聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
21 師匠?
なんだか扱いに慣れてきたのか、あっさりとルストを釣ってしまうクロディーヌ。
「……いや、「ほう?」じゃないわよ。勝てる訳ないじゃない、バカなのかしら」
「『瞬剣』相手におやつと夜食でやる気になるなんて普通ありえないんだけどね……」
そんな光景を呆れたように見るリーネとラクス。その視線の先で、ルストがこちらに振り返った。
「おいラクス。剣貸してくれ」
「ん?いいけど、僕ので良いのかい?ルストって光魔法使えたっけ?」
「使える訳ねぇだろ、そんな激レアな魔法。とりあえず頑丈な棒ならなんでも良いんだよ。それ、結構業物ぽいし頑丈だろ?」
「……仮にも王国では『聖剣』って言われてる剣を頑丈な棒扱いしないで欲しいね」
呆れたように溜息混じりに吐き捨てながら腰の聖剣を抜いてルストへ放るラクス。
文句を言うラクスだが、勇者がほいほい聖剣を貸すのもどうかとな思うが。
王国の国宝の一つである『聖剣』は、光魔法の魔法陣が幾重にも刻まれており、その効果を格段に高める機能が特筆される点だ。
他にも多少の傷なら勝手に直る自己修復機能や、ドラゴンに踏まれても曲がらない程の頑丈さを備えている世界屈指の名剣である。
それをパシっと軽快にキャッチして軽く振るいながらルストはふむと頷く。
「軽過ぎるけど、まぁ硬そうだな。さて、さすがに素手はキツいと思って剣を借りたけど、別に構わねぇよな?」
「勿論ッスよ。剣でもハンマーでも好きにするッス!」
そう言ってクロディーヌは右足を下げて半身になり、両手剣をだらりと脱力した両手の先に握り、剣先を微かに後方である右足の方に向けて構えた。
少し前のめりに構えたその姿勢は肉食獣の捕食体勢を思わせる。
随分と防御を捨てた構えではあるが、それでも問題にならない速度を持つのが彼女なのだろう。
対してルストは右手で聖剣を握ってそれを肩にかつぐ。左手はだらりと脱力しており、両脚は微かに半身になる程度にずらし、膝をよく見ないと気づけないほど気持ち程度に曲げている。
側から見ればほとんど棒立ちのような姿勢と言えた。
「何よあれ、ド素人じゃない。鉄パイプを持ったチンピラにしか見えないわよ」
「あはは、確かに目つき悪いしチンピラっぽいね」
「まぁ目つきどころか顔のほとんどは髪に隠れてるけど……絵面が陰気なチンピラだわあれは」
「あっはっは!確かにね、今度散髪しないとね」
酷評を下すリーネに、ラクスは実に可笑しそうに笑った。
そんな2人の横に食べ終わったらしいムムが座り、スプーンを握った小さな手を振り上げて叫ぶ。
「いけー、いんきなチンピラー!よーいどーんっ!」
ディスりを交えた試合開始の合図に、ルストは眉根を寄せ、クロディーヌは地面を蹴って駆け出した。
「行くっスよ!」
クロディーヌは真っ直ぐにルストへと走る。
風を置き去りにする速度で駆ける彼女は、その速度そのままに右後方に下げていた剣を腕を鞭のようにしならせて振るった。
驚異的な俊足に上乗せされた剣は、しなやかな腕の振りをもって超速の一撃となる。
一般人では剣先を目で追う事すら叶わない剣は、ルストの左脇腹を斬りあげる軌道で迫る。
もっとも、さすがに本当に斬る気はないのか、当たる寸前に剣を90度捻り、剣の腹で打つ形に切り替えた。
――ブゥンッ!!
