何で死ぬのに生きてるのですか〜ネズミに転生した最強闇魔法使い、銀髪の少女のペットになる〜

にくまも

16.加害者と被害者

 


 教室の生徒たちは最初こそ結衣の方に視線が行っていたが、もはや皆、今では桐ケ谷を恐怖の目で見ている。


  黒須
 「こ、殺し合い…………?」


 黒須はその言葉を聞き、酷く怯え声を震わせながらもう一度問いかけたようだが、それにこたえる者はいない。


  ムーア
 「……先生、それはコロシアムでってことですか?」


  神田先生
 「はぁ、当たり前でしょ」




 神田はため息をつき、呆れた顔でムーアを見る。


 ……今日の神田はいつものふわふわしたものではなくテンションが低いようだ。




  ムーア
 「それは他人の申請でも許されるのですか?」


  神田先生
 「……逆に聞くけどなんで申請されないと思ってたのよ。学園に来るときAIがそんなこと言ったー?」


  ムーア
 「……」


  神田先生
 「言ってないよね。足引っ張る非生産が許可されるってしか。桐ケ谷さんはこのクラスで一番魔法が使える、そして現状にある君たちの価値はそれが全て。なのに邪魔したんだから許可は下りるわよ」




 なるほど、魔力が価値を決めるのならばそれが劣る結衣の態度は明らかに桐ケ谷へのストレスになったであろう。それもまた足を引っ張ったに含まれてしまうのか。


 この学園では人数の暴力は許さない。個人での強者が絶対的という訳だ。


  ムーア
 「……」


 もうムーアに質問がないと判断したのか神田はふらふら立ち上がる黒須と今だ横になりお腹を押さえて泣いている結衣を見る。そして結衣のほうに歩いていき片腕を掴み引っ張り上げる。


  神田先生
 「いつまで寝っ転がってるの。早く立ち上がりなさい」


  中院 結衣
 「……ッス…………ッス」


 神田に引っ張られた結衣はよろめきながら立ち上がる。


  桐ケ谷
 「で、先生。許可が下りてからどれくらいで殺り合うんですか? さっさと見たいんすけど」


  神田先生
 「何言ってるのよ、今からに決まってるでしょ。」


  桐ケ谷
 「お! まじすか! っしゃぁ」


 桐ケ谷はガッツポーズをしながら喜ぶ。


 黒須と結衣、お互い殴られたといえ明らかに結衣の方がボロボロの状態であった。だが考えてみればストレスを与えたという加害者なのだから温情もないのだろう。


 そういえば結衣は殴られ反論の元気もないのかもしれないが黒須がやけに静かだ。これから殺し合いをさせられると聞いたならもっと騒いでもいいはずなのだが。


  黒須
 「……」


 ――彼は笑っていた。何の笑みなのかは分からないが確かに彼は顔を下に伏せながら笑っている。


  神田先生
 「黒須さんは一人で歩けるよね?」


  黒須
 「……はい、大丈夫です」


  神田先生
 「じゃ問題は中院さんね。……ムーアさん、伊藤さん。中院さんに肩でも貸して連れてって」


  ムーア
 「はい、分かりました」


 ムーアはすぐに答える。だがしかし伊藤はびっくりした顔を神田に向けた。


  伊藤
 「え!? 私もですか?」


  神田先生
 「あなた達仲いいじゃない。別に何そんなに驚くことがあるの?」


  伊藤
 「っあ、いや別に私も問題ないです」




 ムーアと伊藤が飲料がこぼれたりとぼろぼろの結衣に肩を貸し、歩き出す


  桐ケ谷
 「早く歩けよ」


 桐ケ谷がもたつきながら歩く結衣にいら立ったのか、背中に向かって蹴りを一ついれる。そのせいでムーアと伊藤はバランスを崩す。


  ムーア
 「……桐ケ谷さん、僕の身にもなってよ。バランスが崩れて歩きにくくなる」




 ムーアが笑顔で振り返り、桐ケ谷に文句を言う。


  桐ケ谷
 「っあ、わりぃ。つい蹴飛ばしちまった。すまん」




 桐ケ谷は頭を掻きながら謝り、戻る時に目線がちょうど私に向いた。


  桐ケ谷
 「おい、中院。忘れ物だぞ」


 桐ケ谷はそう口にするとそのまま私を掴み、入口の壁に投げつける。


 放物線を描きながら飛ばされる。ここで魔法を使ってしまってはバレてしまう私は甘んじてそれを受け入れ、そのまま壁にたたきつけられる。




 「ッキ!」




 背中から当たりとっさに声が出てしまう、徐々に背中の痛みが体全体に広がっていく。


  中院 結衣
 「――きなこ!」


 結衣が私のところにふらふらになりながらも駆けつけ、抱きしめる。


  中院 結衣
 「っなんで!」


  桐ケ谷
 「ネズミも連れて行けよ」


  中院 結衣
 「きなこは別に関係ないでしょ」


 結衣は自分の体を桐ケ谷と私の間に入れるように姿勢に変える。


  桐ケ谷
 「はははは、あー、そいつの名前きなこっていうのかー。別にいいよ、俺は、ただ帰ってきたときに本当にきな粉みたいになってなけりゃいいなー!」




 桐ケ谷は歪んだ笑顔を結衣に向け、微笑む。




  中院 結衣
 「――分かった。一緒に連れていく……」





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