【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

491話 【パリン視点】ラーグの街へ

 俺の名はパリン。
 しがない村人だ。
 最愛の娘リンと離れ、浮かない日々を過ごしていた。

「おい、早く馬車に乗り込め」

 そこにやって来たのが、新興貴族のハイブリッジ騎士爵だ。
 俺と妻の身柄を貰い受けると主張している。
 彼の顔は知らなかったが、名前はよく聞く。
 攻撃魔法、治療魔法、剣術などすべてにおいて高いレベルにある。
 さらに奥方殿やパーティメンバー、配下の者たちにも強者が揃っているらしい。

 彼はここから南西の方角にあるラーグの街を中心とした領地を持つ。
 しかし、ここは子爵領地だ。
 この村に対してどうこうする権限は彼にはないはず。
 俺はそう思ったのだが、何やら子爵や村長にも根回し済みらしい。
 俺と妻は必死に逃げようとしたものの、彼や同行の兵士の精強さに為す術なく捕らえられてしまった。

「タカシ様がこう仰られているのです。早く乗り込みなさい」

 彼の配下らしい女性兵士がそう言う。
 彼女はずいぶんと小柄だ。
 しかし、その外見からは想像もできないほどの腕力がある。
 俺は掴まれている腕を必死に振りほどこうとするが、ビクともしない。
 強引に馬車に押し込まれてしまった。

「くっ……」

「あなた……」

 妻も俺と同様、馬車に押し込まれる。
 周りには複数の兵士が乗り込んでおり、もはや脱出は不可能だ。
 ただでさえ娘と離れ離れとなり陰鬱としていたのに、追い打ちをかけられたような状態だ。
 俺はもう諦めるしかなかった。

「へっ。ハイブリッジ騎士爵サマよぉ。さすがに強引過ぎたんじゃねえか?」

「あわわ。キリヤ君、騎士爵様のご意向に指図はやめてください!」

 男性兵士の言葉に、兎獣人の女性兵士が慌てた様子でそう言う。
 確かに、貴族の意向に口出しするとは相当な世間知らずだ。
 よほどムチャクチャな貴族でない限り打ち首などはさすがにないが、職業的な意味での首は普通に有り得るだろう。

「ん? …………確かに、そうだったかもしれないな。万が一にも逃さないよう、少し焦り気味だったようだ。街に帰ってからしっかりと詳細の話をしておくことにする」

 ハイブリッジ騎士爵がそう答える。
 部下からの言葉を素直に受け取っている。
 成り上がりの新興貴族として傲慢な印象を持っていたが……。
 思ったよりも柔軟な態度だ。
 俺は彼らの会話を盗み聞きしつつ、馬車に揺られていった。

 そして、大きな街に到着した。
 周りの兵士たちの様子から察するに、ここがラーグの街だろう。
 話には聞いたことがあるが、実際に訪れるのはもちろん始めてだ。
 なかなか立派な街である。
 リンがいなくなるまでのあの村の生活も決して悪いものではなかったが……。
 こういう発展した街で暮らせていれば、より楽しい日々になっていたかもしれない。

「ふふん。タカシ、屋敷まで直行でいいわね?」

「ああ。よろしく頼む、ユナ」

 御者台に座っていた女性兵士の言葉に、ハイブリッジ騎士爵がそう答える。
 女性側の態度はかなり馴れ馴れしい。
 配下の1人と思っていたが、違うのだろうか?

 少しして、大きな屋敷に到着した。
 中央に立派な本館、そして向かって右側には真新しい別館、向かって左にはやや粗雑なつくりの別館がある。

「さあ、降りなさい!」

「わかってる。ここまで来て、今さら抵抗はしないさ」

 豪腕の女性兵士に促され、俺と妻はおとなしく馬車から降りる。
 精強な複数の兵士に囲まれた状況から逃げ切るのは、現実的ではない。
 彼らが俺と妻を拐った理由はわからない。
 せめて、平和的な理由であることを祈ろう。

「こっちだ。パリン。付いてこい」

 ハイブリッジ騎士爵に先導され、応接室のような場所に通された。
 彼の配下の兵士も数人付いてきている。
 きれいに掃除された部屋だ。

「ふう。馬車に揺られていただけとはいえ、旅は疲れるものだな。よっこらしょっと」

 ハイブリッジ騎士爵がソファにドカッと腰を下ろす。

「そうですね。私も少し疲れました」

「ふふん。ゆっくりしたいわね。でも、最低限の用件は済ませておかないと」

 彼の配下の女性兵士2人が、彼の両脇に腰を下ろす。
 貴族である彼と対等に座り込むとは……。
 配下と思っていたが、実は違うのだろうか?
 そういえば、ハイブリッジ騎士爵は並外れた女好きだという噂を聞いたことがある。
 もしかすると奥方殿か、妾なのかもしれないな。

「ふっ。俺も疲れたぜ。座らせてもらうことにしよう」

 続いて男性兵士が腰を下ろそうとする。

「あわわ。キリヤ君、私たちの仕事は警護なんだから、座るのはマズイですよ!」

 兎獣人の女性兵士が慌てた様子でそれを止める。

「いや、構わないさ。キリヤもヴィルナも座ってくれ。長旅で疲れただろう? 座ったままでも警護はできるしな」

 ハイブリッジ騎士爵がそう許可を出す。
 その言葉を受け、男性兵士は遠慮なく座り、女性兵士はおずおずと座り込んだ。
 俺と妻は、その様子を警戒しつつ見ている。
 こんなところで、俺や妻に何をしようというのか。
 俺が警戒心をさらに高めているとき――

「パリンとその妻よ。いつまで立っている? お前たちも座るといい」

 俺は妻と顔を見合わせる。
 そしてハイブリッジ騎士爵の方に顔を向け、口を開く。

「座ってもいいのか? ……いや、いいのですか?」

 俺はそう問う。
 俺と妻を問答無用で拐ってきた彼だが、配下の者たちには優しいような印象を受ける。
 ここは口調を敬語に切り替えて、様子を見ることにしよう。

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