音すら置き去りにするような剣も、腹を向けて振るえば空気を掻き乱して不恰好な音を響かせる。
しかし、それに付随するはずの打撃音は聞こえてこない。
「なぁっ……?!」
「すげぇ速ぇな」
そう、ルストが回避した為だ。
クロディーヌの驚愕に染まる瞳には、鋭くバックステップで回避したルストが映っていた。
微かに剣先が服を掠めて切り裂いてはいるが、皮膚には届いてない事は剣を持つクロディーヌには理解出来た。
「おやつは、肉で頼むぜっ!」
驚愕で生まれた一瞬の隙に、ルストは肩にかついだ聖剣をがばっと持ち上げて振り下ろす。
クロディーヌは肉はおやつとは言わないッス!と脳の端で叫んでいるのを他人事のように聞きながら、迫る剣に顔を引きつらせる。
「っく……!」
脇も不用意に開き、おおよそ剣技をまともに習得したとは思えない動作。
だが、その剣を受けてはダメだと直感で悟ったクロディーヌは鋭く地面を蹴って転がるように左下方向に跳んで回避。
そのまま地面に横方向に転がりながら反動で素早く起き上がった。
「おぉ、よくもまぁあの体勢から躱せたな」
「……本気でいって良いッスか?」
手放しに称賛なんかするルストに、クロディーヌは笑みを消して鋭く眼を細めて言いながら再び構えた。
それをルストは少し困ったように頬を左手の指でかきながら、再び聖剣を肩にかつぐ。
「あー……これ以上はおやつじゃ割りに合わねぇ気がするな」
「じゃあ、リーネちゃんに斬りかかるッス」
「えぇえっ?!」
とんだ流れ弾な発言にリーネが叫んだ。遠くから「え、私そんなに嫌われてるの?!」とか聞こえてくるのを聞き流しながら、ルストは鼻を鳴らす。
「なるほどな。しゃぁねぇか」
吐き捨てるように言いながら、かついだ剣をさらに浮かせて大上段の構えのように持ち上げる。
「……ふっ!」
それを見たクロディーヌは、身体に魔力を行き渡らせて、合図も無く駆け出しーー直後、甲高い音が山に木霊した。
「え…………?」
リーネには何が起きたか分からなかった。
気付いたらクロディーヌが対峙していたルストの背後に移動して剣を振り抜いた体勢で立っており、ルストはその場で跪くように右手を地面に着いて右膝を折ってしゃがみ込んでいた。
甲高い音が鼓膜を激しく打った事以外に経過を知らせる視界情報はなく、思わず目を疑うように瞬きを繰り返すリーネは、次いで〝仲間〟を探すように横を見やる。
そこには全てが分かっていたように口元を緩めて、しかし全てを見逃さんと目を鋭く開いていたラクス。
音がうるさかったらしく耳を押さえて唸るように目を閉じているムム。
どうやらリーネと同じく見えなかったようで、首を小さく傾げているリィンが見えた。
「え、っと……ってこれルスト死んだんじゃない?!」
何が起きたのか聞こうと口を開きかけ、ふと膝と右手を地につけてしゃがむルストの事を思い出してリーネは立ち上がりながら叫ぶ。
そして聖力を練り上げながらルストに向かって走り出そうとして、
「し……師匠っ!」
「いやなんでだよ」
目を輝かせながら残心をといて振り返るクロディーヌと、あっさり立ち上がって振り返りながら呆れた表情で吐き捨てるルストを見てピタリと止まった。
「いいじゃないッスか!ボクに剣を教えて欲しいッス!」
「アホか!『瞬剣』に剣なんざ教えれるワケねぇだろ」
擦り寄るようにルストの胸元あたりの服を掴んで顔をグイっと近付けるクロディーヌ。
ルストは左眉を跳ねさせていかにも「何言ってんだこいつ」といった表情で左手でクロディーヌの頭を掴んで引き剥がさんと押し返していた。
そしてなおも食い下がるクロディーヌを尻目に、ルストはラクスに振り返って聖剣を無造作に放り投げる。
