【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

157話 カトレアの浄化 霧蛇竜ヘルザム

 カトレアの姿を探す。
俺たちがミドルベアと戦っている間に逃げているかと思ったが、彼女はまだ同じ場所にいた。

 そういえば、魔の角笛を吹き終わった後に力なく座り込んでいたな。
何か副作用などがあるのかもしれない。
演奏者の生命力やMPを著しく消耗するとか。

 彼女は力なく座り込んではいるが、意識はあるようだ。

「……くっ! まさかミドルベアをこうも簡単に……」

 簡単に、というほど簡単ではなかったが。
MPや闘気をかなり消耗した。
重傷者はいないものの、軽傷は5人それぞれ負っている。
決して楽な戦いではなかった。

「カトレアさん。もうやめてください。私たち、昔は仲良しだったじゃないですか」

 ミティがそう言う。

「うるさい! 才能だけのクソ女が! こうなりゃ私自身で……!」

 カトレアがこちらににじり寄ってくる。
いくらなんでも、彼女1人で俺たちを相手にするのは無謀だろう。
彼女は正常な判断力を失っているようだ。
嫉妬がここまで人を狂わせるのか。

 ……いや。
待て。
彼女の様子がおかしい。

 目に黒いモヤがかかっている。
黒いモヤがだんだん濃くなっていく。
目からあふれたモヤが帯状に連なっていく。
まるで、生きているかのような動きをしている。

「あれは……まさか霧蛇竜ヘルザム!?」

 アイリスが驚いた顔でそう言う。

「知っているのか!? アイリス」

「S級冒険者たちが外界から持ち帰ってしまった魔物だよ。5大災厄のうちの1つ。人に取り憑いて、負の感情を増幅させるらしい」

「なぜそんな魔物がこんなところに!?」

「知らないよ、そんなの!」

 S級でも手こずるような魔物か。
マズいかもしれない。

「理由はどうでもいいよ! あの魔物は危険なやつなの!?」

 モニカがそう言う。

「いや……。霧蛇竜ヘルザムが危険なのは、精神を汚染して暴走させる点だよ。直接的な戦闘能力はそれほどない」

 アイリスがそう言う。

「つまり、どうすればいいんだ?」

「カ、カトレアさんを、ボコボコにすればいいのでしょうか?」

 ニムが物騒なことを言う。
なかなかの過激派だ。

「無力化するだけなら、それでもいいけど。根本的な治療のためには、聖魔法がいる」

「聖魔法か。俺とアイリスの出番だな」

「そうだね。タカシの聖魔法をレベル2に強化しておいてよかったね」

「アイリスの助言のおかげだ。ありがとう」

 こういう局面に遭遇したとき、聖魔法を使える人がアイリスだけなら、少し厳しい状況になるところだ。

 アイリスと手を繋ぐ。
聖魔法の合同発動に必要な行為だ。

「ちっ。いちゃつきやがってよお! てめえらもついでにくたばりやがれ!」

 カトレアの様子がどんどんおかしくなっている。
口調が荒い。
こちらににじり寄ってくる。

 俺とアイリス。
2人で聖魔法の詠唱を開始する。

「……神の光よ。邪を滅ぼしたまえ。ホーリーシャイン」

「ぐぅっ! あああああっ!」

 カトレアが苦しんでいる。

「カ、カトレアさん!」

 ミティが心配そうに声をかける。

「こ、これでだいじょうぶなのか?」

「わかんないけど、こうするしかないよ。もう一度やろう」

 再び、2人で聖魔法の詠唱を開始する。

「……神の光よ。邪を滅ぼしたまえ。ホーリーシャイン」

「あ、あああああっ!」

 カトレアが大声で叫び続ける。

「うーん。ちょっと出力が足りないかも……」

 アイリスがそう言う。

「マジか。どうしよう!?」

 対応策が何かないか。
……。
先ほどのミドルベア戦で、俺やアイリスのレベルが上がっていたようだ。
