何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

28.贈り物



 『ししょ? ししょ? あっ……だいじょうぶ?』


 エルフの少女が私の前で屈みながら話しかけてくる。


 『また帰ってきたのか……』


 私は起き上がりこちらを見つめる少女の顔に向け手を伸ばし、全力の拳で一発殴る。


 「ッゥ゛」


 そのまま地面に転がり少女が手に持っていた野菜が転げ落ちる。


 「……」


 いつの間にか先程まで騒いでいた門番と姉妹がこちらをただ見つめていた。だがエルフ語を喋っているから理解はしていないだろう。


 「で、その姉妹はお前が連れて帰るのか?」


 「っ……お、お願いします」


 門番は一度姉妹を見、力強く抱きしめ震えた声を出す。


 「私の体はどうなってもいい、ラルクさん……ラルクさんどうか、どうか娘たちだけでも帰して——」


 「ああ、別に構わない。お前たち3人で帰ればいい」


 門番の言葉を遮り手で追っ払いながら帰るように促す。


 「え……でもラルクさんの実験は?」


 「いつもどおり死亡した。帝国だってそうゆう報告が欲しいんだろう」


 そう、だから私のところに来たのであろう。この姉妹は。
 私のところは誰一人生きて帰ってはいないのだから。


 「あ、ありがとう。本当にありがとうございます!」


 「後続の門番には俺から言っとくが……その前に確認だがお前は馬鹿ではないよな?」


 言われた門番は何のことか最初分からない表情をしたがすぐに理解した。


 「えぇ、全て理解してます。公言など致しません。……ほらラーネ、カーラ帰ろう」


 門番が姉妹の手を引き出口に向かう。


 「お父さん、あの女の子大丈夫かな……」


 妹が立ち上がり埃を払っているエルフの少女の横を通る時に小声で父に語りかける。


 「ラーネ、そうゆうのは今気にしなくていいの」


 姉がそんな妹の肩を後ろから押して進ませる。


 「ああ、待て。これをやる」


 そう言い胸から赤黒い塊を取り出し少女に向けて放り投げる。


 「えっ――イタッ!」


 「……お姉ちゃん大丈夫?」


 塊は振り返った姉の顔に当たり甲高い音を出しながら地面に落ち。それを見ていた妹がすぐさま姉の顔をさする。


 「……うん、大丈夫。――ックッサ!」


 姉はすぐさま鼻を覆い、落ちている匂いの原因を蹴り飛ばす。


 「ラルクさん……それは?」


 「少し汚れているが金塊だ。その姉妹にやる、それでパン屋でも開けばいい」


 それを聞いた門番の顔はすぐさま怒りに満ち溢れた表情に変わった。


 「……ラルクさん、最初から逃す気がないならそう言えばいい、貴方がってことを私が知らないとでも思いましたか……」


 「……はぁ」


 影を伸ばし門番の首元を掴みあげ、出口の外に放り投げる。


 「な、ッガ――」


 「お父さん!」


 妹が出口で気を失った父に駆け寄り、姉の方はどうしたのかと見ると鼻を押さえながら私を恨めしそうに睨みつけてた。


 「やっぱり帰さないじゃん。……この嘘つき」


 「……」


 赤黒い汚れた金塊の塊を影で跳ね飛ばし、放物線を描かずにまっすぐ姉の腹に入る。


 「ッ――」


 涙を浮かべながら腹を押さえのたうちまわる。


 「お姉ちゃん! お父さん殴っても起きないよ! え、お姉ちゃん?!」


 出口から顔を覗かせた妹が今度は姉の方に駆け寄ってくる。


 「ああ、もういい。お前がこの金塊を持ってさっさと帰れ」


 金塊を手で掴み妹の胸に押しつける。私の顔と金塊を何度か見たあと妹はそれを両手でゆっくり掴む。


 「っう、重いし臭い……。何でこんな石くれるの……」


 「……いいから持って帰れ」


 金になるとはまだ知らないみたいだが、あとあと役には立つだろう。


 「お姉ちゃん、大丈夫? 一人で歩ける?」


 「う、うん。ありがと、まだちょっと痛いけど平気」


 妹は姉を支えるように金塊を持ちながら隣を歩き、出口に向かう。




 ……コト




 後ろで物音が振り返ると宝石の装飾が付いているペンダントが地面に落ちていた。
 あれは作業台の中に入れていたはずいわくつきの物……侵入者か?


