【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

413話 とある少女の過去

 とある時、とある孤島にて。

「ママ。お腹すいたー」

 少女がそう声を上げる。

「ちょっと待っててね。すぐに用意するわ」

 母親がそう返答する。
 その少女は、父親を知らなかった。
 母娘2人で、緑豊かな孤島で静かに暮らしていた。
 質素な生活であったが、その生活しか知らぬ少女に不満などない。
 母親のほうも、愛する我が子とともに生活ができて満足していた。

「はい。イノシシの丸焼きよ。たんと召し上がれ」

「やったー! 私、イノシシ大好き! はぐはぐ」

 少女が豪快に口を開け、食べ進めていく。
 母親がそれを幸せそうに見つめる。
 彼女ら母親として、娘の成長を噛み締めていた。
 そこには、確かな幸せがある。

 ただ、母親にとって2つだけ懸念事項はあった。

 1つは、元の場所に残してきた他の子や夫の存在。
 あのときは、自分1人で逃げるので精一杯だった。
 なにせ、身重の状態だったのだから。

 この孤島に逃げ延び、何とか1人で出産できた。
 そして、その子はすくすくと成長した。
 まだまだ成長の途中ではあるが、最低限自分のことは自分でできる年齢だ。

 こうなってくると、あの場所に戻って現況を確認したいという思いが湧いてくる。
 他の子や夫も、無事に生きていてはくれないだろうか。

 そして、もう1つの懸念事項は……。

「A4BUgfUx1kG4……?」
 
「gN3YcyX0q1V7……」

 母娘の平和な生活を遠巻きに眺めている、謎の生命体たちだ。
 体のサイズは母娘よりもひと回り以上小さい。
 その上、どうやらこちらに害意もないようだ。

 母親がいれば、あのような矮小な存在に万が一にも不覚を取ることはない。
 しかし、娘1人ならば、その万が一がある。
 母親の旅立ちを押し留めている理由の1つは、この謎の生命体の存在であった。

「どう? うまく飛べそう?」

「うーん。まだ難しいかなー」

 母親の問いに、少女がそう答える。
 彼女たちは、飛行能力を持つ種族だ。
 とはいえ、生まれながらに飛べるわけではない。
 成長に連れて少しずつ能力が成長し、親による指導を経て飛行能力を得るのである。

 少女に才能がないわけではなかったが、いかんせんまだ体が成長しきっていない。
 やや食料が不足気味なのも1つの要因か。
 少女の体は、同年代の者と比べて少し成長が遅かった。

「(この娘が飛べるようになれば、いっしょにあの場所に戻ってもいいのだけど……。それはそれで危険かしら)」

 母親がこの孤島に移住してきたのは、かつての住まいに脅威が発生したからだ。
 あれからかなりの時が経過した。
 おそらく脅威は去っているだろうが、それは推測に過ぎない。
 万が一に備えるなら、少女は連れて行くべきではない。
 ここはここで安全と言い切れないのがもどかしいところだ。


