第43話〜決着の先鋒戦とシルフィの秘密〜

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 シルフィの身体強化を纏った一撃を鳩尾にくらったザップ君が立ち上がり、闘いは激しさを増していった。




「おらぁ！」


「おっと！」


 ザップ君の連続斬りをものともせず、シルフィは躱し続けていた。


「やっぱり獣人族には重い武器じゃあ当たらないか」


「じゃあどうするの？負けを認める？」


「バカ言え。こっからだろ？」


「そう言うと思った」




 ザップ君は詠唱を済ませ、自身に身体強化を纏わせた。


「今までとは違うぜ。覚悟しろよ？シルフィ！」


「望むところだよ！ザップ」


 身体強化を掛けたザップ君は、なんとシルフィのスピードについてきていた。


「身体強化を纏わせるだけで私のスピードについてこられるなんて流石だね！ザップ」


「まあな。でもまだまだここからだぜ！」






 シルフィは、僕が作ってプレゼントした剣を使って何とかザップ君の攻撃を受けていた。


「これはやばいね...」


 なんとシルフィがザップ君のパワーに押され始めたのだ。


「受けるだけじゃ勝てないぜ？シルフィ」


「このままだとまずいね」


 ザップ君のパワーに押され、とうとうフィールドの端まで移動させられていた。


(シルフィ持ち前のスピードも、強化されたザップ君のパワーの前では抑え込まれてるみたいだ)




「追い込まれたなぁ。シルフィ」


「そうだね...」
(あれを使えばこの状況を打破して試合にも勝てるかもしれないけど下手をすると私が狙われる可能性があるんだよね...)




「これで終わりだ！シルフィ」


 ザップ君の思い切った斧での叩きつけを、何とか頭上で剣を使って踏ん張って受けきった。


(っ!迷ってる場合じゃないね！)




 シルフィは無詠唱で身体強化を済ませると、斧ごとザップ君を弾き飛ばしていた。


「へぇー、無詠唱で魔法が使えるのか。その可能性は考えてなかったぜ」


「これで終わりにするよ」


(シルフィ、なにかこの状況をひっくり返せる妙案でもあるのか？)


 すると、突然シルフィの体が光りだした。




「なんなんだ？この光は!?」


 会場にいるみんながその眩しさに目を閉じ、しばらくして目を開けるとそこには驚きの光景が広がっていた。
 それはフィールド上にシルフィの姿はなく、代わりに体毛は汚れ一つもない綺麗な白で尻尾が9本ある狐がいたからだ。




