聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
9 乱入してケンカ売った
神聖な円卓。
あろうことかその上に、しかも土足で現れた男に、しかし非難よりも先に驚きが勝る面々。
その驚愕から立ち直るよりも早く、不敵に笑う青年が口を開く。
「まったく、内部争いも程々にしとけよ」
どこか挑発めいた言葉は、視線と共にアンジェリカへと注がれていた。
それに気付いたアンジェリカは驚愕を怒りで跳ね除けて叫ぶ。
「何を言っているのですか!無礼者、そこを今すぐ降りなさい!」
凛とした響き渡るような通る声音は確かに聖女らしい。
そんな一喝に、しかし青年は円卓から降りるどころか笑みを崩す事すらしない。
「そうカリカリすんなよ、どうせ作戦は失敗だ。あの鬼みたいなおばちゃんは生き延びた」
その言葉にアンジェリカは怪訝そうな表情を浮かべるだけ。ルドニークは「鬼みたいなおばちゃん?」と首を傾げる。 だが、横に立つパークスは違った。
「……ふぅん。そこの男が実行犯か。動揺がそうも出ちまうあたり、騎士じゃねぇな……傭兵か冒険者ってとこか?」
「っ!貴様、何を適当な事をっ!今すぐ成敗してくれる!」
それを見逃す事なく、挑発的に言い放つ青年に剣を抜く冒険者なパークスくん。だが、それを止めるようにアンジェリカの腕がパークスの前に突き出される。
「お辞めなさい、パークス。どこかで見たと思いましたがこの服装、リーネ様の近衛用に手配されたものですわ」
「なっ、貴様が……!」
『聖女』となって一度もとらなかったリーネの近衛。これが話題の男かとパークスは目を見張る。
「まぁ期間限定だけどな。ルストだ、よろしく」
誰がよろしくするか!と内心吐き捨てるパークスとアンジェリカ。
その2人からあっさりと視線を外し、ルストは勇者と聖王を見やる。
「…………まさか…!」
「…………っ!」
その視線を受けて、ルドニークとラクスは驚愕したように息を呑む。
それを見て、ルストは仕方なさそうに、諦めたように肩をすくめて嘆息した。
「……俺はルスト。臨時の近衛だ。よろしく」
世界的に見ても重要な立場であり地位もある2人にタメ口をきくルストに、しかし2人はそれを指摘する事すらしない。
それはあまりの無礼さに言葉も出ない、というよりまるで受け入れているかのような反応にも見えた。
「?」
「…………」
その2人の様子に怪訝そうに首を傾げるリィンと、警戒するように柄に手を添えてルストを睨みつけるクロディーヌ。
特にクロディーヌからすれば、剣士という前衛職でありながら、接近に気付く事すら出来なかった相手に警戒を抱くなという方が無理な話だ。
「…………へぇ」
対してリィンとクロディーヌをじっと見ていたルストはしばらく眺めた後に感心したように口元を緩めた。
そしてラクスへと顔を向けて口を開く。
「良い仲間見つけたな」
「っ、……あぁ!」
何様だお前は、と言いたくなるような発言に、しかしラクスはどこか嬉しそうに頷く。
まるで欲しかった言葉を貰ったような笑顔は、ただ仲間が認められただけ以上の感情さえ見えた。
「……して、近衛のルストよ。何の用かな?」
妙な空気になった円卓の間に聖王の声が響いた。
どこか緊張をはらんだような声音に、ルストは世間話でもするようなトーンで返す。
「あぁそうそう。決闘すんだろ?やろっか」
とても内容には見合わない声音に、一瞬何を言ってるのか分からないように呆ける面々。
「あれ、やらねぇの?」
だが、心底不思議そうに首を傾げるルストに、最初に反応したのはパークスだった。
「良い度胸だな、無礼者が!すぐさま剣の錆にしてくれる!」
「あ、良かった。遅れたから話が流れたかと思った」
パークスの渾身の威圧を柳に風で受け流して軽薄に笑うルスト。
実際、ルストの言うようにほとんど終わった話だったのだが、パークスが啖呵をきった事で復活した形となってしまった。
ルストのその言葉でそれを察したアンジェリカは一瞬歯噛みするも、ふと視線を巡らせてクスリと笑う。
「……そうですね。でしたら今すぐ始めましょうか。ではリーネ様をお呼びになって下さいませ」
そう、聖国の女性の決闘は男女が2人揃って初めて舞台に上がる事が出来る。
そしてリーネは瀕死のマリーを治療していたはずであり、即ち魔力はともかく聖力は枯渇しているはずだ。
さらに、
「……ルスト、腕が…」
