【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1.5話 襲われた馬車:犬との戦闘

「よし。遠くに街が見えるな。あそこに向かってみよう」

 しばらくは草原を歩く。
 俺から少し離れたところに、犬のような生物がうろついている。
 あれがミッション報酬にあった『魔物』という生物だろうか。

「ミッション報酬のために近づいて倒してみるのもありか? しかし、少し危険か」

 ミッション報酬でスキルポイントが入れば、スキルを強化できる。
 さらに、もしゲームのように魔物を倒すことで経験値が入るようなシステムなら、レベルが上がって基礎ステータスの向上が期待できるかもしれない。

 しかし少し危険はある。
 犬のような生物に見えるが、地球の犬とは性質が異なるかもしれない。
 口から毒液を吐き出すとか。
 魔法を使ってくるとか。
 ピンチになるとバーサーカー状態になるとか。
 うかつに攻撃すると仲間を呼び出すとか。

「魔物討伐にチャレンジするのは、街で情報収集をしてからにするか」

 俺はそんなことを考えつつ、街に向けて歩みを進める。
 そしてーー。

「うわあああぁっ!」

 男性の悲鳴だ。
 何かのハプニングに巻き込まれたかのような声色である。

 あの犬に襲われたのだろうか?
 もしくは盗賊とか?

「初めての人との遭遇だ。いや、それよりも、いったい何があったんだ?」

 俺は、声が聞こえたほうに走っていく。
 しばらくして、小さめの馬車が視界に入った。
 道上に停止している。

「あの犬のような生物に襲われているのか」

 人間は3人。
 体の大きな男が1人、商人風の男が1人、フードをかぶった小柄な人が1人。

 襲っている犬は2匹だ。
 それほど大きな犬ではないが、なかなか獰猛そうな感じだ。

 体が大きい男が1匹と、商人風の男がもう1匹と戦っている。

「おらあっ!」

 体が大きい男は犬と危なげなく戦っている。
 しかし少し勝負を急いでいるのか、攻撃に正確さが欠けている。

「ふっ! ぬぬぬ……」

 商人風の男は盾で必死に防御している。
 あまり戦い慣れているようには見えない。

「助けに向かうべきだろうか……。少し危険だが……」

 つい先ほど、魔物討伐はまだ危険だと結論付けたところだ。
 しかし今は人命にすらかかわる緊急事態である。
 それに、彼らの戦闘を見るかぎり、あの犬に特殊能力のようなものは見受けられない。

「よし、助けに向かうぞ」

 俺は、彼らのほうに駆け出す。
 特に優先すべきは商人のほうだろう。

 俺が近くまで寄ると、商人は俺に気付いたようだ。
 必死な様子で話しかけてくる。

「そ、そこの君! 冒険者か? この犬を何とかしてくれ!」

 日本語ではない。
 しかし、この言語を俺は理解できる。
 おそらく『異世界言語』のスキルのおかげだろう。

 興味深い単語が出てきた。
 冒険者という単語だ。
 この世界にはそういった職業があるのか。

 しかし、今は置いておこう。
 それよりも、この目の前の脅威を取り除くことが先だ。

「わかりました!」

 俺は犬に切りかかるタイミングをはかる。
 犬は商人に意識を向けており、まだこちらには意識を向けていない。
 今がチャンスだ。

「せえぃっ!」

 思い切って犬を切り付ける。
 スカッ。
 俺の剣は空を切った。

 避けられた?
 いや、半分は俺の制御ミスで外したようなものだ。
 剣術スキルをうまく扱えない。
 頭では体の動かし方が理解できているんだが。

「ガルル……!」

 犬は俺を敵とみなしたようだ。
 歯をむき出しにして威嚇してくる。
 恐ろしい顔だ。
 怖い。

「ガウッ!」

 犬がこちらの顔に目がけて跳びかかってきた。

「ひぃっ!」

 俺はビビりつつも、なんとか避けることに成功した。
 たかが犬がこんなに恐ろしい生物だったとは。
 嫌な汗をたっぷりとかいている。
 心臓がバクンバクンと音をたてている。

 マズイぞ。
 こんなことなら剣術スキルの使い方を練習しておくんだった。
 油断したらあっさりとやられてしまいそうだ。

「く……」

「ガルル……!」

 俺と犬が睨み合う。

 ドゴン!
 突然、横から犬への攻撃があった。

「ガ、ガウ……」

 犬は戦闘不能になり、倒れる。

「なんだ?」

 俺は周囲の状況を確認する。

「よし、これで終わりだ。助かったぜ、兄ちゃん」

 体の大きな男がそう言う。
 どうやら先ほどの犬への攻撃は、彼からの攻撃だったようだ。
 戦っていたもう1匹の犬との戦闘が終わり、こちらに加勢に来てくれたといったところか。