「あんがとよ。良い剣だな」
「うん、どういたしまして。……って刃が欠けてる?!使い方荒過ぎるよルスト!」
受け取った聖剣をなんとなしに見て、刃が欠けた事に気付いて目を剥くラクスからそっと目を逸らすルストに、話を聞けとばかりに体を揺すり始めるクロディーヌ。
そんな光景を混乱したように頭上にはてなマークを浮かべて固まるリーネの目の前に、吹き飛されていたのであろうクロディーヌの剣が上空から地面に突き刺さるように着地するのであった。
「……いや、「ほう?」じゃないわよ。勝てる訳ないじゃない、バカなのかしら」
「『瞬剣』相手におやつと夜食でやる気になるなんて普通ありえないんだけどね……」
そんな光景を呆れたように見るリーネとラクス。その視線の先で、ルストがこちらに振り返った。
「おいラクス。剣貸してくれ」
「ん?いいけど、僕ので良いのかい?ルストって光魔法使えたっけ?」
「使える訳ねぇだろ、そんな激レアな魔法。とりあえず頑丈な棒ならなんでも良いんだよ。それ、結構業物ぽいし頑丈だろ?」
「……仮にも王国では『聖剣』って言われてる剣を頑丈な棒扱いしないで欲しいね」
呆れたように溜息混じりに吐き捨てながら腰の聖剣を抜いてルストへ放るラクス。
文句を言うラクスだが、勇者がほいほい聖剣を貸すのもどうかとな思うが。
王国の国宝の一つである『聖剣』は、光魔法の魔法陣が幾重にも刻まれており、その効果を格段に高める機能が特筆される点だ。
他にも多少の傷なら勝手に直る自己修復機能や、ドラゴンに踏まれても曲がらない程の頑丈さを備えている世界屈指の名剣である。
それをパシっと軽快にキャッチして軽く振るいながらルストはふむと頷く。
「軽過ぎるけど、まぁ硬そうだな。さて、さすがに素手はキツいと思って剣を借りたけど、別に構わねぇよな?」
「勿論ッスよ。剣でもハンマーでも好きにするッス!」
そう言ってクロディーヌは右足を下げて半身になり、両手剣をだらりと脱力した両手の先に握り、剣先を微かに後方である右足の方に向けて構えた。
少し前のめりに構えたその姿勢は肉食獣の捕食体勢を思わせる。
随分と防御を捨てた構えではあるが、それでも問題にならない速度を持つのが彼女なのだろう。
対してルストは右手で聖剣を握ってそれを肩にかつぐ。左手はだらりと脱力しており、両脚は微かに半身になる程度にずらし、膝をよく見ないと気づけないほど気持ち程度に曲げている。
側から見ればほとんど棒立ちのような姿勢と言えた。
「何よあれ、ド素人じゃない。鉄パイプを持ったチンピラにしか見えないわよ」
「あはは、確かに目つき悪いしチンピラっぽいね」
「まぁ目つきどころか顔のほとんどは髪に隠れてるけど……絵面が陰気なチンピラだわあれは」
「あっはっは!確かにね、今度散髪しないとね」
酷評を下すリーネに、ラクスは実に可笑しそうに笑った。
そんな2人の横に食べ終わったらしいムムが座り、スプーンを握った小さな手を振り上げて叫ぶ。
「いけー、いんきなチンピラー!よーいどーんっ!」
ディスりを交えた試合開始の合図に、ルストは眉根を寄せ、クロディーヌは地面を蹴って駆け出した。
「行くっスよ!」
クロディーヌは真っ直ぐにルストへと走る。
風を置き去りにする速度で駆ける彼女は、その速度そのままに右後方に下げていた剣を腕を鞭のようにしならせて振るった。
驚異的な俊足に上乗せされた剣は、しなやかな腕の振りをもって超速の一撃となる。
一般人では剣先を目で追う事すら叶わない剣は、ルストの左脇腹を斬りあげる軌道で迫る。
もっとも、さすがに本当に斬る気はないのか、当たる寸前に剣を90度捻り、剣の腹で打つ形に切り替えた。
――ブゥンッ!!
