サムライだけど淫魔なので無双します ~淫魔王の血を引く少年は、剣と淫力で美少女達を屈服させる~

夕凪カサネ

第10話 調教部屋の少女達

「ス、スリード!!」

起き上がった瞬間、涙目のイリーナが抱き着いてきた。

「よかった!」

キョトンとしていたスリードだったが、やがて柔らかく微笑んだ。

「ただいま」

ヘイユンは現実世界にはいなかった。どうやってスリードの心の中に直接働きかけていたのかはわからないが、イリーナに「誰かここへ来た?」と聞いても、「誰も来てないけど」と返してきたことから、おそらく遠隔地より魔法か何かでアクセスしてきたのだと思われた。

「それより、オリガさん達は?」
「最初に分かれ道で二手に分かれたっきり。今どこにいるのか、さっぱりわからない」
「心配だね」
「探しに行く? でも、またあの女サムライに出会ったら……」
「考えてても仕方がないよ。何とかするしかない」

地面に落ちている刀を拾って、スリードは立ち上がった。

ふと、考え込んでしまう。

自分に向けられた、ヘイユンの願い。自分には、その想いに応える義務があるのだろうか?

それとも、淫魔王復活の計画を阻止しなければならない運命にあるのだろうか?

何はともあれ、今の問題を解決することが先決だ。

「アルマさんの安否も気になるから、二手に分かれるよ。君はオリガさん達の安否を確認して。僕は、もっと奥に行ってみる」
「わかった……今度は死なないでね」
「そっちも気を付けて」

二人は互いにうなずき合った後、わき目も振らず駆け出した。スリードは洞窟の奥へ、イリーナはオリガ達を探しに。

スリードは暗い洞窟の一本道を走りながら、ヘイユンの言葉を思い出していた。

『想像次第で、常識を超えた戦い方も可能です』

精霊の力を使えば、人間離れした、通常では不可能な動きも可能だと言っていた。

(イマジネーション、か……)

スリードは暗がりの中、走りつつ、ギュッと目を閉じた。

(早く走れ)

念じてみて、目を開いたが、何も起きていない。考えてみれば、肝心の使い方を教わっていないではないか。

「まいったな」

意識を集中させるため、もう一度目を閉じる。今度は念じ方を変えてみた。

(僕を早く走らせろ)

やはり、変化は無い。通常の速度で走っている。スリードはガッカリして、かぶりを振った。人智を超える動きが出来ると聞いて、少し楽しみにしていたのだが……。

「残念だなぁ」

……その時、別の方法が頭に浮かんだ。

「無理かもしれないけど……僕を速く走らせろ!!」

声に出して命令してみる。何も起こらない。

「ちぇっ」

残念そうに唇を尖らせて、誰もいないのに拗ねてみせる。

先を急ごうと思い、無意識の内に、力強く足を踏み込んだ。その動作の最中、スリードは、自分が早く走っているイメージを膨らませていた。この単調な洞窟の中を、獣並みのスピードで走ったら、どんなに気持ちがいいだろう……。

地面を踏み込む動作と、速く走るという脳内イメージが重なった。

グン――。

「う、うわっ!?」

周りの風景が掻き消える。耳に飛び込んでくる風切り音がゴウゴウとうるさくなり、信じられない速度で、洞窟の壁面が後方へと流れていく。

曲がり角が目の前に現れ、突き当たりの壁が接近してきた。

「わあああ!!」

咄嗟に、スリードは体を横倒しにして、ジャンプした。このスピードだと、真正面から激突するよりも、高所から落下して着地するような体勢の方が、安全に止まれる気がしたからだ。

いや、この時スリードは、壁面に着地するイメージを頭の中に描いていた。

ドン。

壁に着地した。

「……あれ?」

涙目のスリードは、その場でしゃがんでいたが、恐る恐る、目を開いてみる。

風景がおかしかった。さっきは、L字の曲がり角が見えた。そこに激突すると思っていた。しかし、今は、自分が来た道がずっとまっすぐ伸びているだけで、完全な行き止まりになっている。

「ここ、どこ?」

ワープでもしたのかと思い、周りを見る。

キョロキョロを見回して、上を向いた瞬間、スリードは首を傾げた。真上に向かって、どこまでも高く、穴が伸びている。暗い穴が、上へ上へと……。

ふと、左横の壁面を見ると、自分の刀が貼り付いていた。

「?」

激突の瞬間、落としてしまったようだが……どうして、壁にくっついているのか?スリードは奇妙に感じながらも、刀を手に取った。ズシッと、重みが横の方向にかかる。

(手が横に引っ張られる!?)

力を込めて壁から引き剥がすと、横へ引っ張る力は全く無くなっていた。

「おかしいな」

そう呟いて、もう一度上方を見る。ポッカリと、長い縦穴が伸びている。

(まさか!)

