全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
魔王の血族
「……そう言えば、まだ自己紹介をしてなかったね。私はアイネ。アイネ・バードウェイだよっ」
未練を断ち切るように魔族の少女から視線を外し、ニッコリとルミナリエに微笑むアイネ。
そして、ルミナリエは、そんなアイネの心掛けを肯定するようにコクリと頷き、自らも口を開く。
「……私はルミナリエ。この子は使い魔のミリオ。よろしく」
ルミナリエに続いて、彼女の肩に止まっていた鴉がカァッ、と鳴いた。
必要最低限の淡白な回答だけど、決して面倒に感じている訳ではないだろう。
これが彼女の素だ。
アイネも、それが分かっているのか、特に気にした様子はない。
しかし、ふと疑問を抱いたようで、カクンと首を傾げ、顎に手を当てた。
「あれ? そう言えば、ルナちゃんって魔王の娘なんだよね?」
「……そうだけど。ルナちゃんとは……?」
「あっ、ごめん。ルミナリエだから、略してルナちゃん。呼びやすくて可愛い渾名だと思うんだけど……ダメかなぁ?」
不安そうに伺いを立てるアイネ。
魔界の姫様相手に、流石に馴れ馴れしいと思ったのだろうか。
しかし、ルミナリエは気にした様子もなく、いつもの眠たそうな無表情だ。
「……ううん。ダメじゃない。渾名を付けて貰ったのは初めてだから戸惑っただけ。ありがとう」
……まぁ、もしかしたら怒ってる時も無表情かも知れないけど、少なくとも今回は大丈夫だったらしい。
ただ、ちょっと照れくさいのか、赤くなった頬が微妙に緩んでるけどな。
まだ短い付き合いだけど、この表情は中々にレアなんじゃなかろうか。
ルクスリアが見たら感動と興奮のあまり、鼻血でも流すかもしれない。
「あははっ。それなら良かったよ。……それはそうと、ルナちゃんって魔王の娘なんだよね? 家名はなんて言うの?」
「……魔王の血族に家名は無い。正確には魔王となった時点で家名を失う。後は魔王と契りを結んだ王妃も。過去に魔王の血族が家名を利用して好き放題したから、その戒めとして」
俺もヴェノから聞いたことがあるな。
魔王本人じゃなくて、その子供が影で親の威光を振りかざして問題になったとか。
それ以来、魔王継承の儀において家名を破棄する決まりになったのだという。
しかし、4000年を超える魔族の歴史において、全ての時代に魔王が存在した訳では無い。
【魔王】とは、魔界の全てを単独で支配できると認められた者に与えられる特別な称号だ。
故に、それだけの力を持つ者が存在しない場合は、魔界最強の7人――【七星剣】を頂点とした合議制の政府が出来上がる。
その場合は、家名の破棄などは実施されない。
ちなみに、ここ数百年は七星剣のメンバーが同じ七家から選出されているため、個人ではなく、その七家を指して七星剣と呼ぶこともある。
あと、これは余談だけど、ルクスリアは現在の七星剣の誰よりも強い。
なら、お前が七星剣になれよという話だけど、魔王が統治する時代は、七星剣に領地が割り振られ、その地の領主として政治を補佐しなければならない。
つまり何が言いたいかと言うと、魔王の側に仕える事が出来なくなる。
誰よりも魔王を敬愛し、側近となる事を望んで止まないルクスリアが、そんな立場を受け入れる訳も無く、文句を言う奴を片っ端から叩きのめして、七星剣を辞退した。
にも関わらず、魔王が魔王学園を新設して王都から離れてしまったので、その代理を命じられてしまい、月に一度の定例報告でしか会えなくなっているのだ。
その事については、かなり不満が溜まっている様子で、手紙の遣り取りでも散々に愚痴られたが、魔王の勅命に背く訳にもいかず悶々としているらしい。
「はぇ〜。やっぱり魔王って、それだけ凄い存在なんだね。それに、ルナちゃんもシルクさんも入学前なのに転移魔法が使えるみたいだし。もしかしたら魔王学園って、私が思ってた以上にハードルが高いのかも」
「……ん? シルク?」
「って、そうだ! シルクさーん? 近くに居ますかー? ちゃんと無事ですかー?」
アイネが頻りに呼んで来るけど、試験監督の俺が姿を現すと、また面倒な事になるので、悪いけど無視だな。
次にアイネと会うのは、彼女の周りで誰かが死にかけた時か、この試験が終わった時だ。
……そう言えば、試験の終了時刻まで、あと少しだな。
アイネのことだから、俺が行方不明だと心配するかも知れないけど、そこは我慢して貰うとしよう。
たぶん、これ以上は波乱も起きないだろうしな。
