暗黒騎士物語外伝

根崎タケル

おかしな国へようこそ8

「ねえ、どういう事なの?  何で急に通してくれたの?」
 
 ニミュは眉を顰めて言う。
 魔戦士達は先に行く事を許してくれた。
 彼らは白銀の魔女の居城を守る者達であり、簡単に誰かを通したりしないはずである。
 クロの似顔絵を見せるまではそのような態度であった。
 しかし、似顔絵を見せたとたんに彼らの態度は急変した。
 彼らは仲間達で相談し、レンバー達を見なかった事にする事にしたのだ。
 理由を聞きたいが、そのような雰囲気ではなく、先に進むしかなかった。

「わからない。しかし、どういう事だろう? 過去にクロ殿が何かしたのだろうか?」

 レンバーは首を傾げる。
 考えてみればレンバーはクロの事を何も知らないのだ。
 魔戦士達はクロを怖れているようでもあった。
 
「本当に不思議ね。ねえ、貴方は何か聞いていないの?」

 ニミュはグレーテに聞く。

「ううん。アンジュちゃんは詳しい事を教えてくれなかったから」
「そう……。そのアンジュちゃんも気になるのだけど、待って前に何かいる」

 ニミュは溜息を吐くとレンバーを止める。
 
「今度は何だ?」

 レンバーは耳を澄ませる。
 近づいて来るのはカシャカシャと草を踏み分ける音。
 その音は人間の足音のようには聞こえなかった。
 そして、音の主が姿を見せた時だった。

「えっ!?」
 
 月明かりに照らされて現れた者を見た時、グレーテが叫びそうになる。
 現れたのは人ではなかった。
 人と同じ大きさの蟻である。
 その蟻人は槍と盾を持ち、武装している。

「レンバー。不味いわ。明らかにこちらを敵と思っている。さっきと違い話は通じなさそうよ」

 ニミュは腰の剣に手を当てて言う。
 蟻人からは問答無用で襲って来そうな気配がする。
 レンバーはどうすべきか迷う。

「駄目だ。戦ってはいけない。あれはミュルミドン守備兵。相手をしていたらもたない」

 そんな時だった。
 レンバー達は突然後ろから声をかけられる。
 振り向くとそこには一人の男性が立っている。
 かなり整った容姿の美男子だ。
 美男子は品の良い貴族が着るような服を纏い、そこに佇んでいる。
 一見普通の人間に見えるが、その瞳は赤く、口からは尖った犬歯が出ている。

「嘘!? 吸血鬼!? いつの間に? 気付かなかった!?」

 ニミュが驚く声を出す。
 ニミュの言う通り、目の前の美男子は吸血鬼だろう。
 レンバーはニミュとグレーテを守るように間に立つ。
 少なくとも蟻人よりも強そうであった。

「警戒しなくても良い。私の名はジュシオ。アンジュ姉さんに頼まれて来た。君がグレーテだね。間に合って良かった」

 ジュシオと名乗った吸血鬼は膝を地面につけてグレーテに優しく微笑む。
 その穏やかな笑みにグレーテだけでなくニミュの警戒すらも薄らぐのをレンバーは感じる。

(やはり、顔の良い男には敵わないな……。わかっていたけど)

 レンバーは少し複雑な気持ちであった。

「アンジュちゃんに……? そうなんだ。お兄さんがアンジュちゃんが言っていた弟さんなんだね」

 アンジュの名前を出され警戒を解いたグレーテは笑う。

「もしかして、アンジュちゃんも吸血鬼なの?」

 ニミュが聞くとグレーテは首を振る。
 
「ううん。アンジュちゃんはお人形さんだよ。すごく綺麗で可愛いの」

 グレーテが言うとレンバー達は首を傾げる。

「人形か、まあ今はその姿だからなあ。まあ良い私が来たから、ミュルミドンは君達を襲わないはずだ」

 ジュシオの言うとおり、蟻人間ことミュルミドン達はまるで目標を失ったかのように、うろつき始める。

「ミュルミドンの感覚をごまかした。今彼らは私達が見えていないはずだ。ところで君達の状況を教えてくれないかな。どうしてここに少し探すのに手間取ったよ」

 ジュシオはアンジュから魔法で連絡があり、映像の少女を助けて欲しいとお願いされたのだ。
 そこでジュシオは上空を飛び探し、ミュルミドンが警戒をして動いているのを感じ取り、急行したのである。
 
「ああ、それなら……」

 レンバーは説明する。
 ニミュが闇エルフに狙われ、グレーテがそれを伝えにきて逃げる途中で見つかり、漆黒の旦那様に助けを求めに行く途中だと。
 そして、途中で魔戦士と遭遇したが、友人の似顔絵を見せたら通してくれたことを。

