【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

731話 薄幸の少女ノノン

 時を遡ること数年……。
 サザリアナ王国王都にて。

「お母さん、見て! お星様!」

「本当ね。綺麗……」

 とある少女が夜空を見上げていた。
 満天の星々が輝いている。

「ねぇ、お母さん」

「どうしたの?」

「お母さんってどうしてお父さんと結婚したの?」

「えっと……それは……運命かな?」

 少女の母親はやや照れたように言う。

「ふーん。そうなんだ。あー、わたしもいつか運命の人と出会えるのかなぁ……」

「そうよ。きっと素敵な男性に出会えるわ」

「うん!」

 少女は元気よく返事をした。
 この時点では、彼女の未来は明るいものになるように思われた。

*****

 少女は両親に愛され、安全で豊かな王都で幸せな生活を送っていく。
 そんなある日のこと……。
 少女が日課に水汲みから帰って来ると、家の中に暗い雰囲気を感じた。
 見ると、母親が顔色を蒼白にしている。

「何かあったの?」

 少女が不安げな表情で尋ねる。

「ノノン……。大変なの。お父さんが魔物狩りで失敗して大怪我をしちゃって……」

「え!? お父さんが!?」

 少女……ノノンは慌てて父親の部屋へと駆け込んだ。
 そこには、ベッドの上で苦しむ父親の姿があった。
 右足と左手がない。
 今は眠っているようだ。

「治療費と生活費を何とか工面しないと……。このままじゃ家が潰れてしまう……。ああ、なんてことなの……。この子まで路頭に迷ってしまうわ……」

 母親は頭を抱えて震える。
 彼女の夫は冒険者としてそれなりに有名だった。
 だが、蓄えは今回の治療で消え失せるだろう。

 しかも、治療とはいえ完治するわけではない。
 この大怪我では、冒険者として再起することは不可能。
 一家は大黒柱を失ったのだ。

「わたしが働いてお金を稼ぐよ! だから安心して」

「ダメ!  あなたはまだ子供じゃない」

「だいじょうぶだよ! ちゃんと稼げるから!」

「でも、あなたにもしものことがあったら……」

「平気だってば!」

「……わかった。それなら、まずは私の知り合いに話をつけてあげる。だけど、絶対に無茶はしないでちょうだい。危ないことはしてはいけないわ。いい?」

「うん!」

 こうして、ノノンは働きに出ることになった。
 もちろん母親も、夫の看病をしつつ働く。
 父親も、右足と左手がない体で、できることを頑張っていた。

 そして、しばらくは生活費と医療費を捻出することができた。
 しかし、それも長くは続かない。
 どうしても足りない分を借金という形で借りることになったのだ。

 利息が少しずつ膨らんでいき、遂には利子を払うだけで精一杯になってしまった。
 やがて、母親の体調までもが悪化していく。

「ごめんなさい……。もう限界みたい……」

「すまん。俺が不甲斐ないばっかりに……」

「お母さん、お父さん……。わたし、どうすれば……」

 母親は過労による体調不良、父親は右足と左手がない。
 残ったのは多額の借金だけ。

 そして、タカシが王都を訪問している現在に至る。

 ノノンは途方に暮れ、街を当てもなく歩いた。
 すると、そこへ1人の男が近づいてきた。
 腕に闇のように黒い蛇の入れ墨を彫っている男だ。
 男はニヤリと笑うと、こう言った。

「嬢ちゃん、困っているみたいだな?」

「…………」

 明らかに怪しく、コワモテの男である。
 ノノンは警戒した。

「おいおい、そんなに睨むなって。俺は別に怪しい者じゃねぇ。お前さんたちを助けてやろうと思って来たんだよ」

「助ける……? どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味さ。金を貸してやる。借金の返済に困っているんだろ?」

「…………」

 ノノンたち一家は、確かに借金をしている。
 だが、それは王都に店を構える真っ当な商人からのものだ。
 闇金の類ではない。
 こんな怪しげな男が事情を知っている道理はない。

「その様子だと、信用できないって感じか……。まぁ、仕方ないか」

「……」

「じゃあ、これはお近づきのプレゼントだ。貸すんじゃなくて、くれてやる」

 そう言って、男は金貨の入った袋を渡してきた。

「えっ!?」

「これだけあれば、しばらくの生活費ぐらいにはなるだろ?」

「あ、ありがとうございます!」

 警戒していた怪しげな男から、無償のプレゼントをもらった。
 それも、ノノンが稼ごうとすれば1か月以上は掛かるほどの大金だ。
 疑っていた申し訳無さも相まって、彼女は男への警戒心を完全に解いた。

 それがマズかった。
 男は闇ギルド『闇蛇団』のメンバー。
 警戒する少女を騙すことはお手の物だ。

「いや、そこまでありがたがられるほどの額じゃねえよ。お前さんたちの借金はそれだけじゃ返せねえだろ? あくまで生活費の足しにできるっていう程度だ」

「そ、それはそうですけど……」

「そこで提案がある」

「何でしょうか?」

「いい儲け話があるんだよ。その金を元手にして、稼ぐ方法がな」

「えっと……」

「うまくいけば、借金を完済できるどころか、さらに大金が手に入る」

「ほ、本当ですか!? でも、危ないんじゃ……」

 唐突に湧いたうまい話に、ノノンに再び警戒心が生まれる。

「問題ない。ただのギャンブルだからな。最悪でも、元手を失うだけだ。死んだり怪我をしたりすることは無い」

「……」

「悪い話じゃねえと思うぜ? その元手も、今俺がただであげたやつだからな。負けてもお嬢ちゃんが失うことは何もない」

「わ、わかりました! よろしくお願いします!」

「よし、任せな。案内しよう」

 闇ギルド『闇蛇団』のメンバーにとって、少女はカモだ。
 うまく事を運んだときの儲けに比べれば、今渡した程度の金は端金である。

(くくく……。楽だねえ、ガキをたぶらかすのは……)

 男はほくそ笑みながら、少女を闇カジノへと連れて行ったのだった。

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