【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

270話 お母さんとの思い出/パパの記憶

 今から10年以上前。
ラーグの街のラビット亭にて。

 夫婦が仲良く厨房で料理をしている。
そして、それを笑顔で見ている女の子が1人。

「さあ、モニカ。今日の夕飯は、スピーディーバッファローのソテーだぞ」
「わあい! 私、お父さんの料理大好き!」

 女の子はモニカだ。
彼女がうれしそうな顔でそう言う。

「食後には、お母さんのつくったケーキもあるからね。モニカの好きなイチゴケーキをつくる予定よ」
「やったー! お母さんのケーキも大好き! 楽しみだなあ」

 今日は、モニカの誕生日だ。

 彼女の父であるダリウスと、母であるナーティア。
彼らは2人とも料理人だ。
普段は2人でラビット亭を切り盛りしている。
今日は一人娘のために店を休業し、おいしい料理を用意しているのである。

「あれ? あの調理器具はどこにしまったかな?」
「ああ。あれなら棚の上のほうにしまってある。待ってろ、台を持ってくる」

 ナーティアの問いに、ダリウスがそう答える。
彼が台を持ってこようとするが……。

「必要ないわ。……せいっ」

 ナーティアが掛け声とともに跳躍する。
彼女は兎獣人の中でも脚力に秀でているほうであった。
大きなジャンプだ。

「お母さん、すごーい!」
「おいおい。あんまり無理はするなよ。いくら元曲芸師だからといって」
「これぐらい無理でも何でもないよ。さあ、料理を続けよう」

 ナーティアは元、サーカス団の曲芸師だ。
アクロバットな動きで観客を魅了する仕事をしていた。

 このラーグの街でダリウスと知り合い、なんやかんやあって身を固める決心をした。
そしてサーカス団を抜け、料理人として転身したのである。

 ダリウスとナーティアで、モニカのために料理を進めていく。
モニカはそれを笑顔で見守る。
手伝えるところはいっしょに料理をした。
モニカは、両親が大好きであった。

 日中の料理作業に、おいしい夕飯。
そしてデザート。
その日は、モニカにとって忘れられない思い出の1つとなった。


●●●


 それから数年後。
ラーグの街の外周部にある畑にて。

 夫婦が仲良く畑仕事をしている。
そして、それを幼い兄妹が笑顔で見守っていた。

 さらに、傍らには犬が1匹。
ファイティングドッグのような獰猛な犬ではない。
温厚な犬だ。

「ふう。そろそろ休憩するか。マム」
「そうですね。あなた。お弁当を持ってきています。サムとニム、それにリックといっしょに、食べましょう」

 妻のほうがそう言う。
彼女の名前はマムだ。

 そして、夫はパームス、兄妹はサムとニム、ペットの犬はリックという名前だ。

「やったぜ。俺はおイモをたくさん食べる!」
「わ、わたしも!」
「ワンワン!」

 幼い兄妹ーーサムとニムが、そう意気込む。
犬のリックも、ご飯の時間ということを感じ取ったのか少し興奮している。

「あらあら。慌てなくても、お弁当は逃げないわよ」
「そうだぞ。ゆっくり、たくさん食べなさい」

 パームスがそう言う。
彼ら4人と1匹。
この畑から取れる野菜や果物で自給自足をしながら、余ったものを街に卸して若干の収入を得ていた。
決して裕福ではなかったものの、食べるものに困るほどではない。

「あらあら。ニム。ほっぺに食べかすが付いているわ」
「え、どこどこ?」
「そのままじっとしていて。ママが取ってあげるからね。……はい、取れた」
「うん。ありがとう、ママ」

 彼女たち一家は、そんなふうにして昼食を食べ進めていく。

「ふう。食った食った。もう少し休んだら、作業を再開するか」
「そうですね、あなた。……そういえば、このリンゴの木もずいぶんと大きく育ってきましたねえ」

 マムがそう言う。
畑の隅には、立派なリンゴの木が生えていた。
全長にして3メートル以上はある。
厳密に言えば、”地球におけるリンゴに酷似した果物が実る木”であるが。

「はやくリンゴが食べたいぜ! ニムもそうだよな?」
「う、うん。わたしもたべたい。いつごろたべられるの?」

 サムの言葉を受けて、ニムがそう言う。

「そうだなあ。数年後……ニムが10歳になる頃には、いっぱい成っているだろうな」
「えー。まださきなんだね」
「数年後かあ。俺、そんなに待てないよ」

 父パームスの言葉を受けて、ニムとサムがそう言う。
この点は、大人と子どもの時間感覚の差が出ている。
大人にとっての数年はあっという間だが、子どもにとっての数年は非常に長い。
いわゆるジャネーの法則だ。

「気持ちはわかるが、こればっかりはな」
「ちょっと待ってください。あなた。あれを」
「……ん?」

 マムがリンゴの木の上方を指差す。
パームスがそのあたりを見る。

「ああ。小さめの実がいくつか成っているな。よし、なんとか取ってやろう」
「だいじょうぶですか? あなた。ずいぶんと高いところにありますが」

 マムが心配そうにそう言う。

「問題ない。……リック!」
「ワンワン!」

 パームスが合図をしたかと思うと、犬のリックがそれに応じて動き出した。
リックが木を登っていく。
そして無事に実が成っているところまでたどり着いた。

「ワンッ!」

 リックがリンゴの実を落とす。
パームスがそれをキャッチする。

「よし、いい子だ」
「相変わらずすごいですね。リックとの意思疎通は、あなたが1番ですね」
「まあ、マムと結婚する前からいっしょにいるしな。俺の兄弟みたいなものだよ。そこらの魔物よりも断然強いし頼りになる」

