心霊便利屋

皐月 秋也

第3章 能力の発現

第3章 能力の発現
 彼女の自宅に到着した。
 前に一度来た時は純粋に仕事だったため(今回のそのはずなんだが…)、そこまで身構えることはなかったが…

 「黒衣さん、お茶でいいですか?っていうか、何でたったままなんです?」

 あ、ホントだ。

「ごめんね、女性の家なんて久しぶりだからっ」

「本当ですか?それ」

 クスッと笑われてしまった。

 俺はテーブルに向かって座ると楠本さんはカラフルなお盆にのせたお茶を置いてくれた。

 コトッ

 「どうぞ。」
 「あ、ありがとう。」

 だめだ、まだ慣れない。我ながら情けない。

 「そういえば…」
 
 そう言うと彼女は上を向いたまま顎に指を当てて

 「前、ここに柳田さんが来たじゃないですか?」

 「はい。」 

 「どうやって私の家がわかったのかな?」

 「色んな場合がありますよ。誰かに聞いたり尾行したりとか調べたりして生前からわかっていた場合。それと霊体になった後に尾行した可能性だってあります。後は、知らず知らずのうちに楠本さん自身が呼び込んでしまった場合です。」

 楠本さんは少し考えた後、

 「私が敢えて呼んだりはしないから、無意識で?ってことですか?」

 「その可能性もあるってことです。怨みや、妬みの感情って凄い力を生むことがあるんです。その気持ちを自分に向けられた場合は特に。」

 「そうなんだー。じゃあ私が呼んだ可能性が高いのかも…」

 確かに。

 でも、防ぎようがなかったんだから気にしないでと言おうと思ったら先に楠本さんが口を開いた。

 「あの男の事、最初からわかってればこんなことにはならなかったかも知れないのに…」

 自分の腕にあるアザを撫でながら、肩を落としていた。

 「それでも、まだ彼氏さんには気持ち残ってますよね?簡単に気持ちの整理がついてたら、ほとんどの霊なんて存在できなくなりますし。」

 「それが不思議なくらいないです。もちろん良い思い出もありますけど、最近はうまく行ってなかったし、浮気もされてたこともわかって、最後には夢の中で何度も殺されかけたりなんかすると…」

 まぁそれじゃ無理もないよな。

 「だから黒衣さんを家に呼んだりした訳じゃないですよ?私一人じゃなにもできないし、あなたなら信用できるから守ってほしくて。もちろん仕事だってわかってます。でも拠り所がなくて…」

 俺は微笑みながら彼女を見た。

 「大丈夫です、俺達が全力で守りますから。」

 「はい!やっぱり黒衣さんに頼んでよかったっ」

 {…ト……テ……イ…ナ……}

 まただ。ノイズのように不鮮明な声が聞こえる。

 もちろん楠本さん本人は気づいていないようだし、これは彼女の持つ能力か何かなんだろうか?
 そういえば相良には聞こえていないようだったな。

 …キィィィン…

 おぃ、嘘だろ!

 楠本さんは体を強張らせながら俺の腕にしがみついてきた。やっぱりこの音も聞こえてるのか。
 また部屋の電気が全て消えると、暗闇の中にはっきりと白い靄が集まりまた女性のシルエットを作り出す。

 …やはり柳田さんで間違なさそうだ。

『…コレ以上…イデ…関ワラナイデ…』

 そう言い残すと柳田さんの霊は消え、電気が付いた。

 「…どういうことなんだ。」

 柳田さんは彼女を守ろうとしてる?
 確かに、以前姿を表したときも楠本さんに対して敵対心や、悪意などは全く感じられなかった。

 「あの人、なんで私に逃げろって…?」

 「わからない。でも、楠本さんに危害を加えるために来た訳じゃないんだと思います。」

 「…彼の浮気相手が私を守る?意味わかんないし。」

 俺も意味がわからん。

 「それに、こんな現れ方されたら、怖がらされてるとしか思えません!」

 「とにかく、もう遅いんで寝ましょう。また明日迎えに行きますから。」

 彼女はこちらに振り向いた。

 「あの!…泊まっていってもらえませんか?」

 うっ、、、

 期待してる自分も確かにいたが、さすがにこれはだめだろ…

 「すみません、そればっかりは…」

 「っ、怖いんですっ!また現れたらって思うとっ。ね、寝れる訳ないじゃないですか!」

 楠本さんは、目に涙をいっぱいにためていた。

 仕方ない。よな、この状況じゃ…

 「わかりました。一緒にいますよ。」

 「無理言ってごめんなさい…」

 「大丈夫です。」

 楠本さんは涙を拭った。

 「あ、先にシャワー使ってください。」

 「いや、俺は後で良いんで楠本さんからどうぞ。」

 楠本さんはいたずらっぽい表情を浮かべると、

 「なら、一緒に入ります?」

 な、なんだって?!