「シルフィ...なのか？」


「そうだよ。この姿はあまり見せたくなかったんだけどこうでもしないと君に勝てないと思ったからね」


「なんであまり見せたくないんだ？」


「白狐は昔から不吉なことが起こる、呪われていると言われてきたし何より物珍しいからね。貴族たちに命を狙われる可能性もあったから」


「なるほどな。でも俺はその体毛の色綺麗だと思うぜ」


「ありがとうザップ。じゃあ、そろそろ試合を再開しようか」


「そうだな！」


 二人の会話が途切れ、試合が再開した。


 変身したシルフィのスピードは、人間の時のをはるかに上回っていて、ザップ君は徐々に追い込まれていった。




「やるなぁ。シルフィ」


「ありがとう。次で決めさせてもらうよ！」


「望むところだ。俺の今持てる最大の技で迎え撃ってやるぜ！シルフィ」


 ザップ君は詠唱を済ませると、斧を横に薙ぎ払った。


「くらえ！八の型、八岐大蛇!!」


 ザップ君の斧から飛ばされた斬撃はまるで8匹の蛇のように放たれ、それぞれ別方向からシルフィに襲いかかった。


「なるほど、良い攻撃だけどまだ私には届かないよ！」


 シルフィの8方向からの攻撃を次々に避ける姿は一瞬でまるで消えているかのような錯覚さえ覚えた。


 そして気付いた時には、シルフィはザップ君の目の前まで行って顔を思いっきり殴っていた。


「ぐはっ！」


 ザップ君は思いっきり吹っ飛ばされてフィールド外まで飛んで行った。


「そこまで！勝負あり！ザップ・リアースの場外が確認されたため、勝者、シルフィ・ホーンベルク！」


 審判の人のシルフィの勝利宣言の瞬間、会場が大きく湧いた。


「あいつ、ザップに勝ちやがった！」


「体格差をものともしない良い勝負だったな」


「あの子の体毛凄く綺麗...」


「シルフィ！おめでとう！」


 試合が終わった後、シルフィは元の人間の姿に戻り会場の声援に片手を上げて答えていた。




ーーーーーーーーユーマsideーーーーーーーーーー


「ユーマ君、シルフィ勝ったよ！」


「そうだね！まずはうちが1勝だ」
(あれが僕が5歳の時に見たステータスにあった獣化ビーストモードか...。実際に見るのは初めてだけど凄いな)




 僕が考え事をしていると、部屋がノックされシルフィが帰ってきた。


「ただいま！」


「おかえり、シルフィ。勝利おめでとう！」


「ありがとう、何とか勝てたよ」


「あの獣化は凄かったね！初めて見たけど見とれちゃったよ」


「ありがとう、あの姿はあまり見せたくなかったんだけどあれを使わなきゃ勝てないと思ったんだよね」


「どうして見せたくなかったの？」


「前にも話したと思うけど白狐は呪われているとか不吉なことが起こるって言われてるし何より数が少なくて珍しいから邪な考えを持つ貴族達に命を狙われる危険性があるんだ。だから見せたくはなかったんだよ」


「そういう理由があったんだね。でも大丈夫だよ！もしシルフィに危害を加える人がいたら僕が助けるから」


「ありがとう、ユーマ！」


 僕とシルフィが話している間ルディはずっとシルフィに抱きついていた。




ーーーーーーーーースイウェルsideーーーーーーーー


「すまねぇ、負けちまった」


 フェイルバード側では、試合に敗れたザップがチームメンバーに頭を下げていた。


「頭を上げなよザップ。良い試合を見せてもらったよ。お疲れ様」


「そうですよ！ザップさん。謝る必要は無いですから」


「ありがとう。スイウェル、フェリア」


 ザップがメンバーに頭を下げたあと、次の試合に向けての話し合いが行われた。




「次の次鋒戦はカーラに出てもらうわけだけど作戦は何かあるのかい？」


「そうですね、お相手は恐らくですがフィオさんになると見ていいんですよね？」


「ああ、恐らくフィオが来るだろうね」


「では、フィオさんは純粋な魔法使いなので間合いを詰めて行きたいと考えてます。そのあとは、状況に応じて変えるつもりです」


「それでいいと思うよ。ただ、1回戦のザラフ戦を見る限りフィオは無詠唱で魔法が撃てるみたいだからその辺は警戒しておきなよ」


「分かりました。でも、無詠唱で撃つのって威力下がるんじゃないんですか？」


「俺もそう思ってたんだが、ユーマ達を見てるとそう決めつけるのはよくないと思うんだ」


「では、詠唱した時と同等の威力で来ると思って警戒しておきますね」


「頼むよ」


 こうして、次鋒戦の作戦会議は終わりを迎えた。






 時は少し戻り、ユーマ達も次鋒戦に向けての作戦会議をしていた。


「次はフィオの出番だね」


「そうね。相手はカーラちゃんっていう2年生の子になるかな？」


「そうなると思うよ。カーラは剣術に加え槍も使えるらしいから魔法使いのフィオにとっては、間合いを詰められたらきついかな？」


「そうだね。一応間合いを詰められた時用の作戦もあるけど大体は間合いを空けて戦いたいかな」


「間合いを空け続けるとなると魔法をなるべく切れ目なく撃ち続ける事になるよね...。魔力切れには気を付けなよ？」


「分かってるよ。ユーマ君との修行のお陰でだいぶ魔力も増えてきてるし気を付ければ切れることはないと思うよ」


「そっか。試合楽しみにしてるよ」


「うん。試合に勝てるよう頑張るよ」


「頑張ってね！」
(フィオもシルフィの試合を見て感化されたかな？フィオが試合に勝って帰ってきた時の為にご褒美考えておこう。というか僕以外のチームメンバーが勝った時ようにご褒美は考えておかないとだね))


 フィオが握りこぶしを作ってやる気に満ちているのを傍に見ながら僕はみんなへのご褒美を考え始めた。