ラクスが言うように、目の前の男は決して軽くない負傷をしている。
今も円卓の上に流れ落ちる血は、その傷の深さを物語っていた。
手負いと聖法の使えない魔女など、私とパークスの敵ではない。そう考えたアンジェリカは、高笑いしそうな気持ちを抑えて優雅に微笑んだ。
「そうだな、ちょっと呼んでくる。どこに行けばいい?」
だが、ルストは一切の動揺も躊躇も無く話を進める。それにピクリと眉を跳ねさせながらも、アンジェリカは口調に出す事なく答える。
「……裏にある広場です。リーネ様ならそれで伝わるかと」
「了解。すぐ行くから先行ってていいぞ」
聞くだけ聞いたら用はないとばかりの返事。そんななんとも横柄で傲慢な態度に青筋が浮かぶも、グッと堪えて会釈をしてのける。
「……承知しました。では、あまり待たせないでくださいね」
「はいはい」
しつこい、とばかりに手をプラプラとして雑に返すルストに、つい小さく舌打ちをこぼすアンジェリカだったが、会釈した顔を上げた時には聖女らしい笑顔を貼りつけていた。
そしてルストに視線をやる事なく円卓の間から出て行くアンジェリカとパークス。パークスは部屋を後にする際にルストを睨みつけるが、ルストは興味無さげな態度でそれを見送る。
「ちっ」
その態度に余計に腹を立てて荒い歩調で歩いていくパークスを見送ってから、ルストもリーネの所に戻ろうと円卓から降りた。
「あのっ……」
そのまま部屋を後にしようとするルストに、ラクスがどこか遠慮がちに声を掛けた。
それに立ち止まったルストは、チラリと顔だけラクスに向ける。
「……また後で少し話す時間はあるか?」
「あ、あぁ!」
短い言葉。それに、ラクスは嬉しそうに頷く。
それを見たルストは微かに口元を緩め、そして今度こそリーネの元に向かうべく立ち去っていく。
「……ラクス、知り合い?」
2人の会話からその可能性に思い至ったリィンがラクスに訊ねると、ラクスはニコッと笑った。
もはや答えに等しい反応ではあるが、しかしラクスは楽しそうに、そして真面目な彼にしては珍しく少しい悪戯げな表情で言う。
「あとでのお楽しみだよ」
そんな珍しい態度と彼の言葉にリィンとクロディーヌは目を丸くするも、信頼するリーダーの態度に感化されたように、肩の力を抜いて微笑んだ。
あろうことかその上に、しかも土足で現れた男に、しかし非難よりも先に驚きが勝る面々。
その驚愕から立ち直るよりも早く、不敵に笑う青年が口を開く。
「まったく、内部争いも程々にしとけよ」
どこか挑発めいた言葉は、視線と共にアンジェリカへと注がれていた。
それに気付いたアンジェリカは驚愕を怒りで跳ね除けて叫ぶ。
「何を言っているのですか!無礼者、そこを今すぐ降りなさい!」
凛とした響き渡るような通る声音は確かに聖女らしい。
そんな一喝に、しかし青年は円卓から降りるどころか笑みを崩す事すらしない。
「そうカリカリすんなよ、どうせ作戦は失敗だ。あの鬼みたいなおばちゃんは生き延びた」
その言葉にアンジェリカは怪訝そうな表情を浮かべるだけ。ルドニークは「鬼みたいなおばちゃん?」と首を傾げる。 だが、横に立つパークスは違った。
「……ふぅん。そこの男が実行犯か。動揺がそうも出ちまうあたり、騎士じゃねぇな……傭兵か冒険者ってとこか?」
「っ!貴様、何を適当な事をっ!今すぐ成敗してくれる!」
それを見逃す事なく、挑発的に言い放つ青年に剣を抜く冒険者なパークスくん。だが、それを止めるようにアンジェリカの腕がパークスの前に突き出される。
「お辞めなさい、パークス。どこかで見たと思いましたがこの服装、リーネ様の近衛用に手配されたものですわ」
「なっ、貴様が……!」
『聖女』となって一度もとらなかったリーネの近衛。これが話題の男かとパークスは目を見張る。
「まぁ期間限定だけどな。ルストだ、よろしく」
誰がよろしくするか!と内心吐き捨てるパークスとアンジェリカ。
その2人からあっさりと視線を外し、ルストは勇者と聖王を見やる。
「…………まさか…!」
「…………っ!」
その視線を受けて、ルドニークとラクスは驚愕したように息を呑む。
それを見て、ルストは仕方なさそうに、諦めたように肩をすくめて嘆息した。
「……俺はルスト。臨時の近衛だ。よろしく」
世界的に見ても重要な立場であり地位もある2人にタメ口をきくルストに、しかし2人はそれを指摘する事すらしない。
それはあまりの無礼さに言葉も出ない、というよりまるで受け入れているかのような反応にも見えた。
