最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第80話【ユーリスタの憂鬱】

<<ユーリスタ視点>>

「もおぉ、こんなに忙しいのに、なんとかならないかしらねー。」

「奥様、そう仰ってもですね、ネクター王経由で持ち込まれる他国の王族や高位貴族からの縁談ですからねぇ。

無碍にはできませんよ。」

「そんなことわかっているわよ。
でもね、あの子は仕事に夢中だし、心に決めた人もいるからね。

縁談話しなんて持ち出せないわよ。」

今わたしの元にはリズちゃん宛ての縁談が毎日山のように送られて来ます。

他国の王族や高位貴族なんかからの縁談なんて、本当はもっと喜ぶべきなんでしょうけどね。

それでも最近になって、益々増えている気がするわね。

噂によると、吟遊詩人がリズちゃんの活躍を歌にして広めているらしいのよ。

どうしてなのでしょう。

でも今一番仕事が充実しているあの子に縁談話しなんて持ち出せないわよね。

早く、マサル様がプロポーズしてくれればいいのだけれど、あの唐変木ったら、いつもあっちこっち飛び回っていて、そんな気配もないし。

リズちゃんも、1年の内11ヶ月くらいは、どこかに視察や講演に行ってるし。

まぁ、2人が動き回っているお陰で、ものすごく景気が良くなっているので、悪口は言えないわね。

思えば、あの2人がナーラの屋敷に来てから6年になるかしらね。

マリアンさんの子供で、わたしの姪にあたるリザベートがここに来たのは14歳の頃だったわ。
あどけない顔だけど、しっかりとした意志を持った目をしていた。

父母をヨシーノの森の中でビッグベアに殺され、自分も襲われたのに、マリス様の使いであるマサル様に助けられたんだったわね。

その後、ナーラまで来る途中で家の旦那様に出会って、ここに来た。

幸運の持ち主というよりも神に愛されているのかと思うほどだったわ。

マサル様について行ったハーバラ村での活動が、アカデミーを動かすほどの影響を与えたし、その功績に加え、圧倒的な学力を持って女性初の官僚となった。

わたしの再来とか言われるけど、とんでもない。

わたしなんかより、よっぽど行動力も柔軟性もあるわよ。

今も、キンコー王国のみならず、様々な国を廻って農村改革の講演に奔走しているし、なにより彼女に憧れて、官僚を目指す女の子が増えたのは、嬉しい限りだわ。

それに最近ますます美しくなってきて、そりゃ王侯貴族が放っておくはずがないわね。

でも、そんなにキンコー王国にいないのなら、寂しいでしょう?って。

ちょっとだけね。
でも魔道具のトランシーバーでいつでも話せるから、もしかすると、一緒にいた時よりも、よく話してるかも。

とりあえず、王族だけでもお見合いをしてもらわないと。

このお見合い候補のプロフィールも送れたらいいのに。

マサル様に相談しておきましょう。


<<リザベート視点>>
最近毎日ユーリスタお義母様から連絡が入ってくるの。

別にお義母様の声を聞くのが、嫌じゃないの。

ただ、お見合いの話しばかりだから、少しウンザリしているだけ。

わたしにはマサルさんっていう、心に決めた人がいるんだから。

わたしももうすぐ20歳。
貴族としては遅いくらいなのはわかっているの。

でもね、マサルさんに相応しいレディーになるまでは、結婚なんてできないの。

絶対マサルさんの方から結婚して欲しいって言わせてみせるんだから。

たぶん知らない人は、高位貴族になったわたしとは、釣り合いが取れないとかって言うんだけど、マサルさんだったら一国の国王になってもおかしくないと思うのよ。

それに、大陸一の大商会であるカトウ運輸の創始者にして現会頭よ。

その辺の大貴族だって資産でも太刀打ちできないわ。

ただ問題なのは、カトウ運輸の会頭であることを公にしていないことと、お金に無頓着なところね。
自分の給与の中から必要ない分は慈善事業に全部使っちゃうのよ。

まだ家も持たないで、カトウ運輸の独身寮に住んでいるし。

もう少し上手くお金を使えば、誰にも何も言わせないのに。

でもね、そんなマサルさんが大好きなの。

マサルさんの慈善活動のお陰で助かった子供達は、カトウ運輸や慈善団体で、一生懸命に働いている。

改革に参加して実績を挙げている人も出てきた。

それで、新しく救える命があるから。

その他にも、マサルさんがカトウ運輸の物流センターを設置した国では、多くの人々が救われて、マサルさんが神様扱いになってたりするの。

全くマサルさんってば、何というか、凄いんですよっ。

さすが、わたしの騎士様です。


話しがそれちゃったんだけど、今日わたしは、トカーイ帝国に来ています。

トカーイ帝国のレイン皇帝から、帝国カレッジの学生に農村改革の話しをして欲しいって講演依頼が来たんです。

トカーイ帝国でも、農村改革が地方でも始まり出しています。

レイン皇帝が直々にキンコー王国の農村各地を視察して、各地方に合わせた改革方法を熱心に聞いておられました。

いつも皇帝の隣で熱心にメモを取っておられたサイツ様が、帝国で実際の指揮にあたられるようです。

今回のカレッジでの講演にもサイツ様がサポートとして、付いて下さっています。


わたしとサイツ様が乗った馬車が、そろそろ帝国カレッジに到着しそうです。

前方にわたしを歓迎してくれている横断幕が見えます。

道沿いには学生さん達がところ狭しと並んで歓迎してくれています。

「リザベート様、皆さんあなたが来られるのを心待ちにしていたのですよ。

さあ、手を振ってあげて下さい。」

サイツ様の言葉に少し赤面しながら、わたしは外に向かって手を振りました。

学校の門をくぐって校舎の入り口に着き、馬車を降ります。

「リザベート様、ようこそトカーイ帝国 帝国カレッジへ。
お待ち致しておりました。」

聡明そうな女生徒が、挨拶してくれた。

生徒会長だろうか、ものすごい笑顔で握手を求めてきた。

「わたしは帝国カレッジで生徒会長を務めておりますサリナ・エルンと申します。
わたし、リザベート様の大ファンなんです。
『マサル、ハーバラ村の奇跡』を見て感動したんです。

その後も 『次世代の農村を考える会』の発表会にも参加させて頂きました。
あの時は初級学校に通っていて、難しい話しはよく分からなかったのですが、リザベート様が眩しくって、とっても嬉しかったです。

カレッジに進学して、リザベート様のされてこられた実績が理解した出来るようになってからは、少しでもリザベート様に近づきたくって、一生懸命に勉強して生徒会長にもなりました。

今は、官僚を目指して頑張っています。

とってもお会いしたかったです。」

サリナの弾丸のような言葉に少し引きながらも、自分が頑張ってきたことを褒めてもらったようで、とっても嬉しかったと同時に、自分の行動が他人にこれほどまで影響を与えていることに、気が引き締まる思いです。

          

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