サムライだけど淫魔なので無双します ~淫魔王の血を引く少年は、剣と淫力で美少女達を屈服させる~
第19話 ボン・ボヤージュ!
予想外に、サンドフォートの定期船乗り場には人が並んでいた。
大量の荷物を背負っている行商人、旅に出かける剣士、各地を回っている吟遊詩人……多くの人々が、それぞれの用事のために、船を利用しようとしている。
ちなみに、この大陸では、呑気に家族旅行や観光に出かける者はいない。モンスターが跋扈し、金や女に餓えている盗賊が徘徊する危険な土地ばかりだから、道楽で旅する者など存在しないのだ。自然、旅する者は、王侯貴族か戦士、商人に限られ、しかも必ず集団で移動をする。
そんな大陸の旅事情を鑑みれば、これだけの数の人々が定期船を利用することは、驚きとしか言いようが無い。しかも、親子連れの利用客までいる。
「すごい数……」
エイミは目を丸くしている。
「サンドフォートは、交通の要所だって聞いていたけど、まさかこんなに」
「私もよ、エイミちゃん。びっくり」
オリガもまた、人混みを前にして、唖然としていた。
そうこうしている内に、ようやく乗り口の所まで、列が進んだ。
「乗船券を拝見します」
青い上着に白いズボンの制服を着た乗組員達が、乗客の一人一人に、丁寧に対応していく。先頭のオリガの番になり、乗組員は乗船券を手に取った。
「ボン・ボヤージュ」
オリガが美人だからか、乗組員はニッコリと微笑み、乗船券を返した。後に続くスリード達の券も、几帳面に確認していく。
「水夫の鑑ね」
感心したように、オリガが言う。
「私、絶対にあんな仕事やれそうにない。一枚一枚、券を確認して……考えただけで、頭がおかしくなっちゃいそうよ」
「では、船室の方に向かいましょう。部屋割りは、さっき決めた通りに」
ザリタが先頭に立って、甲板を歩いていく。出航前だから、船室に荷物を置くため、甲板上にはほとんど乗客がいない。ザリタは早歩きで船の中央へと行き、下へ降りる階段を見つけると、スリード達が来るまで待った。しかし、ザリタにとって、スリード達はどうでもいい。彼が待っていたのは、ニーザただ一人である。
「足元に気をつけてください、お嬢様。転げ落ちないように……」
「解ってるよー。心配しないで」
さすがに、ザリタの過保護な振る舞いを受けて、ニーザは煙たそうに言い捨てた。
下へ降りると、そこがスリード達の寝泊まりする、二等客フロアだった。その幅だけで一部屋分ありそうな広い廊下が、前後に伸びている。
スリード達が降りてきた階段の裏側に、さらに下へと行く階段があるが、この下のフロアは一等客用の階層である。そのさらに下のフロアは、三等以下の客や、乗組員の寝泊りする階層だ。下へ行く必要は全くない。
「じゃあ、部屋のほうに行きましょう。私とニーザちゃんは、142号室のAね」
「この、部屋番号の後にある、AとかBとかって何なの、オリガさん?」
「スリード君は砂上船はよく知らないのね。いいわ、教えてあげる。この定期船の二等客フロアは、左右それぞれに百の船室が並んでいるの。100から、199号室までね。それで、廊下を挟んで、進行方向を向いて左がA、右がBになるわけ。だから、私達の142号室は、船首の方を向いて左側にあるわけ」
「そうなんだ。だったら、僕とザリタさんの船室は156号室のBだから、右側なんだね」
「ふん」
ザリタは鼻を鳴らした。なぜこの少年と同じ部屋にならないといけないのか、と言わんばかりに、不満げな様子だった。
「私は、179号室のBか~。一人じゃ退屈だなあ」
アルマが心底つまらなそうにぼやいた。
そんな彼女を、ソフィアはまあまあとなだめる。
「荷物を置いたら、うちの部屋に来ればいい。話し相手くらいにはなるから。私とイリーナは、143号室のAだから、憶えておいて。……それにしても、どうして部屋の並びがバラバラなの? まとめて買えば良かったじゃない」
「ソフィア殿。出航の二時間前に券を買ったから、もう残り少なくて、どうしても部屋はバラバラになるしかなかった。二部屋だけ隣同士に出来たが……我々の部屋を、あなたの143号室と交換することは出来ないだろうか?」
「女の子達だけで固まっていた方が、あとで族長にゴチャゴチャ言われなくて済むでしょう? 私も、オリガ様に近いほうが安心出来るし」
「そうかもしれないが」
「私達が信用できない? ニーザが心配?」
