聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

18 護衛着任

 ムムに諭され、ルストが珍しく本当に押されている姿に、アンジェリカがぼそりと口を開く。

「……ムムちゃん最強説」
「否定しないわ」

 ちゃっかり聞き取ったリーネと静かに頷く。そんな視線の先で、ルストが観念したように口を開いた。

「あぁ分かった!分かったっての!」
「ルスト!」
「ただし!」

 喜色を見せるラクスに、びしりと指を突きつけてルストが言う。

「仲間って形はダメだ!」
「……なんでだい?」

 ここまできて変に意固地になってる、という訳ではなさそうだと、ラクスはトーンを落ち着けて問いかける。

「もし旅の途中に探してるヤツの情報が入ったら、俺は旅を抜けて即その地に向かう。 そうなると、勇者パーティから目的も果たさずに仲間が抜けた事になる」
「ん?別にいいんじゃないかな?」
「アホ。……確かにそれを禁止するルールは無い。 けどな、周りはどう見ると思うよ?世の中好意的な視線ばかりじゃねぇ。今代の勇者は仲間に逃げられただの、最悪人望が無いやらパーティに問題があるやら言うヤツだって出てきかねん」
「………あ」

 その可能性まで考慮してなかったラクスが呆けたような表情になる。それを咎めるように左眉を跳ねさせるルスト。

「気付いてなかったのかよ。悪いが、俺にとって人探しが最優先なんだ。そこを譲れない以上、仲間にはなれねぇ」
「でも……」
「構わない、と言わせる訳にもいかねぇ。お前が折角勇者になったんだ。それに変な文句をつけさせる要因になんざなるつもりはない」
「……………」

 きっぱりと告げるルストにラクスは閉口する。
 ぶっきらぼうな言い方だが、内容が自分を慮っての言葉故に余計に言い出しにくかった。

 そんな中、リーネがおかわりのカクテルを口にしながら言う。

「じゃあアンタ、契約続行しなさい」
「「……ん?」」

 唐突な発言に目を丸くするルストとラクスに構わず、リーネはグラスを置きながら口を開く。

「『近衛』よ。それなら私が解雇って形にすれば問題なくパーティから離脱出来るでしょ?……まぁ聖女として立ち振る舞っていいか微妙な立ち位置になったから、『護衛』って形になるのかしらね」
「……なるほど」
「……確かに」

 納得したように頷くルストとラクス。確かにその方法なら今まで挙げられた問題は解消される。

「それに、アンタは私に嫌われてるって言ったけど……案外楽しかったのよ?だから、か弱い私が旅に慣れるくらいまで少し付き合いなさい。解呪聖法も練習しとくしね」

 そう言って微笑むリーネ。
 言動に棘のある彼女らしからぬ柔らかい微笑みは、彼女の美しさと相まって否応なく目を引く魅力があった。
 
 そんな彼女にラクスは見惚れ、ルストさえ目を瞠って一瞬硬直する。

「……か弱い?」
「どこを気にしてんのよ!」
「そうたぜ兄ちゃん。こんな美人になんて事言ってんだ」

 先程の微笑みが幻だったかのように目を吊り上げるリーネの横に、数人の男が立って会話に割って入る。

「こんなヤツより俺らと飲まねぇか姉ちゃん。楽しませてやるぜ?」
「うわ、他の子達もすっげぇかわいいじゃん!一緒に飲もうぜ!」

 パーソナルスペース皆無な距離感で詰め寄る男達に、女性陣は不快そうに顔をしかめる。かなりストレートな誘い文句は、どうやら彼女達には受け入れ難かったようだ。 それを見たラクスは眉根を寄せて立ち上がろうとする。

「……ルスト?」

 それを、ルストが肩を掴んで制した。

「おいおい、嫌がってねぇか?美人が台無しな顔にさせてるぞ、おっさん達」
「あぁ?なんだお前?お前の発言の方が美人を怒らせてたろうが」

 ルストは一瞬押し黙る。だってその通りだったし。

「じゃあお互い様って事で、この優男だけ残して俺らは退散しようや」
「うるせぇな!邪魔すんなクソガキが!」

 既に酔っているのか凄まじく短気な男が怒鳴る。そして腰にある剣を抜き、ルストへと突きつけた。

「文句あんならかかってきてみろよ!この腰抜けが!」
「……逃げなくていいの?得意の逃げ足はどうしたのよ?」

 目の前数センチのところに剣先を突きつけられて動かないルストに、リーネはカクテルを口にしながら言う。
 それにルストは薄く唇を吊り上げ、

「がぁっ?!」
「ぐえぇっ?!」

 剣を左手で払い除けるようにしながら掴み、それを引き寄せる反動で立ち上がりながら右拳を男に突き刺す。そしてそのまま男を吹き飛ばし、その直線状に居た男達をまとめて吹き飛ばした。
 
 あまりに一瞬の出来事に、リーネやアンジェリカ、リィンは目を丸くする。ラクス、クロディーヌは納得といった表情で頷く。ムムは唐揚げをぱくり。
 そんな各々の表情はともかく共通して沈黙が訪れた席、ひいては店内の中で、小さなルストの足音は妙に響いた。

 そうして数歩歩いてリーネの横に立ち、そして跪くように膝をつくルスト。

「逃げるのも楽でいいが、護衛としちゃダメだろ」
「アンタ……意外と強かったのね。よくもまぁパークス相手に隠してくれたわね」
「どうかね。まぁ、あいつらよりはな」

 目線を合わせるルストにリーネが驚いたような、呆れたような口調で言うと、ルストはリーネの左手を取ってニヤリと笑った。
 そして、その左手を持ち上げて言う。

「実力を知りもしないで近衛、ひいては護衛に勧誘してくれた変わり者のなんちゃって聖女よ」
「………」

 唐突かつあんまりな言葉に無言で右拳を握りしめて振り上げるリーネに構わず、ルストは言葉を続ける。

「その時が来るまで、理由をくれた貴女の護衛として剣となり盾となる。……よろしく頼むな」

 そう言って目を閉じて手の甲に唇を触れさせる。
 忠誠を誓う騎士の如き口上と振る舞いに、リーネは拳を振り上げたまま硬直した。

「…………へっ?あ、ちょっ、え、まっ…」

 顔を赤くして混乱するリーネ。拳を振り上げたままの彼女に、ルストは目を開いて視線をリーネへと向ける。
 そして、ニヤリと笑った。

「おい、どしたよ、真っ赤だぞ?」
「〜〜〜〜〜〜っ!うるさいっ!」

 からかうように見上げる紫の瞳に、より顔を赤くさせたリーネは振り上げていた拳をついに振り下ろした。

 そんな忠誠を誓った主人に叱られる騎士といった締まらない絵面となった一幕を、他のメンバー達は失笑しながら見ていたのであった。


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