【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

610話 アランの謝罪

 翌日になった。

「今日は……。西の森の奥地にある採掘場を視察する日か」

 この半年ほど、俺はハイブリッジ騎士爵領の発展のために奔走してきた。
 農業改革、冒険者や衛兵の戦力の底上げ、治療回り、西の森の開発、その奥地にある採掘場の整備などなど……。
 少し前は農業改革に力を入れていたが、それは軌道に乗ってきた。
 冒険者や衛兵の戦力の底上げと治療回りは、継続的に行っている。

 内政として次に注力すべきは、西の森の開発と、その奥地にある採掘場の整備だろう。
 そろそろ結婚式や叙爵式も控えているので、それらの続きは配下の者に任せることになりそうだ。
 とりあえず、今のうちに見れるところは見ておくつもりである。

「出発予定時間まで、まだ時間があるな。……ん?」

 ふと屋敷の正門を見ると、門番をしている二人の警備兵の傍で、誰かが土下座していた。

「昨日のアランじゃないか。また来てたのか……」

 俺は正門の方へ歩いていく。
 足音を察知したのかピクリと反応したが、顔は地面につけたままだ。

「おい、アラン。またお前か。土下座なんぞしても意味がないぞ」

 俺はアランに声を掛ける。

「うぐっ! ……ハ、ハイブリッジ騎士爵様! ……いや、我が神よ! どうかお許しを!!」

 アランは一瞬だけ顔を上げたが、すぐに地面に戻した。
 そして、再び土下座の体勢に戻る。
 俺が神……?
 何を言っているんだ。
 首を傾げているところ、警備兵の2人が口を開いた。

「アラン君といったか。ずっと屋敷の前に居られると迷惑なんだ」

「そうそう。タカシさんが困っているよ」

 ネスターとシェリーだ。
 ここ最近のシフトでは、今の時間帯はこの2人が担当している。

「そこを何とか! 俺は心を入れ替え、真面目に働くことを誓います!」

「そう言われてもなぁ……」

「ねぇ?」

 ネスターとシェリーは困惑しているようだ。

「あのな、アラン。俺は別に怒ってないぞ」

「えっ!? そ、そんなはずは……。あれほどのことをしちまったのに……」

 確かに、アランは初対面の俺に対し、頭から水を掛けるという蛮行を働いた。
 その直前には、善意で提供した酒瓶を叩き割られている。
 あれはもったいなかった。
 だが、俺はそんなことで怒るほど心の狭い人間ではないのだ。
 ……正直なところはムッとしていたが、現場にいたネリーやクリスティの忠義度稼ぎになるかと思い、頑張ってガマンしたのである。

「本当に怒っていないとも。パーティメンバーの2人からは聞いていないのか?」

 アランの仲間2人も、当初は土下座して謝ってきた。
 しかしその場で許しを与えたのである。
 その時のアランは極度の疲労で意識が混濁していた。

「いえ。確かにあいつらもそんなことを言っていましたが……。『ハイブリッジ騎士爵様が許してくれた』『寛大な御方だ』とか……」

「なんだ、聞いているんじゃないか。じゃあ何で俺が怒ったと思っているんだよ?」

「あ、あれほどの蛮行を働いておきながら、あっさりと許す御方がいるとは到底信じられず……。ほ、本当に許していただけるので……?」

「最初からそう言っている。昨日も、『土下座なんてする意味はない』と伝えてやっただろう? 俺は些細なことを根に持つタイプではないんだ」

 俺の言葉を聞いたアランは、ゆっくりと顔を上げる。
 目には涙を浮かべていた。

「あ、ありがとうございます!!」

「だから、もう土下座なんぞしなくていい。ただし、今後は自分よりも格下と思った奴にも、決して舐めた態度を取るなよ。ハイブリッジ騎士爵領の発展のため、これから一緒に頑張ろう」

「はい!! 分かりました! 二度とあんな真似は致しません! 一生懸命働きます!」

 アランは感極まっているようだ。
 忠義度は……。
 40手前ぐらいか。

 加護(小)を付与するには至らない。
 しかし、彼と会ってから1週間ほどしか経っていないことを考えると、歴代の中でもトップクラスの速さで忠義度が上がっている。
 この様子だと、近いうちに加護(小)の条件を満たしそうだな。
 Dランク冒険者なので雪月花やトミーよりも能力は少し落ちるのだが、そこは今後の頑張り次第で挽回もできるだろう。

「さて……。そう言えば、今日は西の森の奥地にある採掘場の視察を行うんだ。アランも付いてくるか?」

「え……?」

「予定が入っているのなら、無理にとは言わないが」

「い、いえ! 是非ご一緒させて下さい! 働かせてください!」

 アランは急に元気になった。
 そして、俺に尊敬の眼差しを向ける。

「分かった。あと1時間ほどで出発する予定なんだ。その間にパーティメンバーを誘ってくるといい。もちろん、アラン1人でも構わないぞ」

「分かりました! では失礼します!!」

 アランは一礼すると、正門を出ていった。
 俺はそれを見送り、屋敷内へと引き返す。
 そのとき、背後から声が聞こえた。

「……なんか、すごいね」

「ああ。やはりタカシさんは、とんでもない御方だ。それに相応しい配下になれるよう、俺たちも頑張らないとな」

「ええ。キリヤ君、ヴィルナちゃん、ヒナちゃんは、ここ半年でメキメキと実力を上げているものね」

「それに、数日前からはクリスティ君もだ。戦闘能力だけなら、警備兵の中でも俺たちが弱い部類になりつつある……」

 声の主は、シェリーとネスターだ。
 この2人の忠義度も、長い目で見れば微増傾向だ。
 ミッションを達成した今、彼らにも加護(微)が付与されている。
 しかし、加護(小)を付与されているキリヤやヴィルナたちに比べれば、その恩恵は限定的だ。
 彼らが焦るのも無理はないかもしれない。

 ま、ネスターとシェリーは真面目に働いてくれているし、今のままでも問題はないのだが。
 機会があれば、また忠義度稼ぎを狙ってみるか。
 俺はそんなことを考えつつ、屋敷内に戻ったのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品