「正直なところ、お嬢様から離れた部屋にいることが、気が気でない」
「ぐちぐち不満言うぐらいだったら、船を明日に延ばしても良かったでしょう」
「仕方がない。山の存亡がかかっている。なるべく、早い便に乗りたかった」
「なら、文句を言う筋合いは無いわ」
ソフィアに決め付けられ、ザリタは返す言葉も無く、心配そうにニーザを見た。
「じゃあね、ザリタさん」
とあっさり言われてしまったからには、いつまでも留まっていられない。ザリタは何度も何度もニーザの方を振り返っていたが、やがて船首の方へとトボトボ歩いていった。
「さて、うるさい人もいなくなったし!!」
「わ⁉」
快活な声を出し、ニーザはスリードに抱きついてきた。柔らかな胸をギュッと押し当てられ、思わずスリードは声を上げた。
「お兄さん、ザリタさんが寝ちゃったら、ボクの部屋に来てよ♪ いっぱいお話しよ!」
「いや、それ、もしザリタさんにバレちゃったらどうするの」
「大丈夫だよ。お話しするだけだもん」
「君はそれでOKかもしれないけど、あの人、怒ったら本気で殺しにかかりそうだし、僕のほうはたまったもんじゃないんだからね! それに、勘だけど、あの人って相当強いでしょ」
「うん、ナジュラの中でも、随一の猛者だって聞いたよ」
「ヤバいって、それ」
本当に命を落としかねない。
「それじゃあ、今だけでもちょっと話そうよ! ボク、お兄さんにすっごく興味あるんだ♪」
ニーザは待ちきれない様子で、ピョンピョン飛び跳ねたが、オリガが黙ってその腕を引っ張った。
「きゃっ、なに?」
「ニーザちゃん、今はザリタさんとの約束通りにしましょ。すぐにでも引き返してきて、確認しに来るのかもしれないんだし」
「む~……わかった」
ここで無理を言うほど、ニーザは馬鹿ではないようだ。素直に、オリガと一緒に部屋へと向かった。
続いてソフィアとイリーナも、自分達の部屋に入った。
「また後ほど」
イリーナが手を振って、扉を閉めた後、スリードとアルマは廊下に二人きりになった。
何となく、気まずい雰囲気が流れている。
(やけに様子が変なんだよなあ)
この旅が始まってからというものの、なぜかアルマはスリードに対して無愛想になっている。その理由は皆目見当もつかない。アズラックの町で会っていた時は、特におかしな様子ではなかったのに。
明らかに態度が豹変したのは、気絶したスリードが目を覚まし、馬車の中で再会したとき。あの時にはもう、アルマの様子はおかしかった。
アズラックの町で出会った時と、馬車の中で再会した時、その間に起こった出来事と言えば――。
「ごめん、ね」
アルマが消え入りそうな声で話しかけてきたので、スリードは考えるのをやめた。
「どうして謝るの?」
「ん……ちょっと、愛想悪かったかな、って思ったの。別にスリードに対して、何か思うところがあるわけじゃないから。そこんとこ、勘違いしないでよ」
「わかってるよ」
とは言ったものの、何も理由が無いのに、あんな奇妙な態度を取るとは思えない。
「あ、ここだよ」
アルマが扉を指差した。確かに「156号室」と書かれている。
「じゃ、また食事時にでも」
「うん」
もうちょっとアルマと話していたかったが、今はまだ彼女の真意を引き出すことは出来なさそうだ。もっとお互いの信頼関係を築き上げてから、なぜ彼女の様子がおかしくなったのか、聞き出してみようと思った。
部屋の中に入った。入り口から縦長に伸びており、案外奥行きがある。入り口脇のシャワー室を通り過ぎると、横向きにベッドが二つ並んでおり、ベッドのある壁の反対側には、クローゼットとダイヤル式の簡易金庫、そして楕円形の鏡が壁面に掛かっている。
ベッドの上で、ザリタがあぐらをかき、何か瞑想をしている。スリードが入ってきてもまったく反応しない。
邪魔にならないように、スリードは足音を消しながら、窓際にそっと寄った。小さな丸窓の向こうに、乗船用足場の骨組み部分が見え、その隙間から停泊中の他の定期船が姿を覗かせている。
砂漠の城塞都市にかかる青空が、実に清々しい。
(もうすぐ、出航か……)
思えば、師匠に会っても、まともに会話が出来るとは限らない。いや、洞窟での反応を思い返せば、まず間違いなく師匠は自分を殺しにかかる。それなのに、どうして師匠に会いたいと感じているのか……。
窓の外を眺めたまま、ぼんやり物思いに耽っていると、船に軽い震動が走った。
