【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

22話 異世界に来てから初の外食:兎獣人モニカとの出会い

 冒険者ギルドに到着した。
中に入り受付嬢にギルドカードを渡す。
討伐の報告をし、素材の買い取りもお願いする。

 今日の報酬は大したことなかった。
まあいろいろと用事を済ませてからの狩りだったからな。
最初から期待はしていない。

 冒険者ギルドを出る。
宿屋や飲食店を見て回る。
奴隷であるミティと同席して飲食できる場所を探していく。

 改めて見てみると、歩いている人には結構奴隷の人はいるな。
服装も別に普通だ。
首輪を除けば外見からは判別しにくい。

 しかし、身分としては確固たる区別があるようだ。
奴隷と同席できる飲食店がなかなか見つからない。
やはり屋台で食べ物を買って宿の自室で食べるしかないのだろうか。


 しばらく歩いて探し続ける。
大通りから少し外れたところに、一軒の食堂があった。
ラビット亭と書いてある。
中に入ってみる。

 うさぎ耳の若い女性と目が合った。
兎の獣人だろうか。
彼女が話しかけてくる。

「いらっしゃい。空いてる席に座ってね」

 店の中を見てみると数人のお客さんがいた。
あ、あの人は首輪をしている。
奴隷だろう。
ということは、ここの食堂ではミティと同席できるな。

 この食堂で食べることにしよう。
空いている席に座る。

「お客さん、今日は何にする?」

 何にすると言われてもよく分からないな。
宿屋の食堂では注文せずともその日ごとに決まった料理が出てくる。
屋台では、実際に調理の様子を伺える。
何にすると言われてパッと料理の名前は出てこない。
メニューもないようだし。

「うーん。おまかせでお願いします。あ、肉料理は少し多めで」

「分かった。予算はどれくらいだい?」

 初めての外食だから相場が分からないな。
まあちょっと奮発するか。

「金貨1枚分でお願いします」

「金貨1枚? お客さん、お金持ちなんだね。じゃあ作ってくるからちょっと待っててね」

 そう言うと兎獣人の彼女は奥に引っ込んでいった。
お金持ち?
ちょっと予算を多くし過ぎたか。
まあいい。

 さて、どんな料理が出てくるのだろうか。
実はこの世界でちゃんとした料理屋に入るのは初めてだったりする。
宿屋では地味な感じの定食料理をしか出てこなかったし。

 ちょっとお客さんが少ないのが気になるな。
料理がマズイくらいだったら我慢できるが。
まさかゲテモノ料理店とかではないよな?
他の客が食べているものを見てみよう。
残念、ちょうど食べ終わったところのようだ。
彼女を呼んで代金を支払っている。

 彼らは会計を済ませて店から出ていった。
これで店内の客は俺とミティだけになった。

 しばらく待っていると、彼女が戻ってきた。
手には料理を持っている。

「はい。どうぞ」

 テーブルの上にいくつかの料理が置かれた。
肉料理を多めと言ったため、当然肉料理が多い。
良いにおいがする。
見た目もおいしそうだ。
ミティが早く食べたそうにしている。

「よし食べようかミティ」

「はい、タカシ様」

 まずはこの肉料理からだ。
肉と野菜を炒めたもののようだ。
肉は細かく切られているので、外見からは何の肉か分からない。

 食べてみる。
う、うまい!
ソースが絶品だ!
まろやかでコクがあり、それでいてしつこくない!
しかしこの味は、どこかで食べたことがあるような……。
俺が首をかしげていると、次の料理を運んできた彼女がこう言った。

「それはクレイジーラビットの肉だよ」

 これがクレイジーラビットの肉だと?
俺が野営時に調理したものとは大違いの味がする。
まあ俺のは調理というか適当に切って焼いただけだが。

「ふふふ。私の父が作ったソースで味付けしているからね」

 彼女が説明を加えてくる。
得意げな様子だ。
長い耳をピクピクと動いている。
そういえば兎獣人は兎に仲間意識とかはないのだろうか?
まあわざわざ聞くほどのことでもないか。

 クレイジーラビットの肉をどんどん食べていく。
味付け一つでこうも変わるとはな。
この絶品スープを作ったという彼女の父は素晴らしい腕をしている。
ミティもおいしそうに食べている。

 おっと。
ついクレイジーラビットの肉ばかりを食べてしまった。
そろそろ他の料理も食べてみないと。

 こっちの肉はなんだろう。
食べてみる。
んー、歯ごたえがあるな。
クレイジーラビットとは一風変わった味だ。

「それはゴブリンの肉だよ」

 えっ。
これがゴブリンの肉だと?