 商人もひと息ついたようで、ハンカチで汗を拭っている。

「ふう。助かりました。ありがとうございました」

 商人がそう言って、頭を下げる。

「いえいえ、大したことはしていません」

 俺はそう謙遜しておく。
 待望の、初めての異世界人との接触である。
 異世界言語のスキルのおかげか、まったく問題なく意思疎通ができている。

 魔物と戦うという貴重な体験ができたのも大きい。
 結果的には一撃も当てることができなかったが。

「こいつらは単独で行動するファイティングドッグという魔物だ。油断していたぜ。まさか偶然2匹から同時に標的にされるとは」

 体の大きな男がそう言う。
 単独で行動する魔物であるならば、確かに通常であれば1人で対処できるだろう。
 今のはイレギュラーだったということか。

 危機が去り、俺達3人の間に気が抜けた空気が漂う。

「ところで、あなたはここで何を? 私は、行商のためラーグの街へ向かっているところでしたが」

 商人風の男は、やはり商人で間違いなかったようだ。
 そして、遠くに見えているあの街は、ラーグという名前か。

「ええ、私もラーグの街へ向かっているところでした」

「そうでしたか。よろしければ、ごいっしょしましょう。ぜひ荷台に乗ってください」

 そんな感じで、俺は彼らと街まで同行することになった。
 馬車の荷台に乗れるので楽だし、単純に同行者ができたことにより魔物への恐怖心が減った。
 とりあえずは、街まで気楽な旅となるだろう。

 馬車の乗員は4人。
 商人は、馬車の御者をしている。
 体の大きい男は、荷台の前方に座りつつ周囲の警戒をしている。
 俺は、荷台の後方でのんびりと馬車に揺られている。

 そして、あと1人。
 フードの人だ。
 彼(彼女?)は、俺と共に荷台の後方に座っている。

 このフードの人はいったいどういう人なんだろうか?
 気になってチラチラと見てしまう。

 俺がそんなことをしている間にも、馬車は順調に進んでいく。
 そしてーー。

「ガルル……!」

 馬車の進行方向から犬の唸り声が聞こえてきた。
 さっきのと同じ種類の生物だ。
 確か、ファイティングドッグとかいったか。

「いっしょに戦いましょう」

 俺はそう声を掛ける。
 今度こそは一撃でも当ててみせる。

「まあ待て、兄ちゃん。1匹ぐらい俺で十分だ。任せておけ」

 確かに、彼の実力があれば1対1で十分なのだろう。
 先ほどは、同時に2匹から狙われたからピンチだっただけだ。

「おらあっ!」

「ガウッ!」

 俺は彼の戦闘を観察する。
 彼は回避を軸に戦っている。
 さきほどの戦闘のような焦りは見受けられない。
 堅実にダメージを与えている。

 彼の戦闘に危険はなさそうだが、少し時間がかかりそうだ。
 そんな中ーー。

「ガルル……!」

 馬車の後方から犬の唸り声が聞こえてきた。
 また別のファイティングドッグか。
 俺は荷台上で立ち上がる。
 剣を油断なく構える。

「来るなら来い!」

 俺はそう言う。
 しかし、犬は俺ではなくフードの人に跳びかかった。
 犬の牙がフードの人を襲おうとしている。

「あ、危ない!」

「きゃっ」

 俺はとっさにフードの人を抱き寄せる。
 や、やわらかい。
 やわらかい感触がある。

 女性だったのか。
 いや、こんなことを考えている場合じゃない。

「間一髪でしたね。俺の後ろにいてください」

「は、はい……」

 俺は彼女を背後にかばいつつ、再び剣を構える。
 気分はさながらお姫様を守る騎士のようなものだ。
 テンションが上がってきたぜ。
 いや、だからこんなことを考えている場合じゃないって。

「安心してください。俺があなたを守り抜いてみせます!」

「あ、ありがとうございます」

 かっこいいセリフを言ってみたが、やっていることは地味だ。
 剣術スキルを駆使して必死に牽制しているだけ。
 俺なんかの実力で人を守りつつ戦うとか難易度が高すぎる。

 しかし何とか数分は持ちこたえた。
 そして、男が加勢に来て犬を倒してくれた。

 俺の見せ場なんてなかった。

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