いよいよ出航だ。
大量の荷物を背負っている行商人、旅に出かける剣士、各地を回っている吟遊詩人……多くの人々が、それぞれの用事のために、船を利用しようとしている。
ちなみに、この大陸では、呑気に家族旅行や観光に出かける者はいない。モンスターが跋扈し、金や女に餓えている盗賊が徘徊する危険な土地ばかりだから、道楽で旅する者など存在しないのだ。自然、旅する者は、王侯貴族か戦士、商人に限られ、しかも必ず集団で移動をする。
そんな大陸の旅事情を鑑みれば、これだけの数の人々が定期船を利用することは、驚きとしか言いようが無い。しかも、親子連れの利用客までいる。
「すごい数……」
エイミは目を丸くしている。
「サンドフォートは、交通の要所だって聞いていたけど、まさかこんなに」
「私もよ、エイミちゃん。びっくり」
オリガもまた、人混みを前にして、唖然としていた。
そうこうしている内に、ようやく乗り口の所まで、列が進んだ。
「乗船券を拝見します」
青い上着に白いズボンの制服を着た乗組員達が、乗客の一人一人に、丁寧に対応していく。先頭のオリガの番になり、乗組員は乗船券を手に取った。
「ボン・ボヤージュ」
オリガが美人だからか、乗組員はニッコリと微笑み、乗船券を返した。後に続くスリード達の券も、几帳面に確認していく。
「水夫の鑑ね」
感心したように、オリガが言う。
「私、絶対にあんな仕事やれそうにない。一枚一枚、券を確認して……考えただけで、頭がおかしくなっちゃいそうよ」
「では、船室の方に向かいましょう。部屋割りは、さっき決めた通りに」
ザリタが先頭に立って、甲板を歩いていく。出航前だから、船室に荷物を置くため、甲板上にはほとんど乗客がいない。ザリタは早歩きで船の中央へと行き、下へ降りる階段を見つけると、スリード達が来るまで待った。しかし、ザリタにとって、スリード達はどうでもいい。彼が待っていたのは、ニーザただ一人である。
「足元に気をつけてください、お嬢様。転げ落ちないように……」
「解ってるよー。心配しないで」
さすがに、ザリタの過保護な振る舞いを受けて、ニーザは煙たそうに言い捨てた。
下へ降りると、そこがスリード達の寝泊まりする、二等客フロアだった。その幅だけで一部屋分ありそうな広い廊下が、前後に伸びている。
スリード達が降りてきた階段の裏側に、さらに下へと行く階段があるが、この下のフロアは一等客用の階層である。そのさらに下のフロアは、三等以下の客や、乗組員の寝泊りする階層だ。下へ行く必要は全くない。
「じゃあ、部屋のほうに行きましょう。私とニーザちゃんは、142号室のAね」
「この、部屋番号の後にある、AとかBとかって何なの、オリガさん?」
「スリード君は砂上船はよく知らないのね。いいわ、教えてあげる。この定期船の二等客フロアは、左右それぞれに百の船室が並んでいるの。100から、199号室までね。それで、廊下を挟んで、進行方向を向いて左がA、右がBになるわけ。だから、私達の142号室は、船首の方を向いて左側にあるわけ」
「そうなんだ。だったら、僕とザリタさんの船室は156号室のBだから、右側なんだね」
「ふん」
ザリタは鼻を鳴らした。なぜこの少年と同じ部屋にならないといけないのか、と言わんばかりに、不満げな様子だった。
「私は、179号室のBか~。一人じゃ退屈だなあ」
アルマが心底つまらなそうにぼやいた。
そんな彼女を、ソフィアはまあまあとなだめる。
「荷物を置いたら、うちの部屋に来ればいい。話し相手くらいにはなるから。私とイリーナは、143号室のAだから、憶えておいて。……それにしても、どうして部屋の並びがバラバラなの? まとめて買えば良かったじゃない」
「ソフィア殿。出航の二時間前に券を買ったから、もう残り少なくて、どうしても部屋はバラバラになるしかなかった。二部屋だけ隣同士に出来たが……我々の部屋を、あなたの143号室と交換することは出来ないだろうか?」
「女の子達だけで固まっていた方が、あとで族長にゴチャゴチャ言われなくて済むでしょう? 私も、オリガ様に近いほうが安心出来るし」
「そうかもしれないが」
「私達が信用できない? ニーザが心配?」
「正直なところ、お嬢様から離れた部屋にいることが、気が気でない」
「ぐちぐち不満言うぐらいだったら、船を明日に延ばしても良かったでしょう」
