【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

282話 タカシvsナディア

 西の森の奥地で、盗掘団の捕縛作戦を行っている。
メインの拠点でブギー頭領とジョー副頭領を撃破した。
今は第ニの拠点で、幹部クラスの男女や下っ端戦闘員たちと対峙しているところだ。

 幹部クラスの男女は、強者の風格がある。
男はパルムス。
女はナディアだ。
それに、男が使役しているらしき大型の犬が1匹。
名をリッキーという。
さらに、下っ端戦闘員たちも数は多いので無視はできない。

「よし。俺は、あのナディアという女を相手取る!」
「わかった。あのパルムスという男と犬は、ボクとミティで戦うよ」
「がんばりましょう。むんっ!」

 俺、アイリス、ミティがそう言う。

「ガハハ! では、我はそこらの下っ端どもを蹴散らそう!」
「俺もそうするよ。タカシ君たちは、あの2人に集中してくれ。なかなかの強者だと思う」

 ギルバートとマクセルがそう言う。

「わかった。各自、健闘を祈る!」

 俺の言葉を皮切りに、俺たちは少し距離を取る。
相手に囲まれないように、背中を預けて戦うのもありだったが。
俺たちの技には、高威力のものもある。
近くで戦って同士討ちをするのは避けたいという判断だ。

 俺はナディアと対峙する。

「さて。お前の相手は俺だ。確か、ナディアと呼ばれていたか」
「ええ。まあ仮の名前だけどね。本当の名前は忘れてしまったから」

 ナディアがそう言う。
記憶喪失か。
訳アリのようだな。

 年齢は40代くらいか。
兎耳が生えている。
モニカやストラスと同じく、兎獣人だろう。
仮面で顔を覆っているので、全体の顔立ちはわからない。

「女だろうと、犯罪者相手に容赦はせんぞ」
「ブギー頭領は、私たちの命の恩人。彼の夢を邪魔するのなら、私も全力で相手になるよ」

 俺とナディアの戦闘が始まる。

「まずはくらえ! ……エアバースト!」

 風魔法レベル1のエアバーストだ。
空気の塊を発射する。

 殺傷能力は低いので、対人戦でも気軽に使いやすい魔法だ。
さらに、目に見えない攻撃をどう対処するかという点で、相手の実力を測ることもできる。

「ふんっ。甘いよ!」

 ナディアが軽い身のこなしで回避する。
やはり兎獣人だけあって、脚力に優れているようだ。

 そのままナディアが俺に接近してくる。

「はああ……! 旋風脚!」

 ナディアの強烈な回し蹴りだ。
俺は何とか受け止める。

「くっ。なかなかやるな」
「君もね。私の足技を受け止めるなんてね。でも、私は足技だけじゃないよ」

 ナディアがそう言う。
何かする気か……?

 彼女の足は俺が抑えている。
何かしてくるとすれば、手か。
俺は、彼女の手に注意を払う。

 すうっ。
ナディアが大きく息を吸う。

「曲技、火吹男!」

 ナディアが口から火を吹いてきた。

「うっ。男じゃなくて女じゃ……」

 いや、こんなツッコミをしている場合じゃない。
冷静に見れば、大したことのない火力だ。
しかし俺はナディアの思わぬ攻撃に、ひるんでしまった。

「せいっ!」
「ぐはっ!」

 俺のスキを突いて、ナディアが蹴りを叩き込んでくる。
火にひるみ、やや防御がおろそかになっているところを狙われた。
体勢を立て直す必要がある。

「まだまだ行くよ! 曲技、湯けむり殺人事件!」

 ナディアが足をバタつかせ、砂埃を発生させる。
脚力の活かし方には、こんなものもあるのか。
いや、感心している場合じゃない。

「何が湯けむりだ。砂埃じゃないか……」

 砂埃でナディアの姿を見失ってしまった。
どこだ……?

「はあっ!」
「くっ!」

 俺はナディアの蹴りを間一髪回避する。
俺は視力強化レベル1と気配察知レベル2を取得しているからな。
多少の砂埃で条件が悪くなろうとも、相手の攻撃を察知することは可能だ。