 マムの言葉を受けて、パームスがそう言う。
ちなみにこの犬も、厳密に言えば”地球における犬に酷似した生物”である。
地球における犬の寿命は10年から15年ぐらいだが、この世界の犬の寿命はもう少し長い。
このリックも、まだまだ元気に生きていくだろう。
そこらの魔物よりは強いため、ペット兼番犬としてこの一家になくてはならない存在だ。

「ほら、サム、ニム。リンゴを食べてみるか? まだ酸っぱいかもしれないが」
「おう! 食べるぜ!」
「わ、わたしも!」

 サムとニムでリンゴをはんぶんこにする。
彼らがリンゴをかじる。

「酸っぺえ! でも、うまいぜ!」
「そ、そうだね。おいしい」

 やはり熟していないため、酸っぱいようだ。
だが、それでも食べられないことはない。
彼らにとっては、少し贅沢なデザートである。

 ニムは、家族みんなが大好きであった。
両親であるマムとパームス。
兄のサム。
ペットのリック。
今日のような何気ない日常は、後に彼女にとって大切なパパとの記憶となった。


●●●


 それから1年ほど後。
ラーグの街にて。
大規模な葬儀が開かれていた。

「うっ、うっ。お母さん。どうして……」
「ナーティア……。俺とモニカを残して、先に逝きやがって……」

 モニカとダリウスが涙ながらにそう言う。

 そして、他にも。

「……? マ、ママ。お兄ちゃんも。どうして泣いているの?」
「……それはね。パパとお別れしなくちゃいけないからよ。それにリックとも」

 ニムの問いに、マムがそう答える。
幼いニムは、まだ死という概念を理解しきれていなかった。
彼女がそれを理解できるようになるのは、少し後のこととなる。

「おわかれ? それは、かなしいね。つぎはいつ会えるのかなあ」
「……そうね。また会えるといいわね……。ううっ」
「ひっく、ひっく」

 ニムの無邪気な言葉に、マムとサムが泣き崩れる。

 ラーグの街の北部には、サザリアナ王国の王都がある。
街道は整備されているし、危険度の高い魔物は優先的に討伐されている。
ラーグの街から王都への旅路は、何の危険性もないはずだった。

 モニカの母、ナーティア。
王都で流行っているという調味料の味見と仕入れのため、王都行きの馬車に乗り込んだ。
娘のモニカ、夫のダリウスはラーグの街で待機していた。

 ニムの父、パームス。
王都で品種改良がされたという新たな野菜の苗を入手するため、王都行きの馬車に乗り込んだ。
ペットであるリックも、護衛として連れていった。
娘のニム、息子のサム、妻のマムはラーグの街で待機していた。

 その他、王都に用事のある人たちや護衛の冒険者を連れて、馬車は出発した。
定期的に発着している王国運用の馬車であるため、安全性に疑いを持つ者はいなかった。

 だが、結果はーー。
全滅。

 定期便の到着が遅れていることを不審に思った王都の担当者が、調査隊を派遣した。
すると、街道の途中で、全壊した馬車やおびただしい血痕などが発見された。
その場には死体がなかったため、一縷の望みをかけて周辺に捜索隊が派遣された。

 しかし、1週間以上捜索してもだれも見つからなかった。
死体こそ見つからなかったものの、状況から見て生存は絶望的だ。
王国は、馬車の乗客は死亡した可能性が極めて高いと結論付け、乗客の関係者に通達した。

 そして、その犠牲者たちの葬儀が今行われているというところである。

 犠牲者は多数にのぼる。
モニカの母ナーティア、ニムの父パームス。
同行していた人たちや、護衛の冒険者。
それに、パームスが連れていた犬のリックだ。

「この度の痛ましい事故につきまして、まことにお悔やみ申し上げます」

 王国の担当者がそう言って、頭を下げる。
今回の馬車の運用はサザリアナ王国が行っていたので、責任の所在は王国にある。
彼が顔を上げ、言葉を続ける。

「ご遺族の方々への賠償金の支払いにつきましてはーー」
「お金? そんなのいい! お母さんを返してよ!」
「こら、モニカ。よさないか……」

 かみつくモニカを、ダリウスが制止する。
この担当者は、街道の危険性を甘く見たわけではない。
これまでずっと安全に運用されてきたのだ。
今回の事故は突発的なものであり、予測不可能であった。

「まことに申し訳なく思っております。今後の定期便の警備体制の見直しを進めておりーー」

 担当者がそう説明する。
今後の安全性の拡充は、大事なことではある。
だが、それでいなくなった者たちが帰ってくるわけではない。

「ううっ……」
「ひっく」

 マムとサムがそうむせび泣く。

「ママ。さみしくてもだいじょうぶだよ。わたしとお兄ちゃんがいるもん。パパとリックが帰ってくるまで、いっしょに待とうね」

 無邪気なニムの言葉が、葬儀場に虚しく響いた。

 ニムやモニカがタカシと出会うのは、これから数年後のこととなる。

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