠って、背後から不意打ちされたのは、アイネの自己責任だから」
「……あはは。ルナちゃんってば……友達相手でも容赦ないね」
ルミナリエの厳しい指摘を受けても、アイネは力なく笑うのみだ。
恐らく、彼女の言い分は尤もだと納得しているのだろう。
場合によっては、友人関係に亀裂を入れかねない遣り取りだが、この二人に限っては心配なさそうだ。
「……むしろ友達だからこそ。アイネは色々と危なっかしいから、見ていて不安になる。さっきの戦闘も含めてキチンと反省して、次に活かして欲しい」
「はい……気を付けます……」
初対面の時のように敬語に戻るアイネだが、その口調は、どこか戯けた感じだ。
額に脂汗を滲ませて、息を荒げながら発した言葉なので、そんな空元気を見せられても悲痛なだけ、だけどな。
そして、ただでさえ苦しんでいるアイネのお腹に足を乗せた少女は、苛立ったように口を開く。
「あのさぁ、状況わかってる? 私はコイツの命を握ってるのよ? 今こうして生きていられるのは、私のストレス発散に付き合わせる為であって、お喋りさせる為じゃないんだけど。それに、気が済んだら殺して失格にするつもりだし、次の機会なんて与える訳ないじゃない」
話しながら足に力を込め、アイネのお腹を踏みつける少女。
アイネが堪らず苦悶の呻きを漏らした事で、少しは気が晴れたのか、少女は嗜虐的な笑みを浮かべて悦に浸る。
アイツ、ルミナリエが最後まで手を出さないと踏んで、調子に乗ってるな。
今が試験中で無ければ、あるいは俺が試験監督で無ければ、ぶちのめす所だけど、残念ながら動けない。
……まぁ、その役目は今回に限って、俺よりも相応しい奴に譲るとしよう。
「……状況が分かって無いのは貴方のほう。私が手を出さない理由は、もう一つ。そもそも出す必要が無いから」
「はぁ? 何を言って――ガッ!?」
突然、少女の身体がグラリと揺れた――と思った次の瞬間、彼女の顔面は地面に叩きつけられていた。
そして、アイネに乗せていた足とは逆の足を、何者かが掴んでいる。
その正体は――、
「……ハッ、余裕ぶって止めを刺さないから、こんな事になるんだよ」
アイネが毒の治療を施して、結界に残してきた、魔族の少年だった。
まるで糸が切れたマリオネットのように、カクンと崩れ落ちたアイネは、青くなった顔で魔族の少女を見上げた。
しかし、全身の力が抜けてしまっているのか、口から漏れる言葉は途切れ途切れで、全く覇気が籠もっていない。
そんなアイネを愉快そうに見下ろしながら、少女は毒ナイフを乱暴に抜き取り、侮蔑の表情を浮かべている。
「はぁ? まさか、追われる可能性を少しも考えて無かったの? だとしたら救いようの無い甘ちゃんね。止めを刺さずに見逃して、ご丁寧に結界まで張ってたみたいだけど、その程度で私の憎悪が収まる訳ないじゃない」
馬鹿にしたような眼差しで、アイネを冷たく射抜く少女。
そして、その瞳には言葉通りの憎悪が垣間見える。
アイネの性格的に、戦闘不能な相手を改めて痛めつけるのは不可能だったし、ルミナリエも、その意思を尊重した。
しかし、それが裏目に出てしまったという訳だ。
「……違う。……どうして……そんなボロボロの身体を……引きずってまで……?」
そう、魔族の少女は、ポイズンミストによる自傷が癒えておらず、全身が傷だらけのままだ。
そんな状態で、わざわざ自分を探しに来た執念が、アイネには理解できなかったんだろう。
かくいう俺も、何故これほどの執着を見せるのか理解不能だ。
アイネが親の仇だというなら、まだ分かるけど、そんな様子でも無いしな。
「前にも言ったでしょ。憎いからよ。人間が。そして、人間に与する魔族が」
彼女の主張は、ずっと、この調子だ。
何故、人間を憎むようになったのかという肝心の部分は頑なに言及を避ける。