「?」
「…………」
その2人の様子に怪訝そうに首を傾げるリィンと、警戒するように柄に手を添えてルストを睨みつけるクロディーヌ。
特にクロディーヌからすれば、剣士という前衛職でありながら、接近に気付く事すら出来なかった相手に警戒を抱くなという方が無理な話だ。
「…………へぇ」
対してリィンとクロディーヌをじっと見ていたルストはしばらく眺めた後に感心したように口元を緩めた。
そしてラクスへと顔を向けて口を開く。
「良い仲間見つけたな」
「っ、……あぁ!」
何様だお前は、と言いたくなるような発言に、しかしラクスはどこか嬉しそうに頷く。
まるで欲しかった言葉を貰ったような笑顔は、ただ仲間が認められただけ以上の感情さえ見えた。
「……して、近衛のルストよ。何の用かな?」
妙な空気になった円卓の間に聖王の声が響いた。
どこか緊張をはらんだような声音に、ルストは世間話でもするようなトーンで返す。
「あぁそうそう。決闘すんだろ?やろっか」
とても内容には見合わない声音に、一瞬何を言ってるのか分からないように呆ける面々。
「あれ、やらねぇの?」
だが、心底不思議そうに首を傾げるルストに、最初に反応したのはパークスだった。
「良い度胸だな、無礼者が!すぐさま剣の錆にしてくれる!」
「あ、良かった。遅れたから話が流れたかと思った」
パークスの渾身の威圧を柳に風で受け流して軽薄に笑うルスト。
実際、ルストの言うようにほとんど終わった話だったのだが、パークスが啖呵をきった事で復活した形となってしまった。
ルストのその言葉でそれを察したアンジェリカは一瞬歯噛みするも、ふと視線を巡らせてクスリと笑う。
「……そうですね。でしたら今すぐ始めましょうか。ではリーネ様をお呼びになって下さいませ」
そう、聖国の女性の決闘は男女が2人揃って初めて舞台に上がる事が出来る。
そしてリーネは瀕死のマリーを治療していたはずであり、即ち魔力はともかく聖力は枯渇しているはずだ。
さらに、
「……ルスト、腕が…」
ラクスが言うように、目の前の男は決して軽くない負傷をしている。
今も円卓の上に流れ落ちる血は、その傷の深さを物語っていた。
手負いと聖法の使えない魔女など、私とパークスの敵ではない。そう考えたアンジェリカは、高笑いしそうな気持ちを抑えて優雅に微笑んだ。
「そうだな、ちょっと呼んでくる。どこに行けばいい?」
だが、ルストは一切の動揺も躊躇も無く話を進める。それにピクリと眉を跳ねさせながらも、アンジェリカは口調に出す事なく答える。
「……裏にある広場です。リーネ様ならそれで伝わるかと」
「了解。すぐ行くから先行ってていいぞ」
聞くだけ聞いたら用はないとばかりの返事。そんななんとも横柄で傲慢な態度に青筋が浮かぶも、グッと堪えて会釈をしてのける。
「……承知しました。では、あまり待たせないでくださいね」
「はいはい」
しつこい、とばかりに手をプラプラとして雑に返すルストに、つい小さく舌打ちをこぼすアンジェリカだったが、会釈した顔を上げた時には聖女らしい笑顔を貼りつけていた。
そしてルストに視線をやる事なく円卓の間から出て行くアンジェリカとパークス。パークスは部屋を後にする際にルストを睨みつけるが、ルストは興味無さげな態度でそれを見送る。
「ちっ」
その態度に余計に腹を立てて荒い歩調で歩いていくパークスを見送ってから、ルストもリーネの所に戻ろうと円卓から降りた。
「あのっ……」
そのまま部屋を後にしようとするルストに、ラクスがどこか遠慮がちに声を掛けた。
それに立ち止まったルストは、チラリと顔だけラクスに向ける。
「……また後で少し話す時間はあるか?」
「あ、あぁ!」
短い言葉。それに、ラクスは嬉しそうに頷く。
それを見たルストは微かに口元を緩め、そして今度こそリーネの元に向かうべく立ち去っていく。
「……ラクス、知り合い?」
2人の会話からその可能性に思い至ったリィンがラクスに訊ねると、ラクスはニコッと笑った。
もはや答えに等しい反応ではあるが、しかしラクスは楽しそうに、そして真面目な彼にしては珍しく少しい悪戯げな表情で言う。
「あとでのお楽しみだよ」
そんな珍しい態度と彼の言葉にリィンとクロディーヌは目を丸くするも、信頼するリーダーの態度に感化されたように、肩の力を抜いて微笑んだ。
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