スリードは、自分の置かれている状況と、全てのカラクリに気が付いた。それと同時に、グラッと世界が傾き、スリードが立っている場所は壁面に、横の壁は地面へと、重力が入れ替わった。

「ひゃっ」

頓狂な悲鳴を上げて、スリードは洞窟の地面へと叩きつけられる。変わっていたのは重力だけでなく、感覚も変化していたようだ。地面が急激に入れ替わったせいで、クラクラと眩暈がする。

「そ、そういうことだったんだ……」

速く走り始めた瞬間、スリードは自然な感じで、(速く走ろう)と体を動かしていた。壁に着地する離れ技は、(壁に着地しないと!)と無意識の内に思って、壁に向かって跳躍していた。

指を動かす時、(親指を動かせ)、(小指を動かせ)、とハッキリ言葉にして考えてはいない。脳から神経への伝達はあるが、ほとんど無意識に近い状態で各部を動かしている。

体全体で見ても、歩くのに(歩け、歩け)と考えたりしない。歩くから歩くのである。食べるから食べるのであり、見るから見るのである。

「使い方がわかった」

大事なのはイマジネーション――「不可能な動き」ではなく、「自然に出来る動き」と無意識の内に理解していることが、何よりも大切なのだ。考えるのではなく、信じて動く時、初めて混沌の精霊の力は発揮されるのだ。

(でも……そうすると、早く動いたり、相手が遅く見えたり、っていうのは簡単にイメージ出来るけど……石を金に変えたり、雨の勢いを強くしたりなんてことは、『自分で操作出来る』なんて信じること出来ないしなぁ……)

自分が、『変化』を起こせると頭から信じられなければ、精霊の力を発動させられない。となると、凡人には、自分の想像以上の『変化』を物事に起こすのは、実質、不可能と言える。

しかも、反動が大きい。

「う……疲れた……」

どうやら魔力を使い切ってしまったようだ。精霊を使うためのエネルギー源は、おそらく体内に宿る魔力だと思われる。その魔力は、人によって量の多少が違ってくる。しかも、才能のある人でも、何度も魔法を使ったりして経験を積まなければ、十分な量の魔力を得ることが出来ないのである。

スリードの場合、才能の有無はともかく、一度も魔法を使った経験が無いため、たった一回の精霊の力を使用しただけで、魔力が底を尽きてしまった。

「く、そぉ……」

魔力は、そのまま体の動きに直結する。魔力が残っていなければ、体力が残っていても、指一本動かすことは出来ない。

スリードは、地面に横たわったまま、魔力が自然に回復するのを待つしかなかった。

しばらくしてから、体を動かせるようになってきた。

「よし」

ふらつく体を強引に起こす。立ち眩みがして、すぐに身を屈めたが、我慢して背を伸ばした。思いの外、混沌の精霊の魔力消費量は馬鹿にならない。そう何度も使える能力ではない、ということだ。

(大事な局面まで、温存しないと……)

壁に手をつき、ゆっくりと歩を進める。

(あの、アルマという女の子、大丈夫かな?)

敵は、蒼麟に、時計台で戦った獣人エイミもいる。先ほど精神世界に働きかけてきたヘイユンという少女もいた。もしかしたら、他にもいるかもしれない。しかも、なかなか層は厚そうだ。

洞窟を奥へ奥へと進んでいく内に、目の前に明るい光が見えてきた。部屋の灯りだ。

「あそこに……?」

誰が中にいるのか判らないので、歩みを遅くして、慎重に部屋へと近付いていく。ドアも何も無い、洞窟の空間を利用して作られた部屋。中が丸見えのはずだが、ランプの光のみの、暗い洞窟の中に目が慣れてしまったので、逆光でよく見えない。

さらに近付いた時、

「あぁぁ……」

ただならぬ様子に、スリードは部屋の中へと飛び込んだ。

「こ、これは!?」

元々は洞窟の広間だったのだろう。意外と部屋は広い。土壁には、何十個もの首輪や手錠が鎖でぶら下がっており、ディルドやバイブから、トゲ付きの鞭まで、あらゆる拷問道具が備え付けられている。しかし、そんな光景は、まだまだ序の口だった。

部屋の中には、奥の方まで、ざっと二十人はいるだろう――女の子達が裸で寝かされている。全員、犬のように首輪を付けられて、布団も無く、地べたに身を横たえている。寝ている者、ぼんやりと眼を開けている者、全員が疲れきった表情をしていて、今まで何をされてきたか想像に難くない。

「……」

酷い、と言いたかったが、何故か言えなかった。

それどころか、下腹部のあたりが、動物的な激しい欲求に突き動かされている。

女の子達は、どれも美少女だ。顔も体型も申し分なく、どの女の子も抱きたくなるほど、選りすぐりの可愛い子が寄せ集められている。

スリードは、呆然と見ていたが、

「はっ」

と現状に気が付いた。

確かに目の保養になるが、そんなことで時間を潰している暇は無い。あのアルマという少女も、ここにいる少女達のような目に遭っているのかもしれないのだ。

この子らは後でアズラックの守備隊に救わせるとして、今はアルマを探すことを優先したかった。

「アルマさん、どこにいるの!?」

倒れている女の子達の顔をチェックする。しかし、昨日見た、特徴的なツインテールの少女は、どこにも見当たらなかった。

ここ以外にも、調教部屋があるかもしれない。探さないと、とスリードは踵を返し、今の部屋から出ようとした。

「?」

気配を感じ、部屋の出入り口の前で、刀を構える。

明らかに、外に誰か潜んでいる。

「……バレバレだよ。トリックスターの配下でないなら、僕は何もしない。出てきて」

優しく声をかけ、念のため後方へ下がる。

スリードが三歩ほど退いたところで、相手が姿を現した。

「あっ……」
「何で!?」

スリードと相手は、同時に声を出した。

入り口の陰から姿を現したのは、まさしくアルマその人だった。

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