ある少女の恋物語

マーくん

第7話 嫉妬

アーベ領の改革が始まってもうすぐ4年になります。

ハーバラ村から帰って来た時から人が変わったように働くフックのおかげで、アーベ領は見違えるように、変わりました。

領内の主要な街村には上下水道が整備され、清潔な生活を送れるようになりました。

病気の人も減り、水汲みから解放された子供達は、私塾や学校に通うようになりました。

私塾とは、アーベ領で考えたもので、歳をとってリタイヤしているお年寄りなんかを、領費で雇って運営する小さな学校です。

学校をたくさん建てるのは大変だけど、私塾だったら村の集会所や先生の家でも開けるし。

農村では、肥料を使ったり、水車で水を引いたりして、ずいぶん生産性が上がりました。

皆んな大喜びです。

わたしも嬉しいんだけど、……

アイツはよくハーバラ村での体験について話してくれます。

でも、そこにはリザベート様の名前が出てくるのです。

リザベート様といえば、王立アカデミーを首席で卒業し、キンコー王国初の女性官僚になられた素晴らしい方です。

その上、ナーラ公爵様の養女で才色兼備、身分の分け隔てなく接するその姿は、『聖女様』の名で呼ばれています。

ちなみにわたしと同い年ですが、比較するのもおこがましいほどです。

アイツは、リザベート様がまだ14歳の頃にお会いしたそうで、一目惚れしたそうです!!!

4年経った今でも忘れていないようで、皆んなに自慢話のようにリザベート様の話しをしています。

アイツがリザベート様になんてある訳ないんだけど、やっぱり気持ちが良いわけありません。

本当ムカつく。



「リンダ、皆んな、リザベート様がアーベ領に視察に来られるぞ!

皆んな、急いで歓迎の準備をするぞ。」

そんなある日、王国内の改革状況を確認するために各地を視察されているリザベート様が、アーベ領に来られることになりました。

胸騒ぎがします。
何にもある訳がないのはわかっているのに。

それからの数日は、ご飯も喉を通らない日が続きました。

そして、リザベート様がアーベ領に来られる日になったのです。

いつもは寝坊の常習者のフックが朝早くから仲間達を連れて、ツバサおじさんの詰所でリザベート様を待っています。

その姿が5年前のフックを待っていた、わたしの姿と重なって無性に腹が立ってきました。

でもわたしも大人です。ここはグッと我慢して平静を装います。

後で聞いたのですが、そのときのわたしは、感情を隠し切れてなかったようですが。

わたしは、皆から距離を取られていることにさえ気付いていなかったようです。


昼前にリザベート様の馬車が街に入ってきました。

「リザベート様、ご無沙汰しております。代官のフックです。

本日はアーベの視察お疲れ様です。」

「フック様、ご無沙汰しております。
ハーバラ村以来ですね。

アーベ領の改革は物凄く進んでいると聞いています。

ハーバラ村時代に一緒に頑張ったメンバーが、活躍されているのは、わたしも誇らしいです。

本日はよろしくお願いしますね。」

なんて人なの。公爵令嬢で『聖女』ともてはやされているにも関わらず、おごりなんて何処にも無い。

フックとの再会やアーベの発展を心から喜んでいるなんて。

こんな人には勝てっこ無い。


「………リンダ、リンダ!、リンダ!!」

「えっ、は、はい。」

「リンダ、なにボサッとしてるんたよ。」

「リザベート様、こいつが俺のサポートをしてくれているリンダです。

まあ、マサル様のサポートをしていた頃のリザベート様とは比べようもないですけどね。

でも、俺もマサル様の足元にも及ばないから、俺には充分過ぎますけど。」

あんた、それ、わたしを貶してるの、それとも………


「ほらリンダ、視察に行くぞ。

お前今日は本当に変だぞ。
なんか変なもの食ったのか?」

わたしはフックの頭を思いっきり殴ってから、リザベート様達を追いかけました。

リザベート様と張り合うのは無駄なことだと思い知らされました。

でも、アイツの目線で一緒に考え、悩み、そして解決していくことならわたしにも出来そうです。

          

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