「ゴブリンは臭みが強くて人間が食べるのには適さないと聞いたのですが……」

「まあ普通に調理したらそうだね。でもそれなりに手間をかければ十分食べられるようになるんだよ」

 へー、そうなのか。
ゴブリンの肉とはいっても十分においしいな。
しばらくゴブリンの肉を堪能する。

 次はこっちの料理を食べてみよう。
これは……トンカツみたいな見た目だな。
この世界には揚げ物料理もあるのか。

 一口食べてみる。
こ、これもうまいぞ!
肉がやわらかい。
衣もサクサクとしている。
もし日本に出店しても十分にやっていけそうだ。

「それはスピーディーバッファローの肉だね。高級肉だけど、お客さんの予算が多かったから奮発して使ったんだ」

 スピーディーバッファロー?
聞いたことのない魔物だ。
まあなんとなくどんな魔物か想像はできる。
移動速度の速い牛みたいな奴だろう。

 やはり高い肉はおいしいということか。
どんどん食がすすむ。
そんな俺達を見て、彼女が声をかけてきた。

「どう? おいしい?」

「おいしいです。ミティはどうだい?」

「私もおいしいと思います!」

「そう? それは良かった」

 彼女は安堵したように言う。
この味でこの客の入りは気になるな。
ちょっと失礼かもしれないけど、聞いてみよう。

「なんでこんなにおいしいのにお客さんが少ないのでしょうか?」

「うーん……。本当はあまり言いふらすようなことじゃないんだけど。お客さんは金払いがいいから特別ね」

 彼女はそう前置きをしてから、話し出した。

「2年前に店長……私の父が病に倒れてしまってね。それからは私が店を切り盛りしてるんだけど……。やっぱり私の料理の腕は父に比べてまだまだでね。常連客が離れてしまったんだ」

「そんな! こんなにおいしいのに……」

 ミティが言う。
確かにここの料理はかなりおいしい。

「ありがとう。そう言ってもらえてうれしいよ。私もそこらの店には負けてないつもりなんだけどね」

「残念です。あなたのお父さんの料理も食べてみたかった」

「もし食べたらびっくりするよ! みんながおいしいおいしいと連呼するような味なんだ! ああ、なつかしいなあ……。昔の店はいつも満員……。外には行列ができていたんだ…………」

 彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでおり、可愛い兎耳も垂れてしまっている。
昔の思い出に浸り、物悲しい気持ちになっているようだ。
そっとしておこう。
しばらくして、彼女はハッとしてこう言った。

「ああ、すまない。湿っぽい空気にしてしまったね。私は明日の準備をしてくるよ。ゆっくり食べていってね」

 彼女は奥に引っ込んでいった。
食事を再開する。
うーん。
彼女の料理も十分においしいんだがなあ。
これよりもおいしい料理。
食べてみたいな。

 余裕ができたら治療魔法を取ってみるか?
店に立てなくなるほどの病気。
レベル1や2ではさすがに治せないだろうが、レベル3か4ぐらいまで上げれば治せるかもしれない。
それに、彼女の父の病気を治せれば、彼女の忠誠度も稼げるだろう。

 しかし難しい問題もある。
俺が彼女の父の病気を治せるようになったとして、他の人への治療はどうするのかという問題だ。

 治せそうな人は片っ端から治していくのか?
時間とMPがいくらあっても足りないだろう。
それに、レベル上げがおろそかになる。
レベル上げがおろそかになると、30年後の世界滅亡の回避が難しくなる可能性が高い。

 治そうと思えば治せるのに、重病患者を放っておいて魔物狩りをするのか?
実際に重病患者を目の当たりにしなければ、放っておくことも可能だと思う。
しかし実際に重病患者を目の当たりにしてしまったら、俺の精神力的に見て見ぬふりをすることは厳しい。
俺の精神が持たない。

 実際に目の当たりにした人だけを治療し、普段は魔物の狩りに精を出すのはどうか?
まあこれが一番現実的だとは思う。
しかし治療人数が1人2人3人と増えてくると、どうしても俺の知名度も上がってきてしまいそうだ。
もし噂が広まって重病患者の家族とかに押し寄せられたら、俺の精神力的に見て見ぬふりはできない。
そうなればレベル上げがおろそかになるだろう。

 結局、治療魔法は俺ごときの手には余る魔法だということだ。
いや、俺に限った話じゃない。
よほど高潔な神官とかじゃないと使いこなすことはできないだろう。
残念だが、彼女の父を救うことは俺にはできそうにない。

 そんなことを考えながら食事を続けていると、いつのまにか皿は空になっていた。
彼女を呼び、代金として金貨1枚を払う。

「またいつでも来なよ」

 食事が終わり、彼女に送り出される。
最後に少ししんみりしてしまったが、なかなか良い店だったと思う。
奴隷同席可能。
料理はおいしい。
兎獣人の店員は美人。

 今後の食事はここを中心に取ることにしよう。
ミティも気に入ったようだし。

 おいしい料理を食べた幸福感とともに宿屋に戻り、明日に備えて就寝する。

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