全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
決着
「……どいつも……コイツも……」
急に辺りが暗くなった原因は、魔族の少女から発せられている瘴気だった。
まるで、心の内のドス黒い感情が形を成して溢れたような光景だ。
その悍ましさにアイネが絶句し、ルミナリエが眉を顰める。
それと、いつの間にか、スパイラル・サイクロンの魔法陣が消えているな。
それが少女の意図した結果なのかは分からないが、とにかく彼女は新たな魔法に切り替えたらしい。
それにしても、あの現象は……。
「どいつも、コイツもぉぉぉっ!」
魔族の少女の感情が爆発し、それに呼応するように広がっていく瘴気。
それを見たルミナリエが鎌を一振りすると、彼女と魔族の少年を囲うように結界が生まれた。
そして、アイネの方は例の羽衣で瘴気を遮断したようだ。
黒い靄が纏わり付いた事で、彼女を覆うように展開された透明のベールが良く見える。
その透明な輝きは、汚泥のような瘴気の中でも、なお神秘的な存在感を醸していた。
しかし、ルミナリエの結界が全く瘴気を寄せ付けないのに対して、アイネの羽衣は少しずつ侵食を受けているようだ。
その事実が、二人の実力差を端的に示している。
「……不味いかも」
ルミナリエの呟きは、アイネを気遣ったものではない。
どこか心配そうな彼女の視線は、瘴気の発生源に向けられている。
どうやら、この魔法――闇の上級魔法ポイズンミストは、一種の暴走状態にあるらしく、術者である魔族の少女自身も瘴気に蝕まれているようだな。
魔法の中心地であるが故に特に瘴気が濃く、肉眼では殆ど見通せないが、少女の魔力の流れで、ある程度の容態は把握できる。
恐らく、感情が高ぶった影響で無意識の内に魔法を発動してしまい、制御を誤ったんだろうな。
そして暴走する魔法に意識を飲まれ、自分の意思では解除すら出来なくなっているんだ。
こうなってしまったら、後は外部からの衝撃で強制的に意識を奪うか、魔力の枯渇による死を待つか、二つに一つだ。
とはいえ――、
「ぜったい……助けるから!」
アイツが後者を選ぶ訳ないか。
決意と覚悟を秘めた瞳で、瘴気の密集地点を見据えるアイネ。
そして、その身体に纏うベールが、透明から柔らかい陽射しの色へと変化していく。
やがて、アイネの羽衣は、全てを優しく包み込む太陽の如き輝きを放つまでになった。
「一瞬で……終わらせる!」
それまでとは比べ物にならない魔力の奔流を撒き散らし、それだけで周囲の瘴気を尽く祓っていく。
そして、魔族の少女を閉じ込めるように形成された瘴気の繭に向かって勢い良く飛び出した。
「はぁぁぁっ!」
繭の手前で大きく跳躍したアイネは、空中でクルリと一回転して、見惚れるように美しく、目が覚めるように強烈な回し蹴りを叩き込む。
その結果、魔族の少女を囲っていた牢獄は呆気なく砕け散り、全身を傷だらけにした彼女がグッタリと倒れ伏した。
「……ふぅ。なんとか……出来た……」
続いて、何故かボロボロになっているアイネも、その場に崩れ落ちる。
瘴気が羽衣を突き破ったようには見えなかったけど……。
「……お疲れ様。大丈夫?」
へたり込んだアイネに近付き、そっと手を差し出すルミナリエ。
彼女の方が小さく、幼い見た目なのに、まるで姉のような気遣いだな。
そして、ルミナリエの手を素直に取って、アイネは慎重に立ち上がった。
「あ、ありがとうございま……じゃなくて……ありがとうっ!」
「……うん、どういたしまして」
まだ敬語が抜けきらないのか、初々しく言い直すアイネ。
そんなアイネを微笑ましそうに見つめ、ルミナリエはコクリと頷く。
本当に、これじゃあ、どっちが歳上だか分からないな。
しかも、アイネの手を離す寸前に、さり気なく回復魔法まで掛けてたし。
将来的には気配り上手な嫁さんになりそうだ。
……まぁ、あの魔王の眼鏡に適う男が居れば、の話だけどな。
「あの……図々しいかもしれないけど、あの子の回復も、お願い出来ないかな?」
そう言って、傷だらけになった魔族の少女を見つめるアイネ。
命に関わるレベルの傷ではないが、生身の状態で、あの瘴気に晒されていたため、相当なダメージを負っている。
たとえ意識が戻った所で、少なくとも、この試験中は動けないだろうな。
「……止めておいた方が良い。あれだけ強い憎悪なら、積み重ねた年月が計り知れないくらい根が深いものだから。目覚めた途端に、また暴走するだけ」
「……そう……だよね」
その表情を見るまでもなく、納得は出来ていないのだろうと分かる。
それでも、無理を押し通す真似はしなかった。
問題の根幹が解決していない以上、中途半端に関われば、双方にとって悲劇をもたらすから。
……いや、それだけではない。
魔族の少年が人質に取られた様に、再び第三者が巻き込まれる危険も充分にある。
その可能性を無視して回復を願うのは、ただの偽善だと気付いているのだろう。