「仕方がない。山の存亡がかかっている。なるべく、早い便に乗りたかった」
「なら、文句を言う筋合いは無いわ」
ソフィアに決め付けられ、ザリタは返す言葉も無く、心配そうにニーザを見た。
「じゃあね、ザリタさん」
とあっさり言われてしまったからには、いつまでも留まっていられない。ザリタは何度も何度もニーザの方を振り返っていたが、やがて船首の方へとトボトボ歩いていった。
「さて、うるさい人もいなくなったし!!」
「わ⁉」
快活な声を出し、ニーザはスリードに抱きついてきた。柔らかな胸をギュッと押し当てられ、思わずスリードは声を上げた。
「お兄さん、ザリタさんが寝ちゃったら、ボクの部屋に来てよ♪ いっぱいお話しよ!」
「いや、それ、もしザリタさんにバレちゃったらどうするの」
「大丈夫だよ。お話しするだけだもん」
「君はそれでOKかもしれないけど、あの人、怒ったら本気で殺しにかかりそうだし、僕のほうはたまったもんじゃないんだからね! それに、勘だけど、あの人って相当強いでしょ」
「うん、ナジュラの中でも、随一の猛者だって聞いたよ」
「ヤバいって、それ」
本当に命を落としかねない。
「それじゃあ、今だけでもちょっと話そうよ! ボク、お兄さんにすっごく興味あるんだ♪」
ニーザは待ちきれない様子で、ピョンピョン飛び跳ねたが、オリガが黙ってその腕を引っ張った。
「きゃっ、なに?」
「ニーザちゃん、今はザリタさんとの約束通りにしましょ。すぐにでも引き返してきて、確認しに来るのかもしれないんだし」
「む~……わかった」
ここで無理を言うほど、ニーザは馬鹿ではないようだ。素直に、オリガと一緒に部屋へと向かった。
続いてソフィアとイリーナも、自分達の部屋に入った。
「また後ほど」
イリーナが手を振って、扉を閉めた後、スリードとアルマは廊下に二人きりになった。
何となく、気まずい雰囲気が流れている。
(やけに様子が変なんだよなあ)
この旅が始まってからというものの、なぜかアルマはスリードに対して無愛想になっている。その理由は皆目見当もつかない。アズラックの町で会っていた時は、特におかしな様子ではなかったのに。
明らかに態度が豹変したのは、気絶したスリードが目を覚まし、馬車の中で再会したとき。あの時にはもう、アルマの様子はおかしかった。
アズラックの町で出会った時と、馬車の中で再会した時、その間に起こった出来事と言えば――。
「ごめん、ね」
アルマが消え入りそうな声で話しかけてきたので、スリードは考えるのをやめた。
「どうして謝るの?」
「ん……ちょっと、愛想悪かったかな、って思ったの。別にスリードに対して、何か思うところがあるわけじゃないから。そこんとこ、勘違いしないでよ」
「わかってるよ」
とは言ったものの、何も理由が無いのに、あんな奇妙な態度を取るとは思えない。
「あ、ここだよ」
アルマが扉を指差した。確かに「156号室」と書かれている。
「じゃ、また食事時にでも」
「うん」
もうちょっとアルマと話していたかったが、今はまだ彼女の真意を引き出すことは出来なさそうだ。もっとお互いの信頼関係を築き上げてから、なぜ彼女の様子がおかしくなったのか、聞き出してみようと思った。
部屋の中に入った。入り口から縦長に伸びており、案外奥行きがある。入り口脇のシャワー室を通り過ぎると、横向きにベッドが二つ並んでおり、ベッドのある壁の反対側には、クローゼットとダイヤル式の簡易金庫、そして楕円形の鏡が壁面に掛かっている。
ベッドの上で、ザリタがあぐらをかき、何か瞑想をしている。スリードが入ってきてもまったく反応しない。
邪魔にならないように、スリードは足音を消しながら、窓際にそっと寄った。小さな丸窓の向こうに、乗船用足場の骨組み部分が見え、その隙間から停泊中の他の定期船が姿を覗かせている。
砂漠の城塞都市にかかる青空が、実に清々しい。
(もうすぐ、出航か……)
思えば、師匠に会っても、まともに会話が出来るとは限らない。いや、洞窟での反応を思い返せば、まず間違いなく師匠は自分を殺しにかかる。それなのに、どうして師匠に会いたいと感じているのか……。
窓の外を眺めたまま、ぼんやり物思いに耽っていると、船に軽い震動が走った。
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