「QgnVcdyP6vAf……」

 ある日、謎の生命体が母娘のすぐ近くにまでやってきた。
 母親にとっては、大した脅威ではない。
 適当に追い払ってやろうかと思ったのだがーー。

「wv4Jqf7DL6th……!」

 何やら必死な様子だ。
 害意は感じない。
 むしろ、怯えと尊敬の念が伝わってくる。

 よく見ると、やつらの傍らにはイノシシや木の実がたくさん用意されている。

「ふむ? これを私たちにくれるのか?」

「qsURxpqdE2wy……」

 言葉は通じない。
 しかし、身振りや雰囲気で伝わるものはある。

「そうか。ありがたくいただこう」

「4Obd……!」

 謎の生命体は、何やら感激したような様子で去っていった。
 懸念していたやつらが友好的であるのなら、娘1人を残してしばしこの地を離れるのも悪くないかもしれない。

 母親はそう考えた。
 そしてさらなる時が流れた、ある日。

「娘よ。ママは、しばらく旅に出ます」

「えっ? どこに行くの? 私も行く!」

「遠いところよ。それに、危険かもしれない。まだ満足に飛べないあなたを連れて行くことはできないわ」

 母親の目的地は、この孤島からずいぶんと遠いところにある。
 海を1つ超えただけではたどり着かない。

「むー。わかった。お留守番してる」

「いい子ね。もしかしたら、パパやお兄ちゃんとも再会できるかもしれないわ。きっと連れて来るからね」

 母親はそう言って、娘を残して旅立っていった。
 行き先はあえて伝えていない。
 下手に追ってこられると、危険だからだ。

 残された娘も、そこらのイノシシ程度には負けないぐらいには強い。
 懸念していた謎の生命体とも友好的な関係を築けている。
 大きな問題はないだろう。

 母親はそんなことを考えていた。
 そして、それは娘も同様であった。
 1人で適当に遊んで暮らしていれば、そのうちひょっこり帰ってくるだろうと信じていた。

 だが、現実は残酷だ。

 1年が過ぎーー。

「ママ、まだかなあ。あいつらが何だか前よりもよくここに来るようになったから、暇つぶしにはなってるけど……」

 3年が過ぎーー。

「体が大きくなったよ。ブレスも吐けるようになったし。ママ、びっくりするだろうなあ。わくわく」

 10年が過ぎーー。

「ママ、遅いなあ……。あいつらも、最近は近寄ってこなくなったし。広い部屋を用意してくれたのは嬉しいけど……」

 30年が過ぎーー。

「うう……。1人はさみしい……。ママは帰ってこないし、あいつらもずっと顔を出してくれないし……。そうだ、ママが戻ってきたときに褒めてもらえるよう、飛ぶ練習をちゃんとしておこっと。狭いからちょっと練習しずらいけど……」

 100年が過ぎー。

「ママ……。もう飛べるようになったんだよ? 見てほしいな……」

 そして、現在に至るまで、ついに母親は戻ってこなかった。
 彼女は歴史上まれに見る温厚な竜であったが、孤独により精神に限界が訪れようとしていた。

「ママーッ! 帰ってきてよーー!」

 彼女の悲痛な叫びとともに、高熱のブレスが吐き出される。
 ダンジョン内の壁に阻まれ、人里に害を及ぼすことはまだない。
 しかし、成長した彼女の力であればいずれ封印が解かれてしまうだろう。
 寂しさが限界に達した彼女がそのまま孤島を飛び出す可能性も高い。
 
 彼女ーーファイアードラゴンが暴れる轟音は、海を隔てて遠く離れたルクアージュにまで響いていた。
 それが、この状況に変化をもたらすことになった。
 ファイアードラゴンの封印が解けかかっていると認識したラスターレイン伯爵家は、ダンジョンの最奥へ赴くことにしたのである。

 そして、タカシたち第六隊が最奥に到着した頃、ファイアードラゴンはうたた寝をしているところだった。
 さみしさにより常時錯乱気味であり、うたた寝をしているところにやってきた謎の生命体ーータカシたち人間に対して、ブレスを放ったのである。

 このブレスによりマリアは一時的に死亡したわけだが、ファイアードラゴンにとって特別な悪意があったわけではない。
 ただ、自分の住処に迷い込んできた虫を払っただけの感覚である。

 想定外だったのは、その虫が強力な戦闘能力を持っていたことだ。
 絶対強者であるはずの竜種が、ただの人間に追い詰められていく。
 彼女が箱入り娘で、竜種にしては温厚かつ最弱に近かったこともあるが。

 タカシたちの猛攻を受け、ファイアードラゴンは半泣きである。
 そんな彼女が今考えていることはただ1つ。
 最愛の母親に、ひと目会いたいということであった。

「どこへ行ったの!? ママーッ!!!」

 ファイアードラゴンの悲鳴がダンジョン内にこだましたーー。

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