全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

マウント合戦

「返事が無い。……もしかして、薬草を探して走り回ってる時にはぐれちゃったのかな?」

「……アイネ、シルクと知り合いなの?」

「あっ、もしかして、ルナちゃんもシルクさんを知ってるの?」

「……うん。でも、ここには居ないと思うけど」

あー、そう言えば、俺が試験監督だって事は、ルミナリエにも言ってなかったな。

それに加えて、俺が受験者の振りをしてる事も知らない訳だから、この反応も当然か。

「そんなこと無いよ? だって、シルクさんも受験者だもん。それに、さっきまで一緒いっしょに行動してたし」

いや、俺は受験者とは一言も言ってない。

まぁ、誤解を放置して利用したのは事実だけども。

「……そっちこそ、そんな訳ない。シルクほどの実力者なら今更いまさら、学園で学ぶ事なんて無いから。きっと何かの勘違い。例えばシルクをかたる偽者とか」

いや、勘違いは正解だけど、一応、本物だし、学ぶ事なんて無いは大袈裟おおげさだ。

魔法関連ならともかく、他の教科はほとんど分からないぞ。

俺は学校なんてかよったこと無いから、身に着けた知識は全て独学だし。

「ほほう。随分ずいぶんと自信満々に言い切るね。私は実際に会ったって言ってるのに。というか、ルナちゃんはじかに見なくても分かるくらい、シルクさんに詳しいの?」

「……シルクの魔力は把握はあく済み。だけど、いま確認した所、この森にシルクの魔力は感じない。そして、シルクが殺されて魔力を感じられないという可能性も皆無かいむ。つまり、シルクは、この森に居ない。……逆に、アイネは“出会ったのが本物”と断言できるくらい、シルクに詳しいの?」

いや、ごめん、気配がバレないように隠蔽いんぺい魔法を使ってるだけなんだ。

その発想には至らなかったのか、それとも隠蔽魔法すら見抜く自信があったのか。

どちらにしろ、俺が隠れて、この会話を聞いてるって知ったら、さぞ恥ずかしいだろうな。

羞恥しゅうちで赤面するルミナリエも、それはそれで見てみたいけど、流石さすが可哀想かわいそうだから自重じちょうするか。

「そ、それは……。確かに、シルクさんとは今日、初めて出会ったばかりで、一緒に過ごした時間も長くないですけど、私は教会で手を握られたんですから! 人をだますような偽者の手が、あんなに暖かいとは思えません!」

なんだ、その聞いてて恥ずかしくなる根拠は!?

そもそも、あれは遅刻をまぬがれるために、仕方なくだなぁ……。

「……ふっ。手を握られるなんて、まだまだじょくち。私は教会で頭をでられた」

なんで、急にマウントの取り合いになってるんだよ!

というか、何のマウントを取ってるんだよ!

そんな、しょうもない事で言い争うな!

聞いててメッチャ恥ずかしいし、俺が誰にでも手を出すナンパ野郎みたいだろうが!

――しかし、俺の心の叫びもむなしく、二人は次々と手札を切る。

「そ、それに私は遅刻しそうな所をシルクさんに助けてもらったおんだってあるんですから! あんなに優しい人が偽者な訳ないです!」

「……甘い甘い。私は過去の努力を肯定こうていして貰い、現在の誤った責任感を否定して貰い、未来への道標みちしるべを示して貰った。感謝の大きさでは私が上」

「で、でも、シルクさんは試験にのぞむ私を心配してくれたり、入学後に花札しようって誘ってくれたりしたもん! シルクさんの関心なら私の方が上だよ!」

「……笑止しょうし。私はシルクから将来を期待されている。いつか、自分を超える逸材いつざいとして。……そして、モデル体型でバインバインな“ないすばでぃ”となる事を。強さにおいても、魅力においても、シルクの関心は私のひとめ」

「ば、バインバイン!? シルクさんったら、こんな幼い子に何を吹き込んでるの……。け、けど、シルクさんは私のパートナー(試験における)なんだから!」

「……それは、こちらのセリフ。シルクは魔王パパ親友パートナーであり盟友パートナー。つまり家族ぐるみで付き合っている私こそが本物のパートナー」

……もう、勘弁かんべんして下さい。

羞恥しゅうちで死にそうになっている俺を他所よそに、二人の口論はしばらく続いたのだった。

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