「似顔絵か、姉さんも何かそう言っていたな。念のためにその絵を見せてくれないかい」
「ああ、わかった」

  レンバーは懐から似顔絵を取り出す。

「!?」

 その絵を見た途端、ジュシオは驚く顔を見せる。

「なるほど、似ている。その絵の御仁は貴公の友人で間違いないのかい?」
「ああ、短い間だったけど、彼とは親交があった」

 レンバーはそう言うとロクス王国でのクロとの出来事を話す。

「そうか、それだけじゃ。私の知る方と同じ方だとは確信が持てないな。しかし、お会いすればわかる事だ。漆黒の旦那様のところに行くのだろう? 案内しよう。ついておいで」

 ジュシオはそう言うと森の奥へと歩き始める。
 レンバー達はその後をついて歩く。
 そして、しばらくした時だった。
 突然森が開け城門が現れる。
 城門は開かれていて、中の様子が見える。
 それを見たレンバー達は驚きの声を出す。

「えっ? 嘘? 森の中に街が? それにとても甘い匂い。街全体が御菓子みたい」

 ニミュの言う通り城門の奥に街並みが見える。
 そして、街から甘い匂いが漂っている。

「ああ、驚いた。まさか、こんなところに街があるなんて、しかも、住んでいるのは……」

 レンバーは城門から中を覗く…
 街はそれほど大きくないように見える。
 その街中を複数の人影が歩いている。
 しかし、歩いているほとんど者は人間ではない。
 ゴブリンにオークや様々な獣人。
 人間らしき者も見えるが、本当に人間かわからない。
 まさに魔物が住む国であった。

「ここはクロキアの街。人間が作った街と同じ名前なんだ。混乱するかもしれないけどね。さあ行こう。目立つのは得策ではない。静かについて来てくれ」

 ジュシオはそう言うと城門へと向かう。
 レンバー達は本当におかしな国へとやって来てしまったのだった。
 




 エチゴスの館を逃げ出したダンザとゴウズはクロキアの街中を逃げる。
 既に仲間達はやられてしまったので2人だけだ。
 
「どうする。旦那? あの悪魔はヤバいぜ。勝てる気がしねえ」
「ああ、そうだな、ゴウズ。まさか悪魔が潜んでいるとは油断した。早くこの国を出てヴェロスに戻ろう。そこで援軍を要請するんだ。こんな国焼き払ってやる。モンズ達は大丈夫だろうか?」

 ダンザは逃げながら、仲間の事を考える。

「旦那! こっちだ!」

 逃げている時だった。
 別れた仲間が建物の影から顔を見せる。

「モンズか!? 無事だったのか!」

 ダンザ達はモンズのところに駆け寄る。

「ああ、何とか……。しかし、全員やられちまった。逃げ出すが精一杯だった。この国はヤバいぜ」
「どうやらそっちも大変な目にあったようだな。しかし、どうやって脱出するかだ」

 ダンザは考える。
 この国は森の中にあり、夜の森を行くのは危険であった。

「それなら、こっちに馬小屋を見つけた。馬があるかも、それに乗って街道を突っ切ると言うのはどうだ」

 モンズの言葉にダンザは喜びの声を上げる。
 
「良くやったぜ。相棒。案内してくれ!」
「おうよ」

 ゴウズが言うとモンズは後ろを向くと案内しようとする。

「待て! モンズ!」

 しかし、そんなモンズをダンザは止める。
 
「どうしたんだ? 旦那? 早く行かねえと」

 モンズは振り返って訝しげな顔をする。

「待て、お前の腕についている糸のようなものは何だ?」

 ダンザは警戒しながら言う。
 月明かり微かに光る糸のようなものがモンズの腕についていたのだ。
 糸は真っ直ぐに天へと伸びている。

「糸? 何だ? 蜘蛛の糸でもついて来たのか? 気にするほどじゃ、けけけけ」

 モンズは気持ち悪い声を出す。
 その様子にダンザとゴウズは後ろに下がる。

「何者だ……? モンズに化けているな」

 ダンザは剣を向ける。

「ふふ、さすがだねえ。少し遊ぼうと思っていたけど、こんなに簡単にバレるなんてね。あはははは」

 モンズはそう言うと突然倒れる。
 まるで、糸が切れたかのようであった。
 そして、モンズがいた頭上から何者かが降りてくる。

「悪魔か!? モンズを操っていたのか?」
「そうだよう。君達も地下で人形遊びをしないかい? 誘ってあげようと思ったのだけどねえ。あはははは」
「人形遊びだと……」
「そうだよう。君達も新しい人形にしてあげるよ。子ども達が喜ぶよ」

 道化は狂ったように笑う。
 こうしてダンザ達の終わらない夜が始まったのだった。



 レンバー達はジュシオに案内されておかしな街の中を歩く。
 気配を消す魔法を使っているためか誰も気付かない。
 街の住民達はごく普通に生活をしている。
 まるで人間のようであった。