これでは対処のしようが無い。
「……そうだ。……あの男の子はっ……」
彼女と同じく、結界に残してきた魔族の少年。
彼の安否を問うアイネの質問に、魔族の少女は忌々しそうに口を開く。
「あの結界のせいで手出し出来なかったわよ。まったく、余計な事を」
「……良かった」
ルミナリエの結界が破られるなど考えにくいが、それでも心配だったのだろう。
魔族の少女の態度から、その言葉が真実だと察して、アイネは心から安堵した様子だ。
「それで? さっきから静観してる姫様は、いったい何を考えてるの? あの結界を張ったのも、アンタでしょう? わざわざ手間を掛けた相手に、こんな形で裏切られてムカつかない訳?」
「……あれは、別に貴方のためにやった事じゃない。私は、ただアイネの憂いを断ちたかっただけ。……とはいえ、飼い犬に手を噛まれたみたいで不愉快なのは確か」
さらっと飼い犬扱いされた事で、眉を吊り上げる魔族の少女。
しかし、ルミナリエには煽っているという自覚は無さそうだ。
それを相手が察しているため、ますます火に油を注いでいるが、流石にルミナリエに手を出す度胸は残ってないらしい。
「へー、じゃあ、どうして黙って見てるのかしら?」
自分を瞬殺できる力を持った相手が、怒りを感じて尚、動かない理由。
それが思い当たらなくて、少女は不気味に感じているようだ。
「……人質を取られてた時とは状況が違う。周囲の警戒を怠って、背後から不意打ちされたのは、アイネの自己責任だから」
「……あはは。ルナちゃんってば……友達相手でも容赦ないね」
ルミナリエの厳しい指摘を受けても、アイネは力なく笑うのみだ。
恐らく、彼女の言い分は尤もだと納得しているのだろう。
場合によっては、友人関係に亀裂を入れかねない遣り取りだが、この二人に限っては心配なさそうだ。
「……むしろ友達だからこそ。アイネは色々と危なっかしいから、見ていて不安になる。さっきの戦闘も含めてキチンと反省して、次に活かして欲しい」
「はい……気を付けます……」
初対面の時のように敬語に戻るアイネだが、その口調は、どこか戯けた感じだ。
額に脂汗を滲ませて、息を荒げながら発した言葉なので、そんな空元気を見せられても悲痛なだけ、だけどな。
そして、ただでさえ苦しんでいるアイネのお腹に足を乗せた少女は、苛立ったように口を開く。
「あのさぁ、状況わかってる? 私はコイツの命を握ってるのよ? 今こうして生きていられるのは、私のストレス発散に付き合わせる為であって、お喋りさせる為じゃないんだけど。それに、気が済んだら殺して失格にするつもりだし、次の機会なんて与える訳ないじゃない」
話しながら足に力を込め、アイネのお腹を踏みつける少女。
アイネが堪らず苦悶の呻きを漏らした事で、少しは気が晴れたのか、少女は嗜虐的な笑みを浮かべて悦に浸る。
アイツ、ルミナリエが最後まで手を出さないと踏んで、調子に乗ってるな。
今が試験中で無ければ、あるいは俺が試験監督で無ければ、ぶちのめす所だけど、残念ながら動けない。
……まぁ、その役目は今回に限って、俺よりも相応しい奴に譲るとしよう。
「……状況が分かって無いのは貴方のほう。私が手を出さない理由は、もう一つ。そもそも出す必要が無いから」
「はぁ? 何を言って――ガッ!?」
突然、少女の身体がグラリと揺れた――と思った次の瞬間、彼女の顔面は地面に叩きつけられていた。
そして、アイネに乗せていた足とは逆の足を、何者かが掴んでいる。
その正体は――、
「……ハッ、余裕ぶって止めを刺さないから、こんな事になるんだよ」
アイネが毒の治療を施して、結界に残してきた、魔族の少年だった。
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