白い魔女に魅入られて

シミシミ/shimishimi

決断 大切な人と世界のために、あなたに言います。

「必ず助けるから」
と、病室で彼女に誓った。

血が所々飛び出た体で病室に飛び入った第一声がその言葉だった。
閑散としていた病室に女性が一人、ベットの脇に座っていた。
彼女は満開の桜が風で舞いつつあるのを眺めている。俺に振り向きもせず、桜をただただ眺めていた。
今にも儚く散りそうな姿で。

彼女はもともと心臓が悪くよく入院した。
入院する度によく心配はしたが、見舞いには行かなかった。
彼女がそれを拒むからだ。
彼女は友人や家族に見舞いには絶対来てほしくないと言っていた。
以前、彼女が元気だったときになんで見舞いに来てほしくないのか聞いたことがある。
友人が去った後の孤独感とか虚無感に耐えられないと言っていた。
だから、今の今まで彼女が入院しても見舞いに行かなかった。
彼女も入院したことを誰にも話さなかった。
しかし、今回は違う。違う。違う。
会わないと、会わなければいけないと思った。
彼女が入院したと聞いた瞬間、嫌な予感がしたからだ。
たとえ、彼女が拒んだとしても今会わないと絶対に後悔する。
彼女は僕の友人であり、親友でもあり、恩人でもある。


病室から出てエレベーターの前に行くと簡易的なソファに白衣を着た女性が座っていた。
よくここが分かったなと思いつつ、その女性をぼんやりと眺めながら近づいた。
天才にはできないことなんてないんじゃないかと思った。
白衣の女性は所々黒いススで汚れ、破けていた——破れていたといってもどこかで切ったような痕しかない。
彼女の白衣の下の服は洗濯すれば落ちる程度に汚れていた。幸いにも、彼女は俺みたいに切り傷や血が出ていなかった。白衣が多少汚れているせいか彼女の肌はいつに増して白く見えた。彼女の綺麗な白い顔も切り傷一つない綺麗な顔だった。
これもすべて白衣のおかげなのかもしれないな。
詩織しおり……俺は……」
彼女の名前は加藤詩織かとうしおり。物理の教授であり、この世を覆すと期待された天才から天才と言われてた人間。
詩織は俺をじっと見つめて待っていた。俺が何を決断し何を諦めるのかを。
思えば、詩織と出会ってからの日々は壮絶だった。出会って数日しか経っていないはずなのに数週間、数ヶ月、一緒に過ごしていた気がする。
詩織が俺の答えを待っている。決断しなければ……
ふぅーと白い息を吐き出し、ふと窓の外を見た。雪と桜が風に吹かれ綺麗に散っている。
「雪が降ってるなんて……世界がおかしくなってる証拠ね」
「桜もだよ」
俺は小さく呟いた。
もうとっくに桜の季節はおわっているのにな……と心の中で呟いた。

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