面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

第6話 初めてのお風呂

 今、俺は風呂に入っている……それは間違いない。だが、周りの風景がおかしい。

 まず、露天風呂を所望したのはいいが、何故ここに夜空がある!? ここは白い世界だったはずだ。はずなんだ!!

 ……落ち着け俺。ゆっくりと整理していこう。

 確かソフィが平常運転かの如く、何も無い空間に風呂場を出したところまではまだ理解ができた。【万能空間】と名付けたのは俺だしな。

 出現した風呂場の入口から入ると、中には普通に脱衣所があった。これもいい。普通のことだ。

 そこで俺は想像した。浴室に入れば真っ白な風景の味気ない露天風呂があるのだろうと。

 だがしかし、中に入ってみれば一面に広がる満天の星空だ。何故だ!? 裏切られた気分だ!

 確かに満天の星空で入る露天風呂は素晴らしいものがあるよ? それは認めよう。だが、この星空は何処から来たんだ! 見渡す限り星空が広がっているではないか!?

 先程【万能空間】に現れた外観の見た目は、一人暮らし用みたいな広さしか想像できない大きさだったはずだ。

 なのに、な・の・に・だ! 浴室に入ればどこが境界線かも分からないような広さの露天風呂ではないか。一体どうなっているんだ!?

 そして1番の問題は隣にいるソフィだ。なぜ、一緒に入っているんだ!? しかも風呂の礼儀作法然りでタオルを身に付けず湯船に浸かっているから、目のやり場をどうするかで非常に困る。

 手で一応隠してはいるものの、その大きな膨らみは隠せてませんよ? むしろ寄せて上げての法則で、今にもこぼれ落ちそうな雰囲気丸出しですよ?

 スタイルがいいとは思ってはいたがこれ程とは……着痩せするタイプか? いかん、素数を数えて悟りの境地に入らなければ欲望が爆発しそうだ。

(2,3,5,7,11,13,17,19,……)

「お風呂はお気に召したかしら?」

 不意に声をかけられて、こちらをチラリと見ながら窺ってくるソフィーリアを見ると、何やら顔が赤くなっているような印象を健は受けてしまう。

 声をかけられて反射的に健は振り向いてしまった。しかも、観察できるほどに見てしまう。主に顔以外を……

「あ……あぁ、いい湯加減だと思うよ。星空も見れて落ちつけるし」

 健は正面に向き直りながら答えてはみたものの、大した返しが出来なかった。

 嘘つけ、俺! 全然落ち着けないし、星空なんか気にならねぇよ。それくらい、ソフィの破壊力が凄まじ過ぎる!

「ふふっ。健になら見られても構わないわよ?」

 終わった……これは、もうダメだな。俺のライフはゼロですよ。誰か助けてください。煩悩が爆発しそうです……

「私は先に上がるけど、健はゆっくり入ってていいからね」

(よし、助かった……)

 この時の俺はそう感じたんだ。神はまだ俺を見捨ててなどはいないのだと。しかし、すぐに裏切られることになる。助かったという心情が俺に油断を与えていたのだ。

「健……」

 かけられたその言葉に振り向いてしまう。そこにあったのは一糸まとわぬ姿でこちらを見ているソフィだった。

「やっと目を合わせてくれたわね。私も結構勇気を振り絞っていたのよ? ドキドキしてたんだから。逆上のぼせる前にお風呂から出てきてね。待ってるわ」

 ソフィーリアはそう言って、イタズラっぽい笑みを浮かべながら浴室から出ていく。

 してやられた! まさか、ソフィから手玉に取られるとは。今までの状況から恋愛事に免疫がないような感じだったのに、ここにきて才能が開花したのか!?

 しかしこのままでは終われない、終わらせられない。やられたらやり返す。それが俺の信条だ。

 ソフィのイタズラに対して、俺もイタズラで返そうではないか。今、脱衣所に行っても自爆するだけだし、やはりあの手でいくしかあるまい。

『もうすでにソフィに対してこれ以上ないくらいに逆上のぼせ上がっているから、お風呂くらいじゃ逆上のぼせないよ』

(ガタンっ!)

 ソフィーリアのいる脱衣所から音が聞こえて、健は勝ち誇った気になる。

 強く心に思えばソフィに聞こえることは、既に実証済みだ。これで、一矢報いることが出来たかな。

「ふぅ~極楽、極楽」

 そのまま健は暫く夜空を眺めながら、心地よくお風呂に浸かって過ごしたのであった。

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