最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第262話 【謎の病気4】

<<シルビア視点>>
サキヤちゃんに案内され、ヤシム君の家に向かう。

長屋のようなひと続きに家が並ぶ建物『コッペ』の真ん中辺りにヤシム君の家があった。



ちなみにこのコッペは、『伝説の現場監督』ジョージが、部材を減らした上で頑丈な集合住宅を目指して設計したものだ。

両端に半円形の共有スペースがあり、その間に10 件ほどの家が並ぶ。

1件あたりの間取りは3DKほどで、農村部で親子4人が暮らす標準的な広さになっている。

共有スペースは、倉庫や家畜小屋、水浴び場になっているケースもあり、それぞれの地域に合わせたユーティリティースペースとなっている。

コッペは瞬く間に地方部を中心に建設された。

山の上から見た姿が、当時爆発的に流行っていた『コッペパン』に似ていることから名付けられたらしい。



ヤシム君の家に入ると、魔力の独特な匂いがしてきた。

「窓を開けて!」

わたしは、この魔力臭に違和感を感じて、とっさに叫んだ。

「おばさん、こちらはシルビア先生と言ってキンコー王国の有名なお医者様なの。」

「まあ!そんなお医者様が、どうしてこんな田舎に?」

「王から聞いて、薬草を採りに来たのだ。

それよりも、早く窓を開けて!」

ヤシム君の母親は、わたしの勢いに押されて、全ての窓を開けた。

数分後、少し匂いが和らいだ。

ヤシム君に近寄り、容態を確認する。

症状的には『魔力酔い』に近い。

魔力を使い果たした時に起こる、発熱と酷い倦怠感、稀に意識を失ったり、酷いときには死んでしまうこともある。

ただ、彼の身体からは魔力が溢れ出しているようだ。

魔力酔いは魔力の欠乏によるものなので、真逆の原因だと思われる。

「いつからこの病気に?」

「10日ほど前からです。今は熱が出ていますが、引くときもあります。

窓を開けてから少し熱も下がったようです。」

「うむ、彼の身体から、大量の魔力が溢れ出している。

恐らく、魔力が絶えず動き回っているので、身体がついていけてないのが原因かと思う。

彼は魔力を使うのか?」

「いえ、魔力などと言うものは、使ったことどころか、存在も知らないと思います。」

「しかし、この量は多過ぎる。

普通の人間じゃ考えられない。

10日前に何かあったのだろうか?」

「いつものように、山に薪を拾いに行ったくらいで。

……そう言えば、その日に限って少し深くまで行ったと言っていました。」

恐らくその時に何かあったに違いない。

「それはどの辺りか分かるかい?」

「はい、頂上近くの『竜神泉』辺りだと思います。」

「竜神泉?昔竜がいたと言われている泉のことか?」

「そうです。あの辺りは侵入を禁止しているのですが。」

「わたしも先日、そこに行った。

初めて見る薬草がたくさんあって有意義だった。

だが、気になるものも無かったと思うが。」

そう、その泉の周りにはたくさんの薬草があり、年甲斐もなく興奮してしまったのだ。

「よし、イリヤちゃんが戻って来たら行ってみよう。

ヤシムは魔力を発散させれば症状も落ち着くだろうから、起きたら発散の仕方を教えよう。」

「先生、ありがとうございます。」

「まだ礼を言うのは早いぞ。
原因を突き止めないとな。

わたしは、宿屋に泊まっているので、何かあれば呼びに来てくれるか。」

「「分かりました。」」

ふたりの声に見送られ、わたしは宿屋に向かった。



<<イリヤ視点>>
お父様と一緒にスリトーの王城からサヤマ村まで戻って来た。

「シルビア先生、ヤシム君の容態はどうでしたか?」

宿屋に向かう途中、シルビア先生に会ったので気になっていたヤシム君の容態について尋ねる。

「取り敢えずは落ち着いたな。

ただ、身体から魔力が溢れ出していて、魔力酔いみたいな症状が出ている。」

「シルビア先生、そんなことはよくあることなのですか?」

「マサル様、一部上級貴族の幼い子供が罹ることはある。

強い魔力に身体がついていかないからなのだが、成長とともに自然に治ったしまう程度のものだ。

ただ、ヤシム君の場合は、充分成長しているし、なによりも、これまで魔力と縁がなかったそうだ。

突然大量の魔力を持ったような感じだな。」

「そういう話しは今まで聞いたことがありませんね。」

シルビア先生とお父様の話しを聞いていましたが、わたしにも何のことか全くわかりません。

「とにかく、意識が戻ったら、魔力発散の仕方を教えるつもりです。」

「そうですね、取り敢えずはそれしか方法が無さそうですね。」

「シルビア先生ー、ヤシムが意識を取り戻したわ。」

サキヤちゃんが大きな声でこちらに走って来た。

「おや、もう起きたのかい。
じゃあ、行くとしよう。」

「わたしも行きます。」

わたしは、早足で先を行くサキヤちゃんを追いかけるように、シルビア先生の手を引っ張って、ヤシム君の家に急ぎました。


          

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