「見て、レンバー。ゴブリンやオークが普通に生活している。何だか変な感じだわ」
「ああ、そうだな……」

 ニミュは辺りを見ながら言うとレンバーは頷く。
 視線の先ではゴブリンが屋台でゴブリンや獣人達に何かを売っている。
 その近くでは2匹のオークが何かを飲みながら雑談をしている。
 これまでレンバーはゴブリンを倒すべき相手としてしか見ていなかった。
 だからゴブリンがどのような生活をして、普段は何をして過ごしているのか考えた事もなかったのである。
 魔物達が人間と同じように生活をしている事に驚きを隠せなかった。
 グレーテが熊のような獣人が食べているものを見て、物欲しそうにする。

「ははっ。あの御菓子が気になるのかい? あれは西から伝わったメルスだね。中に沢山の干果が入っているんだ。全てが終わったら買ってあげるよ」

 ジュシオは笑って言う。
 獣人の食べている御菓子はとても美味しそうであった。

「ここからフジーヤ通りを抜けて、ブルボネ区を過ぎれば白銀の奥方様の住む御菓子の城に辿り着く。出来る限り目立たないようにしてほしい」
「わかった」

 レンバー達はさらに奥へと進む、すると御菓子で出来た巨大な門の前へと辿り着く。
 門の前には多くのミュルミドンの衛兵達がいるが、レンバー達に気付かない様子であった。

「嘘。焼き菓子で出来た門だなんて、不思議だわ、ここから中に入るの?」
「それは流石に無理だ。門を入った中庭ではオルトロスが番をしている。その鼻を誤魔化すのは魔法を使っても難しい」

 ニミュが聞くとジュシオは首を振る。
 オルトロスの事はレンバーも聞いた事があった。3つ首を持つ犬ケルベロスの亜種で首が2つある犬だ。
 ケルベロスと同じく番犬として優れていて、魔法で隠れていても見つかってしまうらしかった。
 ケルベロスもオルトロスも御伽噺に出てくる魔獣であった。

「では、どうやって中に?」
「裏に私がいつも出入りしている裏口がある。そこからなら中に入れるはずだ」

 ジュシオはそう言うと門を通り過ぎ、城の裏側へと行く。
 するとそこには小さな扉がある。

「さあ、ここからなら中へと行けるはずだ。行こう」

 裏側にあった扉からレンバー達は御菓子の城の中へと入る。

「うわ〜。御菓子だらけ、美味しそう……」

 グレーテは嬉しそうな声を出す。
 焼き菓子が敷き詰められた廊下に透き通った飴が嵌め込まれた窓。
 御菓子の城は中も御菓子だらけであった。
 途中ミュルミドンが巡回しているところに出会うが、魔法のためか気付かない。
 だから、レンバー達は城の奥まで何事もなく進むことが出来た。 

「ここから控えの間に行く。そこで待っていて欲しい。あの御方が帰って来ているのなら、会って下さるようにお願いしに行く……。うん?」

 言いかけてジュシオは立ち止まる。

「どうしたんだ?」
「わからない。何か嫌な気配がしたんだ。気のせいか……。行こう」

 レンバー達はさらに進む。
 そして、広い場所に出た時だった。
 突然3つの影がジュシオ達の前へと出る。

「人形の姉に頼まれたのかしら? 吸血鬼」
「まさかね〜。予想が大当たりだわ」
「所詮は死神の眷属ね。この裏切り者」

 御菓子の城の1階の大広間。
 影は人間の住むクロキアの街で出会ったダークエルフ達。
 ダークエルフ達はジュシオを睨む。
 レンバー達はもう少しと言うところで行く手を阻まれるのだった。


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 メルスは古代に実在した御菓子。
 小麦粉と蜂蜜と果実を使った焼き菓子らしいです。

 オルトロスもケルベロスも名前だけしか登場していないですね。いつかきちんと登場させたいです。
 なぜFFではタコになっているのでしょうね?

 実はもっと魔物の住むクロキアの街を紹介したいのですが、どうも今回は退屈らしく、さらに退屈にさせるかもしれず。断念しました。

 サクナヒメというゲームでは稲作が学べるらしいです。次は英語を学べるゲームを作って欲しい。

 次か後2回で外伝も終わりだったりします。

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コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    なんでノベルバの通知オフになってんだ……

    更新お疲れ様です

    別に退屈とか面白くないとか全然思ってないですよ
    案外、まとめて読みたい、と思ってる人が多いだけかもしれないじゃないですか

    街の設定は章が終わった後に、〝おかしな国へようこそ クロキアの街の設定〟みたいに単発で出してみてはいかがでしょう

    0
  • 根崎タケル

    更新しました。

    次か、後2話で終わりだったりします。

    4
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