最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第39話【ユーリスタ、苦悩する】

<<ユーリスタ視点>>
昨夜賊に襲われてから、身の廻りの警備が強化されました。
賊の正体も分からない以上、部屋から出るわけにもいかず、久しぶりにのんびりする午後になります。
そういえば、ここ数年は忙しくって、こんなにゆっくりすることもなかったわね。
ある意味、賊に感謝しなきゃいけない。

そんなことを考えていると、誰がドアをノックした。
「はい、どうぞ。」
「マサルです。賊を捕まえてきました。
マークや護衛も一緒ですが、入っても構いませんでしょうか?」
マサル様は、夜明け前にホンノー自治区に行くと言って出て行ったはずでは?

「はい、大丈夫ですよ。どうぞ。」

「失礼します。」

マサル様は、ロープで縛った30代半ばの男を連れている。

「お寛ぎ中、申し訳ありません。
この男が、昨夜の賊です。
名前は、ハゲン。ハローマ王国、ダゴー公爵領で発見し、連れて参りました。
既に尋問を終え、自白させております。」

いつの間に?……
そうだ、マサル様は、マリス様の加護を受けておられてるのでした。
わたしとしたことが、すっかり忘れていましたわね。

「マサル様、本当にご苦労様でした。」

「ありがとうございます。
それで、今回の襲撃の黒幕について、ご相談があり、こちらに伺いました。」

「黒幕とは?」

「どうも、ハローマ王国ダゴー公爵令嬢が、黒幕のようなのですが、相手が相手だけに、どうしたものかと。」

「ハローマ王国、……ダゴー公爵令嬢???…………!!
もしかして、マリー様ですか?」
「ユーリスタ様、覚えておいででしたか。」
「えぇ、わたしがアカデミーに通っていた頃の学友ですわ。
1年の頃は、わたしとトップ争いをしてましたライバルでしたわ。
でも、確か2年に上がる頃から病気で休みがちになり、しばらくして療養の為、退学して国元に戻られたと伺いましたが。」

「どうも彼女は、自分がトップになれないことがプライドを強く傷つけたみたいで、ユーリスタ様を逆恨みして、ノイローゼになったようです。

詳しい話は、この者にさせます。
ハゲン、話してください。」

マサル様に促されたハゲンという男は、諦めたようで自分が知る限りのことを話し出しました。

マリー様の生い立ち、初めて味わった挫折、ユーリスタに対する憎悪、ホンノー自治区への攻撃の真相、ユーリスタ襲撃の詳細等、自分の知る限りのことを語っています。

ハゲンとしては、包み隠さず話すことで、自分の心象をよくしたい一心なのでしょう。
マリー様を落としめるような言い方になってしまっているようなところを感じ取れます。

が、わたしにはその話しはマリー様に同情するに値する内容でした。

「……もし、わたしがマリー様の立場だったら、同じことを起こしていたかも知れないわ。」

自分自身も、幼少から似たような境遇のユーリスタには、マリーの苦悩が理解できるつもりだ。

「マサル様、何とかマリー様を追い詰め無いように穏便に済ませられないでしょうか。」

本心だ。もちろんことを荒立てると、国家間の問題に発展するであろう。
それは、当然避ける必要がある。
ただ、そのことよりもマリー様の苦しみを何とかしてあげたい。

「わかりました。この話しは、しばらく内密にお願いします。
わたしが、何とか考えて見ます。」

マサル様の言葉をありがたく聞きながら、自分にできることを、考えようと思います。

<<マサル視点>>
ユーリスタ様の気持ちは、よくわかった。
安請け合いしてしまった感があるがどうしたものだろう。

相手は、友好国とはいえ、別の国の公爵令嬢。
下手に接触すると、国家間の問題になることは必須。

ダゴー公爵領は、キンコー王国と隣接しているし、なんとかダゴー公爵とコンタクトを取れればよいのだけれど。

そうこう考えているうちに、あっという間に時間は過ぎ、キンコー王国に戻ることになった。

帰る道中は、本来であれば、ハゲンをリーダーとした敵に襲撃されるはずだったのだが、そのハゲンは、ここにいる。
その他のメンバーも、隠れ家に戻って来たところを警報器の魔道具で察知し、ワーカ領の騎士が、確保した。

こうして、ユーリスタ様襲撃計画は、マリーには気付かれずに未遂に終わった。


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数日後、俺達は無事にキンコー王国の王都に到着した。

俺は、与えられている執務室に入り、机の上に溜まっている未決済書類に目を通し始めた。

上からしばらく見たところで、1枚の陳情書が目に入った。

本来であれば、俺のところに陳情書が直接届くのもおかしな話だ。
だがハーバラ村を始め、いくつかの場所で一緒に仕事をした仲間達は、俺が王都に来た後も俺に直接陳情したがった。
彼らは、役人が苦手なんだ。
だから、彼ら用に俺当ての陳情書入れを用意してもらった。

俺は、それに目安箱って名前を付けたんだが、しばらくすると、奴ら以外の庶民にも、「役人に話しにくい陳情は、目安箱に入れたら全て解決する」との噂が噂を呼び、大量の陳情書が届きだした。

まぁ、夫婦喧嘩や金の貸し借り等言ってこられても困るものがほとんどだが、中には役人の不正や、怪しい隣人の報告(実は、他国のスパイだった)等の有益な情報もあった為、そのまま続けることにした。

設置してから3ヶ月も経ったらだいぶ落ち着いたけどね。

その1枚の陳情書には、懐かしい名前が書いてあった。

今は、キンコー王国きっての敏腕現場監督と噂される、ジョージ・ハリウン騎士からだ。

今でも騎士にはちがいないが、騎士の名声よりも現場監督と呼ばれる方が本人も良いらしい。

ジョージの陳情書には一言だけ、「ホンノー自治区にいます。助けて下さい。」って書いてあった。

冗談で送ってくるとも思えないし、1週間も前の日付になっている。

危険な気配がするので、とりあえず急いで行ってみることにした。

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