【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

617話 とある少女の鉱山送り

 タカシが採掘場周辺の視察を行った、数日後のこと。

「お腹減った……ご飯……」

 ボサボサの髪の少女が、フラフラとした足取りでラーグの街を歩いていた。
 その顔はげっそりとしており、目の下にはクマができており、非常に不健康な印象を受ける。
 少女の名はケフィ。
 Eランクの冒険者パーティー『灰狼』の元メンバーである。
 諸事情によりパーティが解散し、今は食い詰めている。

「パン……ご飯……お肉ぅ……」

 彼女は今にも倒れてしまいそうな様子だが、それでも一歩ずつ前へと進んでいた。

「この街に来れば、きっと食べ物があるはず……。お腹いっぱい食べれる……ふへぇ」

 彼女はよだれを垂らしながら呟く。
 風の噂で、ハイブリッジ騎士爵領には食料がたくさんあると聞いたのだ。
 実際、領の端あたりにある村でも、特に困窮している様子はなかった。
 いくらかの食料を恵んでもらうことができ、そのおかげでこの街までたどり着けたのである。

「ぐぎゅるるるるるるるるるるるる」

 彼女のお腹が鳴った。
 そして、彼女は仰向けに倒れ込んでしまう。

「お腹が空きすぎて、もう動けない……。このまま死んじゃうのかなぁ?」

 空を見上げながら、ケフィは弱々しく言う。
 だが、そんな彼女に声をかけてくる人物がいた。

「おい、大丈夫か?」

「え?」

 振り返ると、そこには男が立っていた。
 料理人だろうか。
 コック帽をかぶっている。
 年齢は40代くらいであろう。

「嬢ちゃん、腹が減ってるのか? なら、うちの店に来い」

 男はそう言って、手を差し伸べてきた。
 少女が行き倒れていたのは、ちょうど料理屋の前だったようだ。
 店の看板に『ラビット亭』と書かれているのが見える。

「あ、ありがとうございます」

 ケフィは男の手を取り、よろめきながらも立ち上がった。

「いいってことさ。さ、入りな」

 男の案内で、ケフィは店の中に入った。
 店内には何人か客がいる。
 みな、テーブル席に座っており、食事を楽しんでいるようだった。

「いらっしゃいませー!」

 店員らしき女性が出迎えてくれた。
 年齢はこの男と同じか、少し若いくらいだろうか。

「おう、ナーティア。悪いが、この子のために何か作ってくれないか? 腹ペコみたいだ」

「わかったわ、ダリウス。すぐに用意するわね」

「あ、ありがとうございます」

 ケフィはぺこりと頭を下げる。
 そして、ダリウスに部屋の隅に案内され、椅子に腰かけた。
 それから数分後。

「お待たせ! 食べやすそうな料理を用意してみたの」

 女性店員が、注文した品を持ってきてくれる。
 皿の上に載っていたのは、パンとスープだった。

「どうぞ召し上がれ」

「いただきます」

 ケフィはスプーンを手に取り、食事を食べ始める。

「美味しいです!」

「それはよかったわ」

 ナーティアは嬉しそうな笑みを浮かべている。
 そして、彼女は少女の対応をダリウスに任せ、厨房へと下がっていった。
 食事がひと段落した頃、ダリウスはケフィに切り出した。

