何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

22.被害者と被害者





 観客席から落ち、転げまわった桐ケ谷は燃え上がっていた。火系統か、彼の体は赤く発光し輪郭しか見えない……先ほどまで着ていた制服は炭になり風で飛ばされ雨に地面にたたき落されていた。……解除したら彼は裸になるのだろうか。


 系統のものを出すぐらいは他愛のないことか……と思って観客席を見たが驚愕の表情を生徒たちは浮かべている、違うな。


  神田
 「へぇー、努力したねー桐ケ谷君は……」


 だが手すりに寄りかかっている何気ない表情の神田からそんな言葉が聞こえた。……努力したらできるレベル?


 私も闇を出せるは出せるが、彼に対する努力したという評価は過去のデータを見ているのかそれとも今の現状を見て評価しているのか分からない。この状態で彼と同じよう出してしまうのはまだ危険だ。


 雨水が桐ケ谷に当たり蒸発する音が雨に紛れて聴こえる。彼は左手を地面から離し立ち上がる。全身から炎が出ていたが、なぜか彼の顔だけは燃えていなかった。


 なぜそんな明らかな弱点を作るんだ? 顔まで広げればいいのに……ああ、そうか。顔まで燃やしたら目が見えないか……でもそうなると今度は目だけ残せばいいのにという疑問が出てくる。


 桐ケ谷 海斗
 「フゥゥ……フゥゥ……黒須ゥッ!」


 息を荒らげながら桐ケ谷が地面を蹴飛ばし、こちらに走ってくる。歩くたびに彼の足元の水が蒸発するのを見ると彼の体は既になかなかの温度になっているようだ


 もともと私も観客席に近かったので桐ケ谷にはあっという間に接近され、首を掴まれ体重を乗せられそのまま濡れた地面に倒され泥が飛び散る。私の上に跨り体重を乗せて首を絞めてくる、熱で焦げ臭いにおいが香ってくる。ア――これ嗅ぐのはずいぶん久しぶりだ。


 だが余韻に浸っている時間はない。少ししたらすぐに首の気管まで燃えている手が到達して露出し穴が開いてしまう。そうなったら普通の人間は生きてなどいけない。


 神田は同化のような話は一切していない。彼女が認知していない、秘匿してるだけの可能性も高いが、少なくとも学生には伝えない、伝える必要がないってことだ。つまり現状絶対に使えないという判断がされていて今の桐ケ谷にも物理的な攻撃は十分に通る。


 私は乗っかられている状態から手を動かし燃える桐ケ谷の首に手をかけ首を折ろうと力を籠める。当然手に伝わる熱は凄まじく、前腕から先の皮膚が焼けただれ始めた。


 桐ケ谷
 「ッハ、馬鹿かよおめぇ。俺を絞めるころには死んでるぜ」


 桐ケ谷はそんな私を見て笑い、締める手にさらに力を籠めてくる。喉の奥にまで熱が通り焼ける。だが所詮は黒須の体でしかない、そんなことなど気にせず目一杯の力で桐ケ谷の首を絞める。


 桐ケ谷
 「なッゴ――」


 ジワジワなんて力を入れている暇はない。私の手からこもった音が聴こえ無数の針を握っているかのような痛みが走る。指の骨が粉々に砕けたのだろう。だが、私は一切力を緩めることなくさらに力を上げる。


 桐ケ谷の首から鈍い音が聴こえた。


 桐ケ谷
 「ッァ……ァァ」


 桐ケ谷の炎が消え去り私の首を絞めていた手は力なく緩まって口から泡を吐き出しながら彼は隣に地面に顔を付け、倒れた。


 コロシアムに降る雨がそんな彼を打ち付けていく。


 神田
 「え……フフフフ、桐ケ谷君炎まで出したくせに黒須さんに負けるとか。はっはは!」


 私は濡れた地面に寝っ転がったまま自分の手を見る。指には皮はなく、焼けた骨と筋肉繊維が露出していた。その手で自分の首を触ってみると桐ケ谷の手の形に焼け首がへこんでいる。あと少しで遅かったら穴が開くところだっただろう。すると突然、目の前に0と書かれた数字と1本の横棒が表示された画面が現れ耳に高い音が鳴り響く。


 神田
 「っあ、桐ケ谷君死んだ……ハハッ、あんなに炎出してイキリ散らしてたのに黒須さんに随分あっけなく殺されたねー」


 なんだこの棒は……先ほどから微動だにしないし、数字も変化しない。脇目で桐ケ谷を見ると既にどこからか飛んできた緑色のドローンが桐ケ谷を運び出していた。結衣の時は+マークがあった赤だったが……生きているか死んでいるかどドローンが違うのだろうか?


 ムーア
 「……神田先生、桐ケ谷さんの遺体はこれからどうなるのですか?」


 観客席を見るとムーアが桐ケ谷を指さして神田に質問をしていた。笑顔かと思ったが彼の表情はいたって普通の真顔であった。


 神田
 「学園の遺体安置所で解剖とか行った後に家族の元に返されるわよ」


 神田は後ろを振り向き、ムーアを見つめ答える。


 ムーア
 「あー、ちゃんと家族の元に返されるんですね」


 神田
 「当たり前でしょ。この学園を何だと思っているのよ」


 ムーア
 「っはは、そりゃそうですよね」


 ムーアは笑い、じっと桐ケ谷の死体を見つめた後、私を見て微笑んだ。


 神田
 「はい皆、戦い終わったことだし、各自で2限に間に合うように帰っていいよー。残り時間は好きに遊んでくれても構わないから」


 神田は生徒たちを教室に帰らせるように手を振って追い払っていく。前の席に座っていた生徒たちから徐々に立ち上がり出ていく。


 そして神田は思い出したかのようにこちらに振り向いた。


 神田
 「……っあ、勝負も終わったことだし私たちはこれから授業に戻るけど、黒須さんはその怪我じゃ授業は受けられないわよねー」


 陽気そうな声とともに神田はこめかみに指を当てタップすると今度は私の上に2台のドローンが飛んできて止まる。緑ではなく+マークの入った赤色のドローンだった。


 そして両脇をドローンから出たアームで掴まれそのまま上空に連れていかれた。


 

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