最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第85話 【知的財産】

<<サイツ視点>>

わたしの名はサイツと言います。

わたしは貴族ではないので、家名がありませんが、陛下の側近の一人として、日々王城で仕事に励んでおります。

かつてレイン陛下はキンコー王国にしばらく滞在しておられました。

そして、トカーイ帝国で反乱が起こり、急いで帰国されるレイン陛下のお手伝いをさせて頂いたご縁で、今こうしてトカーイ帝国民として陛下にお仕えするようになったのです。

昨日は、陛下主催の晩餐会が行われました。

恐れ多くも平民であるわたしも末席に座らせて頂いております。

晩餐会の主賓はリザベート様です。

リザベート様はキンコー王国の行政改革を推進する官僚であり、大陸の中でも、農村改革の第一人者として広くその名が知られています。

一昨日、帝国カレッジで開催されたリザベート様の講演を聞かせて頂きました。

文字も読めず、計算も出来ず、その日を必死に生きる地方農村に自ら赴き、彼等と一緒に汗を流しながら、彼等の意識改革をはじめとして、食料、教育、医療、新しい産業等、増産や新規開発を進めていかれた過程を、笑いあり涙ありの話術で語る姿に感動しました。


わたしの出身も地方の農村でした。

わたしが居た頃は、日々の食べるものにも困り、ひとたび自然災害が発生すると、木の根や皮を食べていたものです。


少し前から、村にもカトウ運輸の手紙配送が定期的になりました。

わたしが居るトカーイ帝国の帝都からキンコー王国の片隅にある村まで、手紙が1週間くらいで着きます。

料金はそこそこしますが、月1、2回の往復分くらいは、わたしのお給金でも充分に払える金額です。

講演の内容を聞いていると、手紙に書かれている内容と一致することが多い印象を受けました。

これは、官主導で村人達が置きざられた施策ではなく、村人達がキチンと理解して自分達が主導で改革してきた証拠でしょう。

講演の後、リザベート様にこの話しをすると、涙を浮かべながら喜んで下さいました。

これこそが真の意味での成果なのだと、トカーイ帝国で改革の末端にいるわたしには、気持ちが引き締まる思いでした。

さて話しは戻りますが、晩餐会の時に『知的財産』の話しが出ました。

陛下からその担当に指名されたわたしは、今リザベート様から講義を受けています。

『知的財産』とは、公知で無い情報の内、誰かにとってお金になりうるものを指す。と、リザベート様は定義されています。

つまり、常識の範囲内で誰もが知っていると認められる情報以外で、そのことを知った第3者が利益を得られる情報がこれにあたります。

例えば、名刀を作れる鍛治師が、その製造過程で、一般的でない材料や手順を使っていた場合、その作業工程や材料が『知的財産』になります。

その他の例では、特定の地域のみに伝わる果実の栽培方法等、その地域では常識でも他地域に行けば一般的でないもので、その地域にとって有用になり得る情報もこれにあたります。

このような情報はどこの地域でも、昔から門外不出として出さないようにしてきました。

その情報が盗まれることで、他者との優位性が無くなり、不利益を被る場合が多いからです。

『知的財産』とは、『これらの知識を隠さずに、信用のおけるところに登録しておき、万が一真似をされたとしても訴え出て、それを差押えることができる。
また、それを必要とされた場合はその使用料を請求できる。』という仕組みを含めての考え方だそうです。

信用のおけるところとは、国際連合内の国際裁判所になります。

つまり、国際連合に『知的財産』を登録しておけば、もしその情報が盗まれ損害を負った場合、国際連合に訴えればその内容を判断された上で、相手側に損害賠償を求めることも可能となるのです。

実際に特許制度等、既に国際的に運用されている事例なども説明して頂きました。

マサル様が持っている粉挽き機能付きの水引水車やトラック馬車などのような製造物に関わるものや、リザベート様が持っている、街道沿いの駅のような、アイデアや施設運用ノウハウも『知的財産』として登録されているということです。

「まだ『知的財産』については運用が始まったばかりでもあり、不正の取り締まりや、情報提供時の適正価格、既に登録のある情報との類似確認など、システム自体も熟れてくる必要があるってマサルさんも言ってました。」

リザベート様、凄い、凄すぎます。
今までなかった仕組みなのに、それを考えるだけでなく、その問題点まで明確にできるなんて。

天才なんて言葉が軽く感じます。

わたしも負けてなんていられません。

先日の講演で、『経済戦争』という言葉がありました。

『武力により国同士が争い互いに疲弊しあうのではなく、双方の国民が豊かになるように、経済の豊かさを競い合うようになる状況』を指す言葉だそうですが、本当にそうなれば素晴らしいことだと思います。

わたしも、トカーイ帝国が経済戦争に勝てるように、もっともっと勉強しようと心に誓いました。


          

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