「ところで、嬢ちゃんはどうしてこんなところにいたんだい? 見たところ、出稼ぎっていうわけでもなさそうだが……」

「実は私、冒険者なんですけど、パーティが解散になってしまいまして……」

「なるほど。それで腹ペコになっていたわけか」

「はい……。お恥ずかしながら……」

「ははは、気にすることはないさ。困ったときはお互い様だよ」

「あ、ありがとうございます!」

 ケフィが頭を下げる。

「でも、本当に助かりました! 命の恩人です! 何かできることがあれば、何でもしますから!」

「お礼なら、領主であるタカシ君……いや、ハイブリッジ騎士爵に言うべきだろうな。こうして安定した量の食料があるのは、彼のおかげだ」

「ハイブリッジ騎士爵様ですか。噂は聞いています。いろいろな施策を行っているとか」

 食い詰めていたケフィにとっては、食料の情報が第一だ。
 しかし、その情報を集めるにあたって、自然と他の施策や当主のことも耳に入ってくる。

「ああ、そうだ。……ところで、嬢ちゃん。今後の予定はあるのかい?」

「いえ……。とりあえず、この街で仕事を見つけようと思っていたのですが……」

「そうか。なら、いいところがあるぞ」

「本当ですか!?」

 ケフィの顔がパッと明るくなった。

「ああ。この街から少し行ったところに、鉱山があるんだ。ハイブリッジ騎士爵は、そこの採掘場の開発を進めているらしい」

「こ、鉱山ですか……」

 ケフィが表情を曇らせる。
 鉱山における労働環境は、一般的に劣悪だと言われている。
 安い賃金に、崩落の危険がある危険な場所での作業。
 風通しが悪く、夏は暑く冬は寒い。
 粉塵により肺の病を患うこともあると聞く。
 そんな過酷な現場での労働を想像して、ケフィは身震いをした。
 それに……。

「わ、私はそれほど力がありませんし、体力もないんですよ……」

「そうなのか。でも大丈夫だと思うぞ」

「え?」

「嬢ちゃんにできることをすればいいんだよ。できることはいくらでもある」

 若い女性が、採掘場で行う仕事……。
 それは容易に想像できた。
 力仕事で使い潰されるのはまだマシかもしれない。
 採掘場で働く男たちは、荒々しい者が多い。
 犯罪奴隷や、普通の職場では働けないような訳ありの男も多いという。

 ごくり。
 ケフィは唾を飲み込んだ。

「ど、どんなことをさせられるんでしょうか?」

「それは……」

 ダリウスが口を開いたときだった。
 バーン!
 ラビット亭のドアが勢いよく開け放たれる。
 そこから入ってきたのは、武装したひとりの女性だった。
 後方には、数人の男性兵士が待機している。

「失礼する! 治安維持部隊隊長のナオンという者だ。この店に、浮浪者が入ったとの情報を得た。詳しく話を聞かせてもらいたい!」

 彼女はそう言うなり、店の中を見回し始めた。
 ケフィはビクッとして、視線から逃れるようにダリウスの後ろに隠れる。
 そして、すがるように彼の服を掴んだ。

 治安維持部隊という組織の目的は知らないが、身なりの汚い自分はきっとろくな扱いを受けないだろう。
 優しいこの店員なら、きっと匿ってくれるはずだ。
 彼女はそう思っていたが……。

「ナオン殿、こちらの嬢ちゃんのことかな?」

 ダリウスがそう答えた。

「なっ!?」

 ケフィが目を大きく見開く。
 なぜ、助けてくれないのか?
 ダリウスの服を掴む手に、無意識に力がこもった。

「ふむ。確かに聞いていた風貌と一致するな」

 ナオンと名乗った女性は、ケフィの方へと近づいてくる。

「よし、お前を連行させてもらう。詳しい話は詰所で聞こう」

「ひぃ!」

 ケフィは悲鳴を上げ、逃げ出そうとする。
 しかし、すぐにナオンに捕まってしまった。

「なあに。悪いようにはしないさ。むしろ、助けてやろうという話だ」

「え?」

「この領は人手不足だからな。特に今は、採掘場での働き手を募集しているんだ。お前みたいな若い女がいれば、連中も大喜びするだろう。可愛がってもらえるぞ?」

 ナオンがニヤリと笑う。
 ケフィは自分の未来を想像して、身震いした。

「いやぁー! 離してください! 誰か、助けてええぇ!!」

 ラビット亭に、無力な少女の悲鳴が響き渡ったのだった。

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