サムライだけど淫魔なので無双します ~淫魔王の血を引く少年は、剣と淫力で美少女達を屈服させる~

夕凪カサネ

第15話 スライム責めの時間

時刻は、ちょうどスリードとニーザが馬車の幌の上で話している頃――。

遙かに離れた地、ナバル砂漠を行く砂上船の、VIPルームの中で。

「あん……ぁああ」
「あ、くぁ……もう、許してぇ……」

二人の美女が身悶えしながら苦しんでいるのを眺めつつ、トリックスターは満足げにワインを飲んでいた。

「くくく、ザマぁねえなあ。魔と技、我々の両巨頭が、こんなはしたない格好で色っぽく喘いでいるなんてな」

床の上には、蒼麟とナラーファが下着姿で倒れており、二人とも顔を上気させ、何度も悩ましげな声を漏らしている。

なぜこんなことになっているか。

それは、二人の体に絡みついたスライムの仕業によるものだ。

リックスライムと呼ばれる種族。その名の由来は、捕捉した相手を食さず、粘液状の全身を使ってひたすら舐めるように責め苦を与えるところにある。その結果、滲み出てくる体液を食料としている。特に女性の体液なら何でも好みだという話だ。

そのリックスライムに、蒼麟とナラーファは、もう二時間近くも責められている。

蒼麟は、トリックスターの命令に背き、スリードを殺しかけたことで。ナラーファは、余計な相手に手を出したせいで、仲間を危険に巻き込んだことで。トリックスターがお仕置きとして、リックスライムの刑に処しているのである。

「あ⁉ やっ……!」

より体液を貪ろうと、リックスライムは蒼麟のパンツの中へと入り込もうとする。そこに入られたらおしまいだとばかりに、必死になって蒼麟は抵抗する。だが、不定形のスライム相手では、耐え抜くのも時間の問題だ。

「くくく、くくく」

空になったワイングラスを脇の机に置き、ベッドに腰かけたまま、トリックスターは楽しげに笑った。

「どうした、蒼麟。いつもの気丈さは、欠片も無いな」
「ん……ふぅ……く……!」

リックスライムに責められ続け、蒼麟の顔は、前髪に至るまで、ベットリと青い液がこびり付いている。それを拭う隙も与えてもらえない。何とか体からリックスライムを引き剥がそうとするが、そうやって身動きすると、自然と腰をくねらせるような形になり、ますます扇情的な様相を醸し出してくる。

隣で口の中いっぱいにリックスライムが入り込んでいるナラーファも、同様の状態だった。

「んぐぅ……むぐ……じゅる……」

大粒の涙をこぼしながら、ナラーファはリックスライムを吐き出そうと懸命に頑張っている。だが、リックスライムはナラーファの唾液の味が気に入ったのか、頑固に口の中にへばりついたまま、離れようとしない。

「さて、そろそろお仕置きも終わろうか」

トリックスターの言葉に、やっと解放されるのか……と蒼麟とナラーファは安堵の表情を見せた。

ところが、

「だが、二人同時に放すのも面白くないな。どっちか片方だけだ、終わりにするのは」

トリックスターの顔が残酷に歪む。

「俺に媚びろ。許しを乞え。より色っぽく迫ることができたほうを、助けてやる」

この瞬間、二人の性格の違いが明確に現れてしまった。

生真面目な蒼麟はためらってしまった。己の不手際と反省し、甘んじてこのお仕置きを受けてはいたが、トリックスターに媚びるのは話が別だ。そんなこと出来ない、とつい考えてしまった。