 ――あーなんてことだ、違う。


 犬だ。


 2匹の小さな犬の魂が少しずづ少しずつペンダントを姉妹の方に押していた。


 ああ、凄い……凄いぞ。こんなにもはっきりと目や毛が見える魂があるなんて。


 「?」


 エルフの少女も音に気づいたのか。ペンダントに歩いて行き、子犬を気にも留めないで拾い上げ作業台の中に入れようとする。
 子犬も抵抗しようと鎖部分を2匹で咥えてはいたが力が弱いのかあっさり抜け落ち大して効果はなかったようだ。


 「まて、それを持ってこい」


 「……?」


 首を傾げながらもエルフは私の方に駆け足で来る。そしてその後ろを子犬がペンダントを奪おうと飛び跳ねる。


 「それとお前たち姉妹も少し止まれ」


 出口を影で塞ぐ、姉妹も止まりこちらに顔を向ける。


 「……どうしたの?」


 妹の声を無視し、ペンダントをこちらにかかげるエルフから受け取り。装飾や開いて中の両鏡を眺める。ごくごく普通のなんて事のないペンダント……。


 目線を下で今だに跳ねている2匹の子犬に移し、手を伸ばすがやはり通り抜ける。……ペンダントは運べたのに触れない。


 「帰らせてくれないの……?」


 姉妹に目を向ける。犬は彼女たちに持っていこうとした。ならば原因は私にあるのではなく彼女たちにある。本当に惜しいがこれは、この現象は彼女たちの物だ。


 ペンダントを開き……折り曲げ二つにする。


 足元で子犬たちは目を見開いた後、体を前かがみにして口をパクパクさせる。吠えているのだろうが音は聞こえない。しかし何をそんなに怒る必要がある? 姉妹が2人、犬も2匹。ならペンダントも2個の方が都合いいだろ。


 割れたペンダントを放り投げ、影の手で握り姉妹たちの方に運ばせる。


 「そのペンダントをあげよう。それぞれ1個もってけ」


 「えっ……じゃわざわざ壊さなくてもよかったのに」


 姉は微妙な顔でそう言いながらゆっくりペンダントに手を伸ばし鎖が付いた方を手がふさがった妹の首にかけ、もう一つを自分のポケットにしまう。


 子犬たちはというとそれぞれ姉と妹の周りをベロを出しながらくるくるずっと尻尾を振りながら回っていた。


 「? おじさん、用事はこれだけ?」


 出口を塞いだ闇を解く。


 「ああ、帰っていいぞ」


 私の言葉を聞き姉妹はそそくさと部屋を出て行った。


 ――その瞬間だった。一筋の冷風が姉妹を追うように吹く。すぐさま姉妹の後方に遮断するように影の壁を展開する。


 『? ししょどうしたの?』


 その後、地面それと自分とエルフの少女にも闇を展開し空気中の魔力を無くすように吸収させ。常に周囲を見渡し敵が現れてもいいように準備する。


 だが1分ほど経過したが人の姿はない。……気のせいか?


 「……っハァ、ハァハァ」


 エルフの少女が胸を押さえ呼吸が出来なくもがき苦しむ姿を横目に見ながら、地面の闇を解除する。


 『ッカ、ッはぁッっはぁ……。ししょ……敵が、いたの?』


 『いや……気のせ――』


 そこまで言って気が付いた。自分の闇に集めていた魂と部屋に漂っていた魂が明らかに減っている。


 急いで作業台の中のいわくつきの物を確認する。そんな……空だ。物についていた魂がほとんど消えている。


 ――さっき冷風か。


 「…………っはぁ……」


 私は顔に手をあてながら作業台で体を押さえ座り込む。


 『ししょ……どうしたの?』


 エルフの少女が不安そうにこちらに聞いてくる。


 『…………集めていた魂が全部姉妹に付いていった』


 『あー……ししょ人気なさそうだもんね』


 そう言って笑いながら俺の横に座る。


 『ねぇ、ししょ……』


 既に門番も起きたのか誰一人いない出入口を惜しそうに見ながら自分のお腹を触り聞いてくる。


 『……なんだ』


 『きょうの夕飯はおにくなし……?』


 『……ああ』


 『……そっか』


 少女のお腹が鳴る。


 「ッごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 反射的に何かを怯えるかのように隣でうずくまる。


 「…………はぁ」


 影を伸ばし山の斜面にいたイノシシを闇で包み込み引きずり込み、原型がとどめないほどに毛や骨が混ざった肉の塊になって音を立てながら洞窟内に落ちてくる。


 「……」


 少女が音に気付き肉を見た後、私の方を見る。


 『なんだ……』


 そうゆうと少女は少し笑う。


 『……ううんなんでもない、ししょありが――』




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 お腹を引き裂かれた痛みに目を覚ます。一定のリズムで電子音が鳴り、白い天井に点滴、器具などが目に見え口にマスクをつけられている。


 手術室だ。


 おかしい私は火傷の治療が終わった後、発音の練習をし部屋で寝てたはず……なぜ手術室にいる?


 「X線はどうですか?」


 「いや、未だに何も見えない。真っ黒だ。それに見ろ臓器にちゃんと色が見えているから別に体内に闇を放出させているわけでもないようだ」






 

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