【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

146話 いつかの一等賞

 夢を見ていた。

「たかし。ご飯ができたわよ。今日はたかしの好きなカレーよ」

「やったー!」

 男の子が無邪気に喜ぶ。
この男の子は……俺だ。
夢か。
第三者視点での夢だ。

「おいしい! はぐはぐ」

「うふふ。いっぱい食べて、元気に育ちなさい」

 カレーをおいしそうにほおばる男の子。
それを愛おしそうに見守る母親。
かーちゃん……。
なつかしい。


 場面が切り替わる。

 男の子がテレビを見ている。
ヒーローアニメだ。

「そこまでだ! かいじんオロステドンめ! へんしんだ!」

 男の子がテレビのシーンに合わせて、おもちゃの変身ベルトのボタンを押す。

「せいぎのこころであくをきりさく! せいぎせんたい、ジャスティスレンジャーさんじょう!」

 男の子が決めゼリフとともに、ポーズを決める。

「とわっ。しゅわっち!」

 男の子がテレビのヒーローをまねして、パンチやキックを繰り出す。
テレビの中のヒーローが、怪人たちを倒していく。
しばらくして、アニメは終わった。

 男の子を見守っていた母親が口を開く。

「たかしは本当にヒーローが好きねえ」

「うん! ぼくはしょうらい、ヒーローになるんだ。わるいやつをやっつけて、こまっているひとをたすける!」

「ふふふ。そのためには、体を鍛えるだけではなくて、勉強も頑張らないといけないわね」

「がんばる!」

 男の子が元気にそう返事をする。
母親が幸せそうにほほえむ。


 場面が切り替わる。

 男の子が外から家の玄関に入ってくる。
学校から帰ってきたところのようだ。
彼は中学生になっている。

「かーちゃん! 今回のテストで、学年でついに1番になれたよ! 部活動でも地区予選で優勝した!」

「よかったねえ。たかし。これでまた、憧れのヒーローに近づいたわね」

「よしてよ。さすがにヒーローはもう目指していないよ。でも、弁護士、警察官、自衛隊員、医者。人を助ける仕事はいっぱいある」

「そうだねえ。立派な大人になるんだよ。そうそう。となりの千秋ちゃんが来ていたわよ。明日の縁日、いっしょに行こうって」

「わかった。後でまた連絡しておくよ」

 千秋か。
この時期、いい雰囲気になっていた幼なじみだ。
その後、いろいろあって疎遠になってしまったが。
なつかしい。


 場面が切り替わる。

 男が暗い部屋の中でネットゲームをしている。
ボサボサの髪。
不衛生な体。

 これは……。
少し前の俺だ。

「たかし。ご飯よ」

「部屋の前に置いてくれ。後で食べる」

「そろそろ今後のことも考えなさいね」

「うるせー! クソババア! 今いいところなんだよ! 邪魔すんじゃねえ!」

 母ちゃんに汚い言葉を浴びせている。
俺がこうなってしまったのは何が原因だったか。

 受験の失敗。
部活動の全国大会での惨敗。
就職の失敗。
千秋との別れ。

 どれか1つだけが原因というわけでもない。
つらいことが積み重なって、メンタルをやられてしまったのだ。
両親や千秋、もしくは医者などに相談できればよかったのかもしれない。
当時の俺は、自分自身の力で立ち直ることに固執してしまった。
その結果、心が折れ、無職のまま無為に日々を過ごすことになってしまった。

「たかし……」

 母ちゃんが悲しそうな顔をして、部屋の前から去っていく。

 俺はこちらの世界に来て、チートの恩恵で充実した生活を送っている。
大切な仲間たちもできた。
ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
俺にはもったいないぐらいのすばらしい女性たちだ。

 しかし、元の世界にまったく未練がないと言えば嘘になる。
特に母ちゃんの件だ。
無職になってからは、母ちゃんにはつらくあたってしまっていた。
謝りたい。
俺はこの世界で元気にやっていると、報告したい。
育ててくれた恩返しをしたい。

 他にも、父ちゃんや千秋、妹や友人。
連絡を取りたい人は何人か思い当たる。
彼らは、俺が突然いなくなってどう思っているのだろうか。
死んだと思って、泣いてくれたりするのだろうか。
それとも、連絡もなしに失踪して、最後まで迷惑なやつだと思われているのだろうか。

 こんなことを考えても、大きな意味はない。
ミッションによれば、30年後の世界滅亡を回避すれば、元の世界に戻れる。
しかし、30年後のタイミングで戻ったとして、母ちゃんたちが元気でいてくれるかどうか。
俺のことも忘れられているかもしれない。
もしくは、こちらの世界と元の世界で、時間の流れる速さが異なるという可能性もあるが。

 そんなことを考えつつ、俺の夢の中の意識は薄れていった。


●●●


 夢を見ました。

「ミティ。ご飯ができたわよ。今日はミティの好きなお肉よ」

「やったー! おにく! おにく!」

 女の子が無邪気に喜ぶ。
この女の子は……私です。
夢ですか。
第三者視点での夢のようですね。

「おいしい! はぐはぐ」

「うふふ。たくさん食べて、元気に育ちなさい」

 肉料理をおいしそうにほおばる女の子。
それを愛おしそうに見守る母親。
お母さん……。
なつかしい記憶です。


 場面が切り替わります。

 女の子が表彰台に立っています。
これは、私がちびっこ相撲大会で優勝したときの記憶ですね。
4歳になった頃でしたか。

「パパ、ママ。ゆうしょうしたよ! ぶい!」

 女の子が表彰台の上で、両親に向けてピースサインをします。
無邪気に喜んでいます。

「ぐぬぬ……。ミティちゃん、つぎはまけませんわよ」

 別の女の子が悔しがっています。
彼女は準優勝です。
決勝戦で、私は彼女に勝ちました。

「わたしもまけないよ! カトレアちゃん!」

 彼女の名前はカトレア。
小さいころからずっと仲良し。
ですが、今では……。
そういえば、彼女の態度が変わってしまったのは、この頃からでしたか。

 表彰式が終わり、女の子は両親の元に駆け寄ります。

「えへへー。わたし、がんばったよ!」

「凄いわミティ。だれに似たのかしら。やっぱり私かしら。うふふ」

「いやいや、力が強いところはパパに似たんだよ。なっ、ミティ」

「パパとママ、2人ともだよ! だーいすき!」

「パパもミティが大好きだぞ!」

「ママもよ! 今日は、ミティの好きな肉料理にしましょうね」

「やったー!」

 女の子と両親が、幸せそうな顔で家路につきます。
この頃は、幸せでした。


 幸せが崩れ始めたのは、ちびっこ相撲大会で優勝した1年後ぐらいでしたか。
鍛冶の練習を始めた頃です。

 私は不器用で、鍛冶がうまくできませんでした。
今思えば、鍛冶はすっぱりと諦めて、力仕事に専念すればよかったのかもしれません。
当時の私は、鍛冶に固執してしまいました。

 周囲の視線が冷たくなっていきます。
カトレアとも疎遠になりました。

 そんな中、両親は変わらず私を愛してくれました。
しかし、何らかの事情により家計が苦しくなってしまったようです。
そして、とうとう私は奴隷として売られてしまいました。

 このあたりのいきさつは、あまり思い出せません。
黒いモヤがかかったように曖昧な記憶しかありません。
つらいことが多かったので、無意識のうちに自分で記憶に蓋をしてしまったのでしょうか。
無理に思い出すつもりもありません。

 そんなことを考えつつ、私の夢の中の意識は薄れていきました。

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