白い魔女に魅入られて

シミシミ/shimishimi

第一章 運命は巡る BOY MEETS GIRL?(3)

目が覚めた。覚醒といったほうが正しい目覚め方。

そこには見慣れた天井が広がる。
はぁ、はぁ、はぁ……
肩で息をする。
冷や汗で服は体に密着している。
まるで……さっきまで見ていた悪夢がいきなり覚めて現実へと舞戻されたような感覚。
不安と安堵が入り混ざった感覚。
寝転んだまま辺りを見渡す。
見慣れた家具、机、椅子、6時15分を指す時計、鞄……。
見慣れた配置にモノが置かれている。
ここ、は?
自分の部屋にいると認識するのに時間はかかった。
「汗えっぐ」
びっちょり汗がついた服をパタパタとする。
暑くもないのになんでこんなに?
呼吸をゆっくりとする。それに伴い心臓の鼓動も徐々に落ち着きを取り戻し始める。
「ふぅー」
ゆっくりと大きく息を吐いた。
悪い夢でも見ていたのか?こんなに汗をかくくらいの悪い夢って何だよ。
「昨日、ホラー映画でも見たっけ?」
あれ?昨日……何して……何も思い出せない。
誰か……が?
「ろくな夢でもないなら思い出せなくていいや」
しかし、どんな夢を見ていたか多少は気になる。思い出せないからこそ気になるものだ。
鼓動も呼吸も、もう元に戻った。もうあの鼓動と呼吸の変な不快感はない。
「はぁ、目覚め最悪だな」
もう一度寝ようかな。

ピロロロリン、ピロロロリン――。
体が硬直した。
安心も束の間、携帯のアラームがなった。
枕元にある携帯を手に取りアラームを止める。
6時45分
起きないといけないなと思い、体を起こした――

突然、身体中に痛みが走った。

「いっ、ったぁ」
思わず叫んだ。
痛む場所に手が勝手に伸びた。しかし、触わるも痛みがない。
「なんだったんだ?」
「っ……」
「頭が」
軋む。
突然の痛みと同時に、フラッシュバックした。あの悲劇が流れ込む。
バス。出会って一ヶ月の友人。血。肉。骨。内蔵。悲鳴。そして――――



目の前で、友が、大河が、血だらけで、無残にも、あっけなく、一瞬にして、生に満ちた姿が死を纏った姿へと。

人間ってこんな簡単にシヌ?
鼓動が、鳴り響く。呼吸が、乱れる。身体が、熱を帯びる。
鼓動が、五月蝿い。呼吸が、できない。身体が、寒い。
手の震えが、止まらない。
視界がグワングワンする。同時に、目が熱くなった。
あぁ。歪んでるんだ。
一滴こぼれた。
「うっ…………」
嗚咽が出る。
吐きそうになって歯を食いしばる。強く食いしばった。今度は口を手で覆う。震えのせいでうまく覆えない。それでも強く押さえた。強く押さえていないと泣いてしまう。叫んでしまう。抑えないと。
あれは――あれは現実なんだ。
「おぇ」押さえても嗚咽は出る。
目を瞑る。もうこぼさないために。頭をガシガシと掻きむしる。
もう見たくない。思い出したくない。何も見たくない。

ごめんなさい。ごめんなさい。

誰に対して、何に対しての謝罪か分からない。ただ、謝り続けた。
「う、う、う……うぐぅ……」
ただただ、抑え切れなかった涙が、洩れる声が枯れるまで流し続けた。
どれほど時間が経ったか分からない。永遠とも感じられる時間を過ごしたように思える。
あれほどあった気持ち悪い吐き気はもう無い。呼吸もゆっくりとしたものになった。涙もいつの間にか止まっていた。
どこを見るのでもなく、ただ宙一点を見つめている。
虚無感に。無気力感に。

「悠矢起きなさい!!時間!!」
頭に響く声が突然聞こえてきた。母親の怒鳴り声にも似た大きな声にビクッと身体が反応した。きちんとまだ身体があることを認識した。永遠ともいえる悲劇の再体験から心ここにあらずといった放心状態になってから初めて動いた。
もうそんな時間か。時計を見る。長針が4に差し掛かるところだった。
今日休もうかな。
「時間!!」
また怒号がとんだ。
これがまた頭に響いて余計吐き気と頭痛を引き起こした。
「しんどっ……」
身体を起こし、ゆっくりと階段を降りた。
朝食の前にトイレへ行った。
吐けなかった。
無駄に苦しい思いだけした。
食欲はなかったが無理矢理腹に収める。朝食を食べないと母親に変に勘ぐられたり、心配されたりするのが嫌だった。なにより、せっかく作ってくれた朝食を無駄にしたくなかった。
朝食を口に頬張りながらテレビを見る。既視感ある――昨日と同じようなニュースがタラタラ流れている。アナウンサーが殺人事件の報道をした。あらかじめ決められた台本を淡々と読み上げる。そこで俺はまた思い出す。
「うっ……」
せっかく胃に収めたものが喉を逆流する。
急いで水を飲みほして胃へと押し戻す。
吐きかけた。
すぐさまリモコンを手に取り、テレビをすぐ消した。昨日のあの事故のことが流れないか怖くなった。あの事故が今流れたら絶対吐くから消したのではなく、流れるとおそらく自分がもう立ち直れなくなると感じたから消した。
ふぅ。
ため息に似た呼吸をした。
みんなになんて言えば良いんだ。学校側は特に配慮するわけでもないだろうし。
朝食を食べる。学校の支度をする。着替える。靴を履く。ここまでは順調だった。

玄関の扉を開ける。その一動作ができない。手が、震える。

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