音すら置き去りにするような剣も、腹を向けて振るえば空気を掻き乱して不恰好な音を響かせる。
しかし、それに付随するはずの打撃音は聞こえてこない。
「なぁっ……?!」
「すげぇ速ぇな」
そう、ルストが回避した為だ。
クロディーヌの驚愕に染まる瞳には、鋭くバックステップで回避したルストが映っていた。
微かに剣先が服を掠めて切り裂いてはいるが、皮膚には届いてない事は剣を持つクロディーヌには理解出来た。
「おやつは、肉で頼むぜっ!」
驚愕で生まれた一瞬の隙に、ルストは肩にかついだ聖剣をがばっと持ち上げて振り下ろす。
クロディーヌは肉はおやつとは言わないッス!と脳の端で叫んでいるのを他人事のように聞きながら、迫る剣に顔を引きつらせる。
「っく……!」
脇も不用意に開き、おおよそ剣技をまともに習得したとは思えない動作。
だが、その剣を受けてはダメだと直感で悟ったクロディーヌは鋭く地面を蹴って転がるように左下方向に跳んで回避。
そのまま地面に横方向に転がりながら反動で素早く起き上がった。
「おぉ、よくもまぁあの体勢から躱せたな」
「……本気でいって良いッスか?」
手放しに称賛なんかするルストに、クロディーヌは笑みを消して鋭く眼を細めて言いながら再び構えた。
それをルストは少し困ったように頬を左手の指でかきながら、再び聖剣を肩にかつぐ。
「あー……これ以上はおやつじゃ割りに合わねぇ気がするな」
「じゃあ、リーネちゃんに斬りかかるッス」
「えぇえっ?!」
とんだ流れ弾な発言にリーネが叫んだ。遠くから「え、私そんなに嫌われてるの?!」とか聞こえてくるのを聞き流しながら、ルストは鼻を鳴らす。
「なるほどな。しゃぁねぇか」
吐き捨てるように言いながら、かついだ剣をさらに浮かせて大上段の構えのように持ち上げる。
「……ふっ!」
それを見たクロディーヌは、身体に魔力を行き渡らせて、合図も無く駆け出しーー直後、甲高い音が山に木霊した。
「え…………?」
リーネには何が起きたか分からなかった。
気付いたらクロディーヌが対峙していたルストの背後に移動して剣を振り抜いた体勢で立っており、ルストはその場で跪くように右手を地面に着いて右膝を折ってしゃがみ込んでいた。
甲高い音が鼓膜を激しく打った事以外に経過を知らせる視界情報はなく、思わず目を疑うように瞬きを繰り返すリーネは、次いで〝仲間〟を探すように横を見やる。
そこには全てが分かっていたように口元を緩めて、しかし全てを見逃さんと目を鋭く開いていたラクス。
音がうるさかったらしく耳を押さえて唸るように目を閉じているムム。
どうやらリーネと同じく見えなかったようで、首を小さく傾げているリィンが見えた。
「え、っと……ってこれルスト死んだんじゃない?!」
何が起きたのか聞こうと口を開きかけ、ふと膝と右手を地につけてしゃがむルストの事を思い出してリーネは立ち上がりながら叫ぶ。
そして聖力を練り上げながらルストに向かって走り出そうとして、
「し……師匠っ!」
「いやなんでだよ」
目を輝かせながら残心をといて振り返るクロディーヌと、あっさり立ち上がって振り返りながら呆れた表情で吐き捨てるルストを見てピタリと止まった。
「いいじゃないッスか!ボクに剣を教えて欲しいッス!」
「アホか!『瞬剣』に剣なんざ教えれるワケねぇだろ」
擦り寄るようにルストの胸元あたりの服を掴んで顔をグイっと近付けるクロディーヌ。
ルストは左眉を跳ねさせていかにも「何言ってんだこいつ」といった表情で左手でクロディーヌの頭を掴んで引き剥がさんと押し返していた。
そしてなおも食い下がるクロディーヌを尻目に、ルストはラクスに振り返って聖剣を無造作に放り投げる。
「あんがとよ。良い剣だな」
「うん、どういたしまして。……って刃が欠けてる?!使い方荒過ぎるよルスト!」
受け取った聖剣をなんとなしに見て、刃が欠けた事に気付いて目を剥くラクスからそっと目を逸らすルストに、話を聞けとばかりに体を揺すり始めるクロディーヌ。
そんな光景を混乱したように頭上にはてなマークを浮かべて固まるリーネの目の前に、吹き飛されていたのであろうクロディーヌの剣が上空から地面に突き刺さるように着地するのであった。
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