――そんな風に考えていた時期が俺にもありました。
未練を断ち切るように魔族の少女から視線を外し、ニッコリとルミナリエに微笑むアイネ。
そして、ルミナリエは、そんなアイネの心掛けを肯定するようにコクリと頷き、自らも口を開く。
「……私はルミナリエ。この子は使い魔のミリオ。よろしく」
ルミナリエに続いて、彼女の肩に止まっていた鴉がカァッ、と鳴いた。
必要最低限の淡白な回答だけど、決して面倒に感じている訳ではないだろう。
これが彼女の素だ。
アイネも、それが分かっているのか、特に気にした様子はない。
しかし、ふと疑問を抱いたようで、カクンと首を傾げ、顎に手を当てた。
「あれ? そう言えば、ルナちゃんって魔王の娘なんだよね?」
「……そうだけど。ルナちゃんとは……?」
「あっ、ごめん。ルミナリエだから、略してルナちゃん。呼びやすくて可愛い渾名だと思うんだけど……ダメかなぁ?」
不安そうに伺いを立てるアイネ。
魔界の姫様相手に、流石に馴れ馴れしいと思ったのだろうか。
しかし、ルミナリエは気にした様子もなく、いつもの眠たそうな無表情だ。
「……ううん。ダメじゃない。渾名を付けて貰ったのは初めてだから戸惑っただけ。ありがとう」
……まぁ、もしかしたら怒ってる時も無表情かも知れないけど、少なくとも今回は大丈夫だったらしい。
ただ、ちょっと照れくさいのか、赤くなった頬が微妙に緩んでるけどな。
まだ短い付き合いだけど、この表情は中々にレアなんじゃなかろうか。
ルクスリアが見たら感動と興奮のあまり、鼻血でも流すかもしれない。
「あははっ。それなら良かったよ。……それはそうと、ルナちゃんって魔王の娘なんだよね? 家名はなんて言うの?」
「……魔王の血族に家名は無い。正確には魔王となった時点で家名を失う。後は魔王と契りを結んだ王妃も。過去に魔王の血族が家名を利用して好き放題したから、その戒めとして」
俺もヴェノから聞いたことがあるな。
魔王本人じゃなくて、その子供が影で親の威光を振りかざして問題になったとか。
それ以来、魔王継承の儀において家名を破棄する決まりになったのだという。
しかし、4000年を超える魔族の歴史において、全ての時代に魔王が存在した訳では無い。
【魔王】とは、魔界の全てを単独で支配できると認められた者に与えられる特別な称号だ。
故に、それだけの力を持つ者が存在しない場合は、魔界最強の7人――【七星剣】を頂点とした合議制の政府が出来上がる。
その場合は、家名の破棄などは実施されない。
ちなみに、ここ数百年は七星剣のメンバーが同じ七家から選出されているため、個人ではなく、その七家を指して七星剣と呼ぶこともある。
あと、これは余談だけど、ルクスリアは現在の七星剣の誰よりも強い。
なら、お前が七星剣になれよという話だけど、魔王が統治する時代は、七星剣に領地が割り振られ、その地の領主として政治を補佐しなければならない。
つまり何が言いたいかと言うと、魔王の側に仕える事が出来なくなる。
誰よりも魔王を敬愛し、側近となる事を望んで止まないルクスリアが、そんな立場を受け入れる訳も無く、文句を言う奴を片っ端から叩きのめして、七星剣を辞退した。
にも関わらず、魔王が魔王学園を新設して王都から離れてしまったので、その代理を命じられてしまい、月に一度の定例報告でしか会えなくなっているのだ。
その事については、かなり不満が溜まっている様子で、手紙の遣り取りでも散々に愚痴られたが、魔王の勅命に背く訳にもいかず悶々としているらしい。
「はぇ〜。やっぱり魔王って、それだけ凄い存在なんだね。それに、ルナちゃんもシルクさんも入学前なのに転移魔法が使えるみたいだし。もしかしたら魔王学園って、私が思ってた以上にハードルが高いのかも」
「……ん? シルク?」
「って、そうだ! シルクさーん? 近くに居ますかー? ちゃんと無事ですかー?」
アイネが頻りに呼んで来るけど、試験監督の俺が姿を現すと、また面倒な事になるので、悪いけど無視だな。
次にアイネと会うのは、彼女の周りで誰かが死にかけた時か、この試験が終わった時だ。
……そう言えば、試験の終了時刻まで、あと少しだな。
アイネのことだから、俺が行方不明だと心配するかも知れないけど、そこは我慢して貰うとしよう。
たぶん、これ以上は波乱も起きないだろうしな。
――そんな風に考えていた時期が俺にもありました。
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