ある少女の恋物語

マーくん

第6話 アーベ領の改革

アイツがナーラ領に視察に出て行ってから約3ヶ月経った。

この3ヶ月間、わたしは土木や経済の仕組みを一生懸命に学んだ。

少なくとも、アカデミーに行かなかったから無知だと言われないように。

アイツのサポート役として恥ずかしくないように。

そして暑い日が続くようになった頃、アイツは戻って来た。

「リンダさん、フック代官様が戻ってこられましたよ。」

検問所に最近入ったハイツ君が走って伝えに来てくれた。

ハイツ君にお礼を言って、検問所に向かう。

「リンダ、久しぶり。元気にしていたか?」

久しぶりに会ったアイツは、屈強な兵士のような身体をしていた。

「あなた、本当にフックなの?」

「ひどいな、どこからどう見てもフックだろう。」

「どう見てもフックに見えないから確認してるのよ。」

「ははは、確かに3ヶ月前までのフック君には見えないものな。
リンダちゃんの気持ちはわかるよ。

でも、本当に精悍になったな。」

ツバサおじさんのフォローで、喧嘩にならずに済んだ。

おじさん、ありがとう。

「お帰り、フック。」

「ただいま、リンダ。
ところで父上の容態はどうだ?」

「また、持ち直したみたい。」

「とりあえず良かったよ。」

2人で領主様に帰還の報告に行く。

領主様もフックの身体を見て驚いていた。

フックの報告を横で聞きながら、ドキドキする。

引き締まった身体、日焼けで黒くなって一層精悍に見える顔、節くれだった指。

今までの白くて細くて、でも腹回りだけ出ていたフックの面影は消え、カッコ良いフックに変わったんだから。

話し方も変わった。

何か堂々としている。
自信を持って話しをしているのが分かる。

たった3ヶ月なのに何があったのだろう。

「フック、よく頑張ったな。
お前の頑張りはジャン殿からも定期的に報告を頂いていたのだが、わたしの想像以上に成長してくれたようだ。
さあ、報告はこのくらいにして、父母に顔を見せてやれ。」

ボディ家に着くと、ボディ子爵や叔母様はひどく驚かれると共に立派な姿になった息子を喜んでおられた。

既に護衛の2人は屋敷に戻っており、簡単な報告も済ませていたので、そのままアーベ家、ワダ家が揃って宴会となった。

フックの武勇伝や外国から来てリーダーをしているマサルという人の話し、王都からの応援等の話しで盛り上がった。

「領主や代官が仕切って作業を進めるのではなく、農民達が自発的に作業を進めたり、進め方を考えたりするようにならないと、本当の改革は出来ないと思う。」

フックの言葉に、皆が黙ってしまった。

「フック、本当にハーバラ村では、そんなことが出来ていたのかね。」

「出来ていました。
王都から来た学者達と農民が喧々諤々の議論を重ねて、ハーバラ村にとって最善と思われる手法を選択している光景を何度も見ました。」

フックは話しを続ける。

「農民だけじゃありません。
荒くれ者達も先頭を切って自発的に土木作業に従事していました。
実際、わたしもそこに混じって作業していたからよくわかります。

農民も荒くれ者も、自発的に楽しみながら作業しているのです。」

熱く語るアイツは、前とは別人のように輝いていました。


翌日から、アーベ領の改革について会議が始まりました。

わたしはフック代官の補佐として、資料のまとめや人員の手配等を行うことになりました。

わたしだって2ヶ月間土木や経済について勉強してきました。

ハーバラ村で体験して来たフックには敵わないけど、おおよその概念は理解出来るようになったと自負しています。


忙しい日々は、あっという間に過ぎて行きました。


途中でフックが『師匠』と呼ぶジョージ様が厳つい顔をした仲間10数人で応援に来てくれたときは、兵士を呼んだくらい驚いたけど。

後で知ったんだけど、ジョージ様達って、吟遊詩人が唄うほど有名人だったみたい。


作業は順調に進んでいきます。

ジョージ様達の仕事振りに感化された酒場の荒くれ者達が、フックに直談判して、土木作業に就いてくれたのには、びっくり。

その様子を見て次々と参加者が増えて、ついには領主様から改革チームとして正式な領内の役職になっちゃたんだ。

そんなこともあって、アーベの街は上下水道が整備され、清潔になったし、農村も収穫量が増えて、生活水準が上がった。

最近では隣の領から移民して来るものも増え、村から町になったところも出てきた。

王都の有名な店の支店が出来たりして、景気が良くなっているのが実感出来ている。

でもわたしの気持ちは………






          

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