アイネの性格や信念を考えると心苦しいだろうが賢明な判断だ。
急に辺りが暗くなった原因は、魔族の少女から発せられている瘴気だった。
まるで、心の内のドス黒い感情が形を成して溢れたような光景だ。
その悍ましさにアイネが絶句し、ルミナリエが眉を顰める。
それと、いつの間にか、スパイラル・サイクロンの魔法陣が消えているな。
それが少女の意図した結果なのかは分からないが、とにかく彼女は新たな魔法に切り替えたらしい。
それにしても、あの現象は……。
「どいつも、コイツもぉぉぉっ!」
魔族の少女の感情が爆発し、それに呼応するように広がっていく瘴気。
それを見たルミナリエが鎌を一振りすると、彼女と魔族の少年を囲うように結界が生まれた。
そして、アイネの方は例の羽衣で瘴気を遮断したようだ。
黒い靄が纏わり付いた事で、彼女を覆うように展開された透明のベールが良く見える。
その透明な輝きは、汚泥のような瘴気の中でも、なお神秘的な存在感を醸していた。
しかし、ルミナリエの結界が全く瘴気を寄せ付けないのに対して、アイネの羽衣は少しずつ侵食を受けているようだ。
その事実が、二人の実力差を端的に示している。
「……不味いかも」
ルミナリエの呟きは、アイネを気遣ったものではない。
どこか心配そうな彼女の視線は、瘴気の発生源に向けられている。
どうやら、この魔法――闇の上級魔法ポイズンミストは、一種の暴走状態にあるらしく、術者である魔族の少女自身も瘴気に蝕まれているようだな。
魔法の中心地であるが故に特に瘴気が濃く、肉眼では殆ど見通せないが、少女の魔力の流れで、ある程度の容態は把握できる。
恐らく、感情が高ぶった影響で無意識の内に魔法を発動してしまい、制御を誤ったんだろうな。
そして暴走する魔法に意識を飲まれ、自分の意思では解除すら出来なくなっているんだ。
こうなってしまったら、後は外部からの衝撃で強制的に意識を奪うか、魔力の枯渇による死を待つか、二つに一つだ。
とはいえ――、
「ぜったい……助けるから!」
アイツが後者を選ぶ訳ないか。
決意と覚悟を秘めた瞳で、瘴気の密集地点を見据えるアイネ。
そして、その身体に纏うベールが、透明から柔らかい陽射しの色へと変化していく。
やがて、アイネの羽衣は、全てを優しく包み込む太陽の如き輝きを放つまでになった。
「一瞬で……終わらせる!」
それまでとは比べ物にならない魔力の奔流を撒き散らし、それだけで周囲の瘴気を尽く祓っていく。
そして、魔族の少女を閉じ込めるように形成された瘴気の繭に向かって勢い良く飛び出した。
「はぁぁぁっ!」
繭の手前で大きく跳躍したアイネは、空中でクルリと一回転して、見惚れるように美しく、目が覚めるように強烈な回し蹴りを叩き込む。
その結果、魔族の少女を囲っていた牢獄は呆気なく砕け散り、全身を傷だらけにした彼女がグッタリと倒れ伏した。
「……ふぅ。なんとか……出来た……」
続いて、何故かボロボロになっているアイネも、その場に崩れ落ちる。
瘴気が羽衣を突き破ったようには見えなかったけど……。
「……お疲れ様。大丈夫?」
へたり込んだアイネに近付き、そっと手を差し出すルミナリエ。
彼女の方が小さく、幼い見た目なのに、まるで姉のような気遣いだな。
そして、ルミナリエの手を素直に取って、アイネは慎重に立ち上がった。
「あ、ありがとうございま……じゃなくて……ありがとうっ!」
「……うん、どういたしまして」
まだ敬語が抜けきらないのか、初々しく言い直すアイネ。
そんなアイネを微笑ましそうに見つめ、ルミナリエはコクリと頷く。
本当に、これじゃあ、どっちが歳上だか分からないな。
しかも、アイネの手を離す寸前に、さり気なく回復魔法まで掛けてたし。
将来的には気配り上手な嫁さんになりそうだ。
……まぁ、あの魔王の眼鏡に適う男が居れば、の話だけどな。
「あの……図々しいかもしれないけど、あの子の回復も、お願い出来ないかな?」
そう言って、傷だらけになった魔族の少女を見つめるアイネ。
命に関わるレベルの傷ではないが、生身の状態で、あの瘴気に晒されていたため、相当なダメージを負っている。
たとえ意識が戻った所で、少なくとも、この試験中は動けないだろうな。
「……止めておいた方が良い。あれだけ強い憎悪なら、積み重ねた年月が計り知れないくらい根が深いものだから。目覚めた途端に、また暴走するだけ」
「……そう……だよね」
その表情を見るまでもなく、納得は出来ていないのだろうと分かる。
それでも、無理を押し通す真似はしなかった。
問題の根幹が解決していない以上、中途半端に関われば、双方にとって悲劇をもたらすから。
……いや、それだけではない。
魔族の少年が人質に取られた様に、再び第三者が巻き込まれる危険も充分にある。
その可能性を無視して回復を願うのは、ただの偽善だと気付いているのだろう。
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