白い魔女に魅入られて

シミシミ/shimishimi

第一章 運命は巡る BOY MEETS GIRL?(6)

 大学の購買とはいっても所詮、生協のコンビニ。しかし、されど生協。特に、この大学の生協はそこそこでかい……気がする。品物もそこそこな気がするため、そこでバスの事故の時刻が過ぎるまで時間稼ぎ。
 心配しすぎかもしれないと言われるかもしれない。
 別に、予知夢なんてものを信じているわけじゃない。けれど、もし、もしも死ぬかもしれないなら何もしないなんてことはあってはならないと思う。なんとかしようと思う。なんとかしてみる。
 頼むから、俺の考えすぎであってくれ。
 授業といった避けられない事柄は夢と同じだったが会話とかは違う内容だったものもあった。
 それに、あの事故のバスは俺らと完全に関わりがない。関わることができない事柄は同じ時間帯に起きるだろう。事故が起きた時間帯さえ避ければ回避できる……と思う。ただ時間を稼げば良い。

「なぁ、まだ決まらねーの?」
 聡太はうなだれていた。
「待ってくれ! 大事な選択や」
 腕を組み、真剣にそれらを見ていた。
「まじかー」
呆れた様子でそれらの片方を手に取った。
「なぁ、ミルクティーかレモンティーなんてどっちでもいいだろ?」
「はぁ?! レモンティーとミルクティーやぞ! 大事やろ!」
 珍しく大河が援護でもしてくれたのかと思った。
 息を吐くかのように人をいじり、煽る奴だと思っていたが見直した! と心で言った

 が、

「悠矢にとっては大事らしい。悠矢にとってはな! 俺はどうでもいい」
 
 と吐き捨てやがった!
 少しでも期待した俺が馬鹿でした。
 全部、お前のためや!!
 普通、こんな馬鹿げたことするか!!
 レモンティーだの、ミルクティーだの、どっちでもいいわ!!
「でもさー。いくら大事って言っても、それだけで20分くらい悩むか?」
「よし、決めた……レモンティーにする」
「よし、ほな帰るぞ」
「次は食べ物や」
「はぁー??」
 それからというもの、二人にとてつもなくせかされつつも、不安感を拭い去ろうと考えを巡らせていた。
 そのおかげで外は真っ暗となった。携帯を見た。時刻は8時半になろうとしていた。
 事故が起きた正確な時刻はわからないが、確か夕方ぐらいだったはず。
 さすがにここまで暗くはなかった。
 もう帰れるなと思い、カレーパンを手にレジへ向かった。
 二人はコンビニを出て、すぐ近くの椅子に座っていた。
「もー、悠矢が悩むせいでこんな時間なったやん」
 聡太が呆れていた。
「普通ミルクティーかレモンティーで三十分くらい悩むか? しかもそのあとの、パンかお菓子どっち買うかで悩んでからのカレーパンとメロンパンで悩むって――パンのタイプどっちも違うし」
 大河がナイスツッコミを入れてきた。
 ツッコミもできるんやな。バリュエーション多いことで。
「すまんな。どうも気分が乗らんくてさ」
 素直に謝った。
 もう一度携帯を見た。時刻は8時半を過ぎたところだった。
 さすがにこれだけずらせば大丈夫だろ。もう一度自分に言い聞かせた。それでも怖さは消えなかった。
「じゃ、また明日な」
 聡太はそれだけ言って駐輪場へ向かった。
「おぅ、また明日」

 ふぅー。
 息を吐いた。
 俺と大河はバスだ。
 乗らない選択肢もあるが、時間も遅い。それに大河は止めても乗るだろう。それなら、一緒に乗って周りに危険がないか俺が確認するしかない。
 とかなんとか思いながら、バスに乗った。
「悠矢、今日ほんま元気ないよな。なんかあったん?」
「なんもなかったで。 今日は変な夢見たせいで寝不足なだけかもな」
「俺が死んだってゆう夢?」
「それもあるけど――夢が現実になった感じ?ってゆうか夢で起こったことが現実にも起こってる……ってゆーね」
できるだけ自然な笑顔を作ってみた。真に受け止められても困る。なんせ――死ぬのは俺の隣に立つ男なんだから。
「それデジャブやん」
「デジャブねー」
「それで俺が死ぬって?」
大河はニヤニヤしながらこっちを見た。
「んーどうだろ」
軽く流した。
あまり心配しているのを悟られたくない。
「まぁ、そんなことは起きないけどな。夢なんて脳が現実で経験したこととか、見たことあるアニメとかを勝手につなぎ合わせたり書き換えたりしたうえに、さらに自分の想像が入るもんやしなー」
少し真面目な感じで話し出した。
「他にも、夢はその人の願望とか深層心理を表したものとも言われてるけど。こんな感じのこと……誰かが言ってたっけなー」
「フロイト」
 とだけ答えた。「夢ってそんな感じのものなんだろうけど、すごいよな」俺は言う。「これだけ発達した現代科学でもまだ夢は解明されていないことの方が多いって言うし」
「科学っておもしろいな」
 単純に、言葉の意味通り何の意図もなく、それ以上もそれ以下もなく純粋にそう感じた。
こんな人の命がかかっている、足りない頭な自分じゃどうしようもできない状況でそう思った。
 大河が言うことは理解できた。けど、腑に落ちない不安感が残る。
 いくら有名私立大学の理系学部に通っていても、所詮自分は凡人。量産品。
 もし――――
 賢かったら、天才だったら、どうしたのだろうか?
 この状況に納得いく理由をつけたりして解決しているかもしれない。
 何にもでもなれるは何にもなれていない証拠。しかし、これから何かになる。うん。これは分かる。
 しかし、誰にでもなれるは誰にもなれない意味だと思う。自分は自分しかいない。この先、何十年と経っても自分は自分。ってことは、凡人である自分は将来は凡人のままだろうか?天才にはなれないのか? そんなこと――あってたまるか。
 大河が口を開いた。

「だからな、夢が現実になるとかありないんだ。確かに、夢が現実になったっていう場合があるかもしれない。だけどな、それはやっぱり脳が今、この瞬間、この状況を、瞬時に捉え、過去の経験と重ねてるだけであって本当に予知したわけじゃない。
それこそ、都合良く考えてデジャブとか正夢とかって勘違してるだけ。だって、人の脳は勘違いしやすいようにできてるから。
てか、ただでさえ現実になった夢よりも現実になっていない夢の方がはるかに多いはずなのに、それでも予知夢とか信じる理由が俺には分からない。所詮、現実になっていない夢は忘れてるのを忘れてるだけ。そういうのは都合が良すぎる」
 少し間を置いて。

「だから、安心しろ」

「――――すまんな」
 素直に受け取った。
 ありがとうな。

 この後の会話は真面目な空気とはうってかわって世間話で盛り上がった。多少なりとも夢の部分と同じだったかも知れないが、そんなことはもう気にしなかった。
 バスが駅前に着くまではいつもの日常のように笑っていた。

 プシュー。
 止まる音がした。
 ガチャッ。
 ドアが開く音がした。
 そこでバスが終点の駅前に着いたことに気づいた。

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