スキルポイントが入っている。

 聖魔法を強化するか?
ぶっつけ本番で試すことになるが、仕方ないだろう。
ステータス操作で俺とアイリスの聖魔法を強化しようとした、そのとき。

「待って! カトレアの様子が……」

 アイリスがそう叫ぶ。

「ぐ……が……。……ミティちゃん……」

 カトレアがうめきながらそう言う。

「ヘルザムの支配が弱まっているみたいだな。もう一押しだ!」

 俺はそう叫ぶ。
ミティが一歩前に出る。

「カトレアちゃん! 魔物なんかに負けないで! またいっしょに遊ぼうよ!」
 
 ミティの呼びかけに、カトレアが反応する。

「ミティちゃん……。ずっと……仲良し……。ぐ……が……。あああああ!」

 カトレアが大きな叫び声をあげる。
黒いモヤのような塊が彼女の体から飛び出し、どこかへと飛んでいった。

 カトレアの体から力が抜ける。
その場に力なく横たわる。

「し、死んだのか……?」

「いや、聖魔法にそんな効力はないはずだけど」

「カトレアさん!」

 ミティがカトレアに駆け寄る。
まだ危険かもしれないが。
そんなことを言っている場合じゃないか。
彼女を抱き起こす。

 カトレアがミティを力なく見つめる。
どうやら生きてはいるようだ。
体に力が入らない様子ではあるが。
目の黒いモヤはなくなっている。

「カトレアさん! しっかりしてください!」

「……ミティちゃん? なんだか、私、悪い夢を見ていたようだわ……」

 カトレアが力なくそう言う。

「ミティちゃんのことが羨ましくて、憎くて。ミティちゃんの親御さんの仕事の邪魔をして。ミティちゃんが奴隷として売られていく。そんな夢……」

 それは夢ではなく、事実ではなかろうか。
ミティ、ダディ、マティたちに聞いた話と合致している。

「こんな夢、おかしいよね……。だって私とミティちゃんは、友だちだもんね。ずっと、仲良しの……」

 カトレアの首がガクッと落ちた。

「カトレアさん! カトレアさん!」

 ミティが必死に呼びかける。

「死んでしまったのか?」

 人が死ぬのは嫌だ。
アイリスが近づき、カトレアの様子を見る。

「だいじょうぶ。気を失っているだけだ。ボクが治療魔法をかけるよ」

 アイリスが治療魔法をかける。

「あとは、ゆっくり安静にさせよう。村のお医者さんや薬師にも見てもらったほうがいいね」

「そうだな。まずは村に戻ろうか」

 みんなで村に戻ろう。
カトレアは、ミティがおんぶしている。
豪腕の彼女からすれば、問題のない重さだろう。
軽々と背負っている。


●●●


 タカシたちが無事にミドルベアとヘルザムを討伐し、安堵している頃。
彼らを影から見つめる目があった。
センと名乗っている女だ。

「(うふふ。あの者たちは、カリオス遺跡でも見た顔ですね。まさか、ミドルベアとヘルザムを討伐するほどの実力があったとは……。まあ危なっかしいところもありましたが。思わず援護してしまいました)」

 タカシが斬魔剣の反動で隙だらけになったとき、投擲で援護したのは彼女だった。

「(彼らの実力は、うれしい誤算です。私がヘルザムに手を焼く必要がなくなりました)」

 彼女は手元に目をやる。
ヘルザムの死体があった。

「(聖魔法で弱り逃げようとするヘルザムを、難なく仕留めることができました。上級闇魔法の良い触媒になるでしょう。これでこの村での任務は完了です)」

 女は、霧蛇竜ヘルザムの死体をアイテムバッグに収納する。

「(彼らとは、また会う予感がします。今回のように、うまく利用できればいいのですが。敵対してしまうと少し面倒ですね。まあ、そのときはそのときです)」

 女はそう言って、その場を後にした。

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