 「…」

 俺は口をパクパクしていると楠本さんが笑って、

 「冗談ですよっ」

 …俺は彼女に遊ばれてるのか?でも、少し安心した。

 …多分。

 二人ともシャワーを済ませ少し話した後、安心したのだろうか彼女は先に寝たようだ。
 …俺は寝れそうにない。まさかこんなことになるとは…

 …気づくともう明け方だ。ここまで何もなければひとまずは安心だな。

 少しでも休むか。
 俺は目を閉じた。

 「…さんっ、黒衣さん!」

 ん?なんだ?!

 俺はその場でガバッと起きると目の前に楠本さんの顔があった。

 「?!」

 「おはようございます♪」

 「お、おはようございます!」

 彼女は俺の顔をマジマジと見て

 「あまり寝れてないんですか?」

 「あ、いや、また何かあるといけないと思って…」

 「ありがとうございます。朝御飯出来てるんで食べてください」

 テーブルに次々並べられた朝食を見て驚いた。
 ご飯に味噌汁とアジの干物、卵焼きにお新香。
 日本人もビックリの和食だ。

 俺に合わせてくれたんだろうか?

 「いただきます!」

 …めちゃくちゃうまい!ご飯はちょうど    
良い炊き加減で、味噌汁も出汁が効いてて
うまい。
 卵焼きはだし巻きだった。
 見た目は違ってもこの子は完全な日本人なんだな。