「へえ。なかなかやるねえ」
「そりゃどうも。ギルド貢献値5500万ガルは伊達じゃないんだ」

 俺はそう言う。
これで戦意を失ってくれたりはしないかな。

「なるほど。長期戦は不利かもしれない。私の奥の手で倒してあげよう」

 ナディアがそう言って、闘気を開放する。
彼女が近くの木に向かっていく。

「行くよ! 曲技、木にノボロー!」

 ナディア足だけで木を軽快に登っていく。
そのまま頂上に達する。

「曲技! 打ち上げ花火!」

 木の頂上で、ナディアが大きくジャンプした。

「はああ……。旋風カカト落とし!」

 ナディアのカカト落としだ。

 なるほど。
落下の勢いを利用して、技の威力を上げようという狙いか。
だが。

「空中では身動きが取れんだろう!? ……凍てつけ! アイスボール!」

 正面から勝負に付き合ってやる理由もない。
魔法で狙い撃ちだ。
とはいえ、火魔法は殺傷能力が高すぎる。
ここは、新しく覚えた水魔法レベル2のアイスボールで攻撃だ。

「身動きが取れない? そうでもないよ。青空歩行!」

 ナディアが空中でもう1度ジャンプした。

「なにっ! バ、バカな!」

 ナディアの思わぬ挙動に、俺は動揺する。
空中でジャンプだと。
モニカ以外にもできる者がいたとは。

 ナディアはアイスボールをかわし、再び俺へカカト落としを繰り出してくる。

「ぐっ!」

 俺はそれを間一髪ガードする。
少しダメージを負ったが、何とか耐えきることができた。

「本当にやるねえ。……おっと」

 俺のアイスボールが、ナディアの顔をかすめていたようだ。
彼女の仮面の留め具が壊れ、仮面が落ちる。
彼女の顔立ちがあらわになる。

「えっ。そ、その顔は……?」

 ある人物に似ている顔立ちだ。
俺は動揺し、思考がしばらく停止する。
そうこうしている間に。

「そこまでだよ! 加勢にきたよ! ナディアさん、パルムスさん!」

 乱入者だ。
乱入者がそう言う。

 俺はその言葉に思考を取り戻し、みんなの様子を確認する。
ミティ、アイリス、パルムス、リッキーは、まだ交戦中のようだ。
ややミティとアイリスが優勢といったところか。

 マクセルとギルバートは、あらかたの下っ端戦闘員を片付け終えている。
あと一握りを蹴散らせば、俺やミティに加勢してくれるだろう。

 そして、乱入者だが。

「お前は……。”白銀の剣士”ソフィア! 盗掘団と顔なじみだとはな! 堕ちるところまで堕ちたか!」

 俺はそう言う。

「何も知らないくせに好き勝手なことを……。もういい、まずは無力化させてもらう。みんなが消耗している今なら……」
「ふん……! 消耗しているから何だ。街での模擬試合を忘れたのか? お前程度では、俺に勝つことはできんぞ!」

 ラーグの街での模擬試合では、俺はソフィアを軽く撃破した。
彼女は何やら奥の手がありそうではあったが、奥の手があるのはこっちも同じだ。
俺の奥の手……獄炎斬、百本桜、フレアドライブあたりを使えば並大抵のやつは相手にもならない。
俺の勝ちは揺るがないだろう。

 だがーー。

「「「「……疲れた者たちに、一時の安らぎを。ララバイ」」」」

 ソフィアたち”光の乙女騎士団”の4人がそう言う。
彼女たちが、何やら合同魔法を発動したようだ。

 唐突に、強力な眠気が俺を襲ってきた。

「う……。なんだ、これ……?」

 眠い。
眠すぎる。
これはいったい……?

「「ZZZ……」」

 ミティとギルバートは、あっさりと眠ってしまっている。
マズイぞ。
戦闘能力ではこちらに分があると思って、油断していた。
このような搦め手があったとは。

「どうやら睡眠魔法のようだね……。ここまでの使い手がいるなんて……。ZZZ……」

 マクセルは少し抗っていたものの、眠りに落ちた。
ついでに、ナディアやパルムスも眠っている。
どうやら、範囲内をターゲットにした魔法のようだ。

 無事なのは、術者である”光の乙女騎士団”の4人だけか。
俺とアイリスも、かろうじてまだ起きてはいるが。
眠い……。

「くっ。タカシ、しっかりして。ボクたちが眠ったら、全滅だよ」

 アイリスがそう言う。
彼女にはあまり効いていないのか……?
いや、彼女の口元に血が流れている。
口元を噛んで眠気を抑えているのか……。

「アイリッシュ、俺はもう疲れたよ……。なんだかとっても、眠いんだ……」
「ボクの名前はアイリスだよ……。寝ぼけないで……。タカシ」

 マズイぞ。
本格的に眠い。
アイリスも眠そうにしている。

 俺もアイリスのように口元を噛んで……。

「次でとどめだよ」

 ソフィアがそう言う。
彼女たち4人が、詠唱を始める。

「「「「……疲れた者たちに、一時の安らぎを。ララバイ」」」」

 ソフィアたちから、睡眠魔法の追撃がされた。

「ア、アイリス……。ZZZ……」
「タカシ……。ZZZ……」

 とうとう、俺とアイリスも眠ってしまった。
そうして、俺たち先遣隊は全滅した。

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