それに対して、ナラーファは躊躇無かった。

強引に、ぶはっ、と口の中のスライムを吐き出すと、床の上を這ってゆき、トリックスターの足元にしがみついた。

「あぁぁ、トリックスター様ぁぁ……何でもしますぅ……だから、もう、終わりにしてぇ……お願ぁい……」

潤んだ瞳でトリックスターのことを見つめながら、甘い声でナラーファは助けを求める。

「いいぞ、ナラーファ。なかなかそそるじゃねえか。で? 蒼麟、お前はどうするんだ?」

蒼麟は、喉元まで媚びた言葉が出かかったのを、グッとこらえた。ここで屈服しては、サムライの名折れである、と。

「そぉぉかああ! そうまでしてサムライとやらの矜持を守りたいかぁぁ! ならば、もっともっと、グチャグチャに乱れさせてやるよ!」

トリックスターの両の瞳に、妖しい光が宿った。瞳孔が開いており、狂気ともとれるが、怒りの炎をも感じさせる。

ナイトテーブルの上に置いてあった瓶を取り上げ、蓋を開けた。中から、新たなリックスライムが飛び出してくる。その勢いのまま、蒼麟の体にまとわりついた。

「いや、いや、いやぁぁぁああ!」

蒼麟は泣き叫んだ。剣を極めたサムライであっても、このようなモンスターに全身を拘束されては、どうにも太刀打ち出来ない。ただ一人の娘として泣きじゃくるしかなかった。

そんな蒼麟を見て、トリックスターはニィィと口の端を歪めた。

「見ろォ、スリードォォォォォォォォォ!! お前の師匠は、俺が征服してやったぞぉぉぉ!!!!!!! ひゃあああははははははははは――!」

なぜかスリードの名前を出し、勝ち誇ったかのように、狂った笑い声を上げるトリックスター。

その時、突然、部屋の扉が開かれた。

トリックスターはハッと顔を上げた。

扉の向こう側には、露骨に嫌悪の表情を浮かべ、ヘイユンが立っていた。

「……なんだ、お前か。何の用だ?」
「いえ、うるさいモンスター達が、この砂上船の周囲を囲んでおりますから。一応お知らせに上がったまでです」
「ふん、サンドライダーズか。そんなことで、俺様のお楽しみタイムを邪魔するな」
「お楽しみ、ですか?」
「……」
「ふふふ、その顔で、お楽しみ、ですか」
「……」

トリックスターは、ヘイユンを睨みつけている。そして、コンコン、と自分の仮面を叩いた。

「俺が今、どんな顔をしているか、わかりもしないくせに。何を言いやがる」
「その程度の仮面では、隠せませんよ。あなたの卑屈な根性は」
「……おい、もう一度言ってみろ。殺すぞ」
「あら、意外です。どちらの実力が上か、わからないわけではないでしょうに、そんな強気なご発言をされるなんて」
「貴様っ……!」
「でも、もっと意外なのは……あなたに涙を流すだけの、人間らしい感情が、まだ残っていたことです」
「……!」

トリックスターは、自分の目のあたりに指を当てた。生暖かい涙が、指先に付着する。知らず知らずのうちに流していたものだ。

「俺は……いつの間に……」
「今、どのような感情に包まれているのですか? 悲しみですか? 悔しさですか?」
「……黙れ」
「本当は、スリードさんを殺したくて殺したくて、仕方がないのでしょう? でも、淫魔王復活のためには、どうしても彼を利用しなければならない……あなたの心の葛藤、痛いほどよくわかります」
「……」
「だから私が、その悲しみを半分引き受けましょう」
「ふん、同情か?」
「いえ」

ヘイユンは、襟元から呪符を五枚取り出し、胸の前で構えた。

「これ以上、無駄な犠牲者を出させないためです」


※ ※ ※


定期船の甲板に、ヘイユンは立っていた。

(数は、千……今までにない、最悪の数ね)

船に詰めている警備兵達は、まだ気が付いていないようだった。定期運行している砂上船には、魔力を用いた「魔道レーダー」が積んであるはずだが、恐らく敵は射程外にいるのだろう。

サンドライダーズ。このナバル砂漠を横断するものなら、誰もが恐れるモンスター集団。普通は百体から五百体で行動するものだが、この晩は異常なまでに大量発生していた。

(月が、モンスターを狂わすのね)

満月が砂漠の上で静かに輝いている。太陽光が反射され、すでに死んでいる光、陰の気を持つ光が、ナバル砂漠に降り注いでいる。死者達が目を覚ますのも、当然の話だった。

(来た)

ヘイユンは呪符を強く握り、念を込める。死と恐怖をもたらすサンドライダーズだが、ヘイユンには一撃で全てを始末する自信があった。

下の方から、慌ただしい気配が伝わってくる。ようやく警備兵達が気が付いたのだろう。しかし、敵は正面。今さら慌てても間に合わない。

(……?)

様子がおかしいことに気が付き、ヘイユンは甲板を船首まで駆けていった。

目を凝らして、船の進行方向、前方を見つめる。

「あれは⁉」

八階建ての建物と同じ高さの巨大砂上船が、向こうのほうから蛇行しながら近付いてくる。ヘイユン達が乗っているのと同じ定期船だ。復路を進むその船は、不自然なまでに蛇行し、そして各所から火を噴き出していた。

「そう、襲われているのはそっちだったのね……」

悲しい眼差しで、ヘイユンはすれ違う定期船を見送った。内部から生命の存在を全く感じない。千人近い人々の命が、一瞬の内に奪われていったのだろう。

(痛い……)

ヘイユンは胸を押さえた。

後方へと過ぎ去っていく定期船に悲しい思いを馳せながら、二度とこんな悲惨な出来事を起こすまいと、ヘイユンは決意を固くしていた。

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