 「…どうですか?」

 楠本さんは不安そうに聞いてきた。

 「いや、めちゃくちゃ旨いよ!俺普段はパン食だから、こんなちゃんとした朝御飯久しぶりだよ!」

 あ、普通にタメ語で話してしまった。

 「よかった!ママがいつも作ってくれてた朝御飯なんですっ」

 「そうなんだ。お母さんも料理が得意だったんですね!」

 「はい、ママの手料理大好きです!」

 母親の手料理か…

 俺の両親は小3の時に死んだ。
 もうそれまでの記憶なんてほとんど残ってないな。

 プルプルプル…

 徹から電話だ。

 「もしもし。」

 「晃、来客だぞ。依頼の話らしい。どうする?」

 「相良さん?」

 楠本さんが小声が聞いてきた。
 俺がジェスチャーでそうだと伝えると、

 「晃、なんでこんな時間にクレアちゃんが側にいるんだ?」

 「ああ、昨日色々あって泊まったんだよ。」

 「……」

 「徹?」

 「…お前、やりやがったな?」

 「やるって何が?!」

 「違うのか?」

 「当たり前だろ!昨日、柳田さんの霊がまた出たんだよ!」

 「まじか?!クレアちゃんは無事か?」

 「あぁ、無事だよ。」

 「よかった!とにかく早く来い。話だけは聞いておいた方がいいだろ?」

 「そうだな、すぐ行く。」

 俺は電話を切った。

 「楠本さん、今から家の事務所まで行くんですけど、一緒に来ます?」

 「はい!すぐ準備しますね。」

 俺達はすぐ準備を済ませ、タクシーで事務所へ急いだ。

 事務所に着くと、和服を着た中年の女性が来客用のソファーに座っていた。

 「あなたが黒衣晃さん?はじめまして。瀬戸と申します。」

 「はい、はじめまして。黒衣と申します。」

 「あなたがねぇ。…確かに何かしらの力があるようね。」

 俺の姿に上から下まで目線を送りながらそう語った。

 「ど、どうも。今回のご用件を伺っても?」

 「ええ、行方不明の甥、弟夫婦を見つけてもらいたいのです。それと、姪もいますがあの子はこの世にはもうおりませんので。」

 「え?」

 「この前学芸大学駅付近で火事があったでしょ?」

 「はい。あ、もしかして…」

 「そうです。行方不明になったのは私の弟夫婦の一家です。」

 「なるほど。ただ、人探しはウチの専門ではないんですが。」

 「存じております。まずは姪の魂を探して頂きたくてお邪魔しましたが、既に姪と交信はされているようですね。…ご説明頂けます?」

 「…あなたは一体…」

 「どうぞ。」

 すると、楠本さんがお茶を運んできた。
 瀬戸さんは彼女を見るなり、

 「あなた…」

 「…はい?」

 楠本さんが戸惑っていると、瀬戸さんは咳払いをして視線を俺に戻した。

 「それで、なぜ姪と交信をしていたのですか?」

 俺は楠本さんを呼び戻し、これまでのことを説明した。

 「なるほど。ではまだ姪だけが何故死ぬことになったのかは掴めてはいないのですね?」

 「その通りです。」

 「結構です。引き続き調査をお願いします。依頼料は前金を振り込んでおきますので確認してください。」

 「あの、ウチは前金や内金はいただかないことになってまして…」

 「あったら邪魔になるお金などありませんでしょ?もちろん解決していただけたら成功報酬もお支払しますから。」

 「…はい。わかりました。ありがとうございます。」

 「それと別件で楠本さんと、黒衣さん少し三人でお話しできますか?」

 「…はい。」

 「私も大丈夫です。」

 俺は相良を外させた。

 なんだろう?さっき楠本さんに何か言いかけていた気がしたが。

 「よろしいですか?」

 俺が頷くと、

 「まず楠本さん、あなたのお身内に霊能者がおみえじゃないですか?」

 「いえ、そんな話は聞いたことないですけど…」

 「では、アメリカ人であるお父様のお身内は?」

 「え?なんで、父がアメリカ人だと?」

 瀬戸さんは口元に袖を当てて

 「ごめんなさい。私も少し普通の方とは違うものを持っておりますの。それで、ご存じ?」

 何者だ、このおばさんは。

 「いえ…あ!関係ないかもしれませんけど、父方の祖母が動物と話が出きるって聞いたことがあります。大分前に亡くなってしまいましたけど。」

 …なんじゃそりゃ!動物って。

 「なるほど、こちらの言葉にすると"口寄せ"というものに近いものかも知れないですね。」

 …口寄せ。 
 死んだ魂と交信して、その魂が伝えたいことを代弁する霊能力者のことだが、それに近いのか?

 「それが私に関係があるんですか?」

 瀬戸さんは俺の方に向き直り、

 「黒衣さんならわかりますよね?」

 確かに。そうだとすると関係があるのかもしれない。

 「はい、まだ確信が持てなかったので楠本さん本人には聞いていなかったです。」

 「楠本さん、あなたはサトラレというのをご存じ?」

 「いえ、わかりません…」

 「では、落ち着いて聞きなさい。」

 瀬戸さんはそう言うと、一つ一つ丁寧に説明を始めた。

 まず、先祖のこと。次に霊との接触による能力の発現。そしてその力の制御方法。

 正直驚いた。
 あの声が楠本さんの心の声なのは感づいていたが、サトラレの一つだったとは。

 サトラレ…本人の意思とは関係なく自分の心の声が不特定多数の人間にテレパシーで聞こえてしまう能力だ。

 俺も話には聞いたことがあったが、実際に見たのは始めてだった。
 
 彼女の場合はまだ能力が発現したばかりである程度の交信力のある人間にしか聞こえないことと、その制御方法を学べば抑え込むことも可能だと言う。

 「じ、じゃあ私の心の声は全部黒衣さんに筒抜けだったの?!」

 「いえ、ほとんど聞こえてはいないはずですよ。」

 楠本さんはものすごい勢いで俺の顔を見て、

 「本当ですか?!」

 「うん、本当にノイズだらけのラジオみたいのが断片的に聞こえる感じ。それにまだ数回しか聞こえてないよ。」

 「よかった~、黒衣さんももっと早く教えてくれたらよかったのに。」

 「ごめんね、俺も何がどうなってるのかわけがわからなくてさ…」

 「とにかく楠本さん、この事件が片付い
たときにでも私の神社にいらっしゃい。」

 「私の?」

 「はい。私は岡山にある神社の神主をしております。」

 そ、そうなのか!道理で色々詳しいと思った。

 「それと、黒衣さん。」

 「?はい。」

 「あなたが扱う力は、本来人間が振るうものではありません。色んな偶然が重なってその力を得たのでしょうけれど、無闇に使えばあなたの命すら削ることにもなりかねません。」

「そうなんですか…」

 正直デメリットが何もないとは思ってなかったが、命が関わるとなると穏やかじゃないな。

 「それ、まずいですよね!黒衣さん!今からその力とやらは使用禁止ですよ!」

 「あ、あぁ。出来るだけ使わないようにはするよ。」

 「出来るだけじゃダメです!」

 「わ、わかった!」

 瀬戸さんはニコニコしながらも少し